限りなく事件性のある
新しい入居者が決まれば、賃貸契約などでは、その時点で、掃除や改修などを行うというわけで、今回は、そういう意味で、
「前の住人の痕跡が残っているのではないか?」
とも思えたので、正直、オーナーは、ビクビクものだった。
それだけ、前に住んでいた連中が、
「怪しい連中だ」
と思っていたからで、今潜伏していたやつが、どういう人間か分からないが、
「オーナーに黙って住んでいる」
ということで、当然、
「住まいは前の痕跡そのものだろう」
と思われた。
だが、実際には、ほとんど、前の痕跡はなくなっていた。
そもそも考えてみれば、以前住んでいた連中が、曰くありということであれば、痕跡を残すということが、彼らにとって、安全ではないといえるだろう。
そういう意味で、
「前の痕跡があまり残っていない」
ということで、
「彼らが、やましいことをしている連中だ」
という証拠だといってもいいだろう。
とにかく、前の痕跡は、実際に、
「警察が気にする」
というものは残っていなかったということである。
部屋の中で、かなりいろいろ鑑識が入り捜査されたようだが、
「どうもここで、被害にあったというわけではないのかな?」
ということであった。
「争った跡もなければ、血痕が落ちているというわけでもない」
ということで、
「被害者は、どこか他で襲われて、ここに放置されたのではないか?」
ということであった。
そこで一つ考えられたのは、
「ひき逃げに見せかけようと犯人が考えたのではないか?」
ということであった。
この場所であれば、車は少ないし、スピードは当たり前に出すし、人が転がっていても、気づかずに轢いてしまうということも普通にある。
それも、うまくいけば、
「ただの交通事故」
として片づけられるかも知れないし、ひき逃げになれば、
「轢いた人間にすべての罪をおっかぶせられる」
ということになるからであろう。
ただ、別荘に潜伏していたということは、オーナーにだけは分かっていた。
というのは、
「半年前に出ていった連中がいなくなってから、一応、ヤバいものはないかということでオーナーは一通り見たのだが、その時と、明らかに、誰かが住まなければ変わりようのないという痕跡があった」
ということで、
「あの男はここに少しでも潜伏していたんだ」
と感じた。
もちろん、警察が気づくわけはない。
「まさかとは思うが、そのあたりを最初から誰かが計算していたのではないか?」
と思うと、オーナーは、ゾッとせずにをえなかったのだった。
自殺死体
それから一週間くらいしてから、今度は、別の別荘で、変死体が見つかった。
なんといっても、
「ずっと放置している」
という状態でのことなので、自殺死体が発見されたというのは、
「実に偶然」
といってもよかった。
その死体は、死後4日くらいではないかということで、こちらも、
「争った跡も、不審なものもなかった」
ということであった。
床に血痕があったが、
「服毒自殺」
ということでの、吐血ということから、
「これも当たり前のことだ」
ということであったのだ。
ただ、警察としては、
「なんでこんなところで自殺なんかするんだ?」
というのが気になるところであった。
もう一つ気になったのは、
「遺書がない」
ということであった。
「状況からすれば、自殺で間違いないのではないか?」
ということであったが、
「遺書がない」
ということと、
「どうして、こんなところで自殺なんか?」
という疑問を呈した刑事がいたので、
「念のため」
ということで、司法解剖に回されたのだ。
だが、結果は、別に不審なこともなく、
「自殺で間違いない」
という所見から、
「事件性はない」
と思われたのだ。
しかし、
「なぜ、ここで自殺が不審なのか?」
ということであるが、その理由としては、
「こんな廃墟のようなところで自殺をしても、その死体が発見されないではないか?」
ということであった。
「遺書でもあれば、まだわかるが、遺書もないということは、自殺ではない可能性がある」
というのであった。
しかも、この男の自殺原因を考えてみると、
「元々、会社を経営していたが、零細企業ということで、少し前に起こった、物価高の煽りを食らって、会社が倒産してしまった」
ということであった。
「従業員を首にすることもなく、何とかここまで粘ってきたが、もうどうにもならなくなり、そのための自殺ではないか?」
ということであった。
遺書がないので、ハッキリとしたことは分からないが、
「十中八九間違いないだろう」
ということであった。
ただ、
「社長が失踪した」
ということは間違いない。
実際に、生命保険にも多額に入っているということで、本来であれば、
「自殺ということであれば、保険金が出ない可能性がある」
と思われた。
しかし、
「いずれは、死体が発見され、遺書もない」
ということで、その時間が経てば経つほど、死因などに関しても、ハッキリしないということで、
「服毒自殺」
ということであっても、
「そもそも、発見されにくいところ」
ということであれば、
「殺人の可能性もある」
ということで、捜査が進むと考えた。
殺人であれば、
「保険金も出る」
ということで、社長の思惑通りとなることだろう。
「保険会社だって、俺一人くらいのことで、潰れることもないだろうし、そのおかげで、従業員が何人か助かれば、自分の命も無駄にはならない」
と考えたのかも知れない。
この計画を、実は、奥さんは分かっていた。
だから、保険金が下りてからというもの、奥さんも、そのうちの半分は、倒産した会社の従業員に与えていたということで、従業員も、そのことを公にするということはしなかったのだ。
「せっかくの社長の好意」
というものを考えると、
「俺たちが、逆らうなどありえない」
ということであり、
「社長の気持ちも無にできない」
と考えたのだ。
ただ、今回の事件で、一つ警察が発見したものの中に、
「なぜ、こんなものが?」
というものがあった。
それは、
「血に染まったナイフ」
であり、それがどこにあったのかというと、
「吐血と思われた血痕の近く」
だったのだ。
だから、警察も、最初は吐血だと決めつけていたが、実際にはそれ以外の血もあるということで、鑑識が調べると、
「ナイフの血と、床に落ちていた血が同じものだ」
ということが分かったのだ。
ただ、その血痕とナイフは、自殺した社長の痕についたものということで、
「被害者の自殺とは関係のないものだ」
ということだったのだ。
そもそも、血に染まったナイフに、自殺をした社長の指紋が付着していないということから、
「おかしい」
と感じていた。
自殺をしたのは、
「人を殺してしまったから」
ということによるものだということであれば、
「自殺で間違いない」
といえるのだろうが、この事実があることで、一人の刑事が、
「本当に自殺なのだろうか?」
作品名:限りなく事件性のある 作家名:森本晃次



