限りなく事件性のある
「どうも、何かショッキングなことを見たことで、一時的な記憶喪失になっているのではないか?」
ということであった。
「すぐに記憶が戻る可能性もあるが、なかなか戻らないこともある」
ということで、
「これは、何ともいえない」
という見解から、
「近くで、自殺と、事件につながる血痕とナイフが見つかった」
ということから、刑事が気になったというよりも、博士の方が、意識することになったといった方がいいかも知れない。
「記憶喪失の男が誰なのか?」
ということは、警察の捜索では、なかなか判明しなかった。
「殺害されたわけではないが、傷害事件ということで、事件性は強いことから、捜査本部もできていて、身元確認ということに全力で当たっている」
というにも関わらず、
「まったく今のところ分からない」
ということで、少し、いら立ちもあるのであった。
「公開捜査と行こうか?」
という話になると、誰も反対する人はいなかった。
もっとも、一番強く公開捜査を熱望したのは、博士だった。
「とにかく、本人が誰なのかが分からないと、先に進まない」
ということからであった。
実際に、警察からも、
「全面的な協力」
というものを依頼されていたので、自分としても、
「まったく前に進まない」
というのは、一番いら立ちが募るということで、
「公開捜査」
というのは、
「願ったり叶ったり」
ということであった。
彼は、
「青島博士」
と言われる心理学の権威であった。
青島博士の権威というのは、県警内部では定評があり、
「今までに、何度も事件解決に協力してもらった」
ということで、実際に、
「捜査方針に対して、唯一外部から意見を言える立場の人だった」
ということである。
一種の、
「有識者」
といってもいい。
立場的には、
「第三者委員会」
といってもいいだろう。
それこそ、
「顧問か、後見人」
といってもいいくらいであった。
青島博士の診療というのは、独特なもので、
「被害者の身元が分からない」
ということで、いら立ちが結構強かったのだが、これも、博士の性格的なもので、自分の中で、
「ピークにもっていく」
ということができれば、冷静になることができ、そのおかげで、それまで思いつかなかったことに気が付くということになるのであった。
記憶喪失者の正体
青島博士は、
「途方に暮れる」
というような状況に陥った時、敢えて、
「科学捜査」
というものに頼らないということを考えるのであった。
つまり、
「デジタルではなく、アナログ」
ということで、ネットで調べればいいものを、わざわざ大学の図書館に籠って、難しい医学書などに目を通すのであった。
というのは、
「初心に帰る」
ということが重要だと思っていて、それこそ、
「学生時代を思いだす」
ということで、
「そこに活路を見出す」
と考えるのであった。
だから、ひどい時は、ケイタイの電源を切ったり、
「朝から、パソコンの電源を落とす」
ということをしたりしていた。
とはいえ、さすがに、連絡が取れなければいけないわけなので、
「連絡を取るためだけの携帯電話」
というのは、持っているようにしていたのだ。
「それだけ、極端な時期を、数日過ごす」
というだけで、本当の閃きというものが生まれるわけなので、それが、
「博士の博士たるゆえん」
ということになるだろう。
実際に、今回も、アナログ人間になったということで、思いついたことがある。
「まずは、職業だけに限って考えてみよう」
と思ったのだ。
そもそも、
「彼が何をしていたか?」
ということからであった。
すると、博士は、アナログ人間になった翌日に、ふとしたことに気がついた。
「この人は、動物的な勘を持っている」
ということだったのだ。
それが、どこか自分と似ていると感じたことから、
「医者なのではないか?」
と思ったが、すぐに、その考えを打ち消した。
「医者が医者に気づくというのは、決定的な意思の疎通のようなものがあるのだが、この人物には考えられない」
ということからであった。
そうなると、
「勘が鋭い」
ということであり、
「自分に、どこか近しいところがある」
ということを考えると、
「まさか」
と感じた。
そして、そのまさかの先にあるものとして、考えたのが、
「あの人、警察官なんじゃないか?」
ということであった。
それを、捜査本部で話をすると、まわりは、
「呆れたかのような溜息にも似たものが漏れた」
のだが、捜査本部長が、一切笑うことがなかったことで、その場は、今度はサッと緊張が走ったことで、
「そうか、それもありえるのか」
と、博士に対して、
「完全に、脱帽した」
ということであった。
そして、警察内部の人間ということで検索すると、あっという間にヒットしたのだ。
なかなか、最初は分からなかったというのは、その人が、
「元警察官」
ということだったからだ。
実際には、
「半年前まで、刑事課でバリバリの警察官だった」
ということであるが、同じ県警ということではなかった。
地域は同じであるが、近隣の県ということでもないので、実際に、
「なかなか身元が判明しなかった」
というのも無理もないことだった。
警察ほどの、
「縄張り意識が強い」
ということになれば、
「県が違えば、誰も知る人もいない」
というのも当たり前といってもいいだろう。
そういう意味で、
「その人が、どうしてあそこで、事件にまきこまれなければいけないのか?」
ということになり、それこそ、
「県をまたいだ広域捜査ということになる」
ということであった。
調べてみると、記憶喪失の人は、
「Y県警の霧島警部補」
ということであった。
年齢は、48歳。半年前までは、バリバリの警部補ということであったが、なぜか、いきなり、
「辞表を提出した」
ということで、警察を辞めたのだった。
その理由ということは、実際には誰にも分からなかった。
最初の二か月ほと、スーパーで働いていたが、すぐにそこも辞めたということであった。
家族は、
「3年前に奥さんとは離婚した」
ということで、
「娘がいたのだが、今は奥さんが引き取って育てている」
ということだった。
「もし、霧島さんが、警察を辞めた理由ということで考えられるのであれば、奥さんとの離婚が原因ではないか?」
と言われていた。
これは、警察官全員にいえるのかも知れないが、
「事件ということになると、家族を犠牲にして、仕事にまい進する」
ということで、
「警察官の離婚の原因で一番多いのが、家庭を顧みないこと」
というのが一番である。
もちろん、他の職にあるサラリーマンでも、同じような人がたくさんいるだろうが、特に警察官などというと、
「命の危険」
というものがあったり、
「自由が利かない」
ということからも、
「家族としてはいたたまれない」
ということから、
「警察を辞めてほしい」
という家族も多いだろう。
しかし、そもそも、
作品名:限りなく事件性のある 作家名:森本晃次



