予知夢を見るということ
教団の施設内に入り込み、そこで、家族とはいえ、教団から奥さんと子供を無理やり引き裂いて、家に連れて帰るということはできないのだ。
そもそも、
「母親は、自分の意思で、入信した」
ということであり、子供の桜木も、
「自分の意思」
ということではないが、
「今の状態で、母親と離れて、教団を抜けるということはできない」
と思っていた。
「血のつながりのない」
という家族ではあるが、一緒に住んでいると、
「本当の家族」
と思えてならなかった。
「血のつながり」
というだけで、ここから連れ帰ろうとする父方の家族を見ていると、
「よほど、ここの信者の方が、家族だと思える」
ということであった。
父親の家族とすれば、
「洗脳されている」
ということになるだろう。
あくまでも、
「血のつながりのある家族以上の関係はない」
とまで思っているであろうことから、
「私たちにとって、この関係は、間違っていない」
と思ってきたことに対して、
「血のつながり」
というだけで、連れ帰ろうとする家族を見ると、子供の頃はうんざりとしたものだった。
「それなのに、教団を出れば、父方の家族の世話になるということか?」
ということであったが、すでにその頃の桜木は、
「大人としての合理性」
のようなものを考えていた。
「だからこそ、教団を抜ける気持ちになった」
ということであり、ある意味、
「教団の考え方」
というものよりも、桜木の考え方の方がしっかりしているのかも知れない。
桜木が、教団に見切りをつけたのは、
「子供の頃から言っていることがまったく変わらない」
と感じたからだ。
教団とすれば、
「初志貫徹」
という考えから、同じことをいうのは、当たり前のことだtpいうことになるだろう。
しかし、成長期に教団にいた桜木とすれば、
「まったく成長のない教団にいても、俺自身の成長がないよな」
ということからであった。
別に教団がいやになったというわけではなく、どちらかというと、
「卒業」
という意識で、
「表から教団を見てみたい」
と感じたことからであった。
実際に、表から見ると、想像以上に、小さな集団に思えた。
それでも、嫌いになることはできなかったので、母親が中にいることに関しては、別に反対もしないし、連絡くらいは取ってもいいと思っていた。
実際に、
「一度抜けてしまうと、教団の施設に出入りはできないが、それまで家族として一緒にいたという人たちとのかかわりを辞めることはなかった」
それだけ、教団も、
「秘密厳守」
ということ以外では、結構寛大ということであった。
だから、
「出ていった人に対して、裏切者という感覚はない」
という。
それこそ、
「卒業」
ということで送り出すということであるが、それだけ自由なのは、逆にいえば、
「教団の秘密部分は、徹底的に厳守されていて、出ていった連中に聞いても、誰も何も答えない」
ということである。
そもそも
「秘密を知っているわけもない。秘密事項に関しては、身内にも徹底的に秘密にしていた」
ということだからだ。
「敵を欺くにはまず味方から」
というのが、教団の考え方。
「和を乱す」
ということが、、家族を作るうえでの罪悪だと思っていることで、そのあたりの厳しさがあることから、
「教団の家族を大切にする」
ということは、
「信憑性のあることだ」
と考えていたのであった。
頼子と結婚したことで、お互いに分かったことがあった。
それまでにも、恋愛期間中に、
「婚前交渉は当然のごとくあった」
ということであるが、
「泊まりで朝帰り」
ということはなかった。
それをしなかったのは、
「頼子の方の考え」
からであった。
といっても、
「婚前交渉」
というものはあるのだから、
「今さら泊まりにこだわる」
というのは、おかしいということになるのではないだろうか?
だから、結婚式の夜が、ある意味、
「初夜」
といってもいい。
実際にこの時、
「結婚したことで、相手の今まで見えなかったことが見えた」
ということで、急に嫌気がさして、
「離婚を考える」
ということが、
「成田離婚」
という言葉で言われるようになったわけだが、確かに、
「恋愛期間とは違う」
という思いを、
「頼子も、桜木の方も、同じように感じた」
というのは、否めなかった。
とはいえ、だからといって、
「離婚しよう」
などとは思わない。
むしろ、
「相手が何を考えているのか。知りたいな」
ということで、却って、興味をそそられる関係になったといってもいいだろう。
だから、
「結婚というものが、何も悪いということではない」
と二人は思っていた。
だが、最初に、
「何かおかしい」
と思ったのは、頼子の方ではなく、桜木の方だったのだ。
桜木には、
「予知夢を見る」
ということがあるので、別に隠すことではないが、
「彼女が気づいた時、少し違和感があるに違いない」
と思ったことで、
「その時の彼女の心境をくみ取って、受け止めよう」
と考えていた。
自分に、何かあるのであれば、
「相手にだってあるだろう」
というのが、当たり前の発想だったのだが、実際には、
「自分に秘密があるだけに、彼女にはない」
という、変な思い込みがあった。
だから、彼女の方が、こちらに対して不思議に感じるだけではないかと思うはずだと感じていたが、実際には、結婚してからすぐに、違和感を感じられるというのは、少し不思議なことであった。
「何だろう? この感覚」
ということであったが、それが、
「自分と同じ匂いを感じる」
ということであった。
「だから彼女は、そのことを分かっていながら、同じ匂いということで、余計な気を遣うことはない」
とでも思ったのだろうか?
「夜は長いから、言いたいことが言えるな」
と、初夜の、
「儀式」
を果たした後、いつものように、
「帰らなければいけない」
ということがない分、お互いに腹を割って話すことができると、桜木は感じたのだ。
その思いは、彼女にもあるようで、
「桜木さんと私って、似ているところがあると思っていたんだけど、やっぱりそうだったんだ」
ということであった。
「どういうこと?」
と聞くと、
「私も実は、予知夢を見るのよ。子供の頃は、皆予知夢を見るものだって思っていたけど、これが特殊な能力だということに気づくと、今度は、それを人に悟られないようにしようと考えるようになったの」
というではないか。
「それは、僕もそうだったんだけど、そこまで極端ではなかったかも知れないな」
というと、
「それは、きっと、あなたの予知夢というのは、私のように、悪い予感バカリが当たるというものではないということからなんでしょうね」
というのだった、
それを聞いて、
「僕の方は、決して、怖かったり、悪夢のような予知夢を見るということはなかったな」
というと、彼女は、少しホッとしたような顔にも見えたが、どこか、諦めの心境にも見えるため息のようなものを発したのだった。
「なんともいえない複雑な心境だな」
作品名:予知夢を見るということ 作家名:森本晃次



