いたちごっこの光と影
被害者は、やくざの元構成員。実際に構成員をやっていた時は、かなり悪どいことをしたに違いない。
実際に、警察に捕まったのが数回であるが、実はその裏で、もっとひどいことをしていたのかも知れない。
それどころか、捕まったとされ、有罪が確定し、刑期を終えて帰ってきた事件の中には、
「やつがやった」
というわけではなく、
「誰かの身代わりになった」
という事件もあったのかも知れない。
それを思えば、
「被害者が、よく分からない人間なのだから、犯人も得体が知れない」
といってもいいだろう。
そういう意味では、
「尋常な方法では解決しない」
と思ってもいいかも知れない。
そう考えれば、確かに、
「通り魔殺人」
ということもあるかも知れないが、やはり。
「実際に動機があって、殺したいと思っている人が犯行に及んだ」
と考える方が正解だろう。
「この男が、どれだけの人間から恨まれていたのか?」
ということを考えると、果てしなく、いるかも知れない。
実際に、かつての犯罪歴を見たり、表に残っている調書などから見ると、なるほど、前述の三人なのかも知れないが、本当にそれだけという保証はない。
特に、この男はここ半年ほど、まったく表に出てきてはいない。それを考えると、犯人というのは、
「直近で恨みを持っていた」
といってもいいだろう。
「まずは、やつが表に出ていない間に何があったのかを探る必要がある。特に直近の半年くらいの間の被害者の足取りを徹底的に洗え」
というのが、捜査本部の考え方だった。
そんな中、樋口刑事だけが、一人別の視点から考えていた。
というのは、
「死体犯行現場がなぜ、あそこだったのか?」
ということである。
実際に、疑問に思った人がいなかったわけではないだろうが、
「死体発見をなるべく遅らせたい」
ということと、
「日頃からライトがついていて、明かりがついていても誰も疑わない」
ということ、もちろん、
「民家から少し離れている」
ということも、その理由にあっただろう。
あとは、
「廃工場なので、誰も来ない」
ということから、
「犯人が、死体を遺棄するにはちょうどいい」
ということなどを総合的に考えると、
「ここに死体を遺棄した」
ということも分からなくもないということになるだろう。
それを考えると、
「今回の事件における焦点の一つとして、死体発見現場に何かある」
という思いであった。
そうなってくると、気になるのが、第一発見者である、
「水谷良平」
という男だった。
もし、犯人が、死体発見現場にこだわったとすれば、
「第一発見者である水谷に、死体を発見させる」
というのも、犯行計画の中に入っていたということになるのではないだろうか?
実際にそうなのかどうかは別にして、樋口刑事は、水谷良平という男が、どこか気になるということであった。
樋口刑事は、水谷良平のことを調べてみた。
都心に本社がある、地元では大手の商社マンだった。年齢は、まだ30代前半ということで、会社の役職の、
「主任クラス」
ということであった。
ただ、何か悪いことでも起こさなければ、
「今期か来期に、係長に昇進する」
といわれていた。
彼の会社は、都心といっても、大都市というわけではない地元の商社ということで、それなりに大きな会社ではあるが、さすがに、全国に支店を持っている会社にかなうということはないだろう。
だが、バブル崩壊時期にも、何とか吸収合併されることもなく、生き残った会社だった。
もっとも、地元の小さな商社を吸収合併ということを行い、何とか延命処置には成功したと思っていたが、実際には、地元大手として、残すべき企業ということで、
「自治体や、商工会からも支援があったようで、
「今では、地元大手ということで、商工会議所でも、会社としての発言力は大きい」
というところであった。
しかも、いまだに昔からの、
「終身雇用」
であったり、
「年功序列」
というものを守っていた。
実際に、表向きは、
「それらは崩壊した」
ということになっていたが、まわりはそれを、
「数社は、そういう会社があってもいいのではないか?」
ということで、その数社の中に選ばれたことで、延命どころか、今では、
「バブル崩壊期の生き残りの代表」
ということで、
「経済界のモデルケース」
と言われ、脚光を浴びている会社だった。
実は、樋口刑事が捜査する中で、あの廃工場というのは、
「水谷の会社が、かつて吸収合併したことがある会社だった」
ということであった。
吸収合併後は、水谷の会社の子会社として、何とか零細企業とは言われながらも頑張ってきたようだ。
しかし、
「時代の流れ」
ということなのか、
「5年くらい前に、突然、この工場を売却する」
という方向に舵をきったのである。
もちろん、この工場だけではなく、今は子会社となっている、かつて、自分たちが、吸収合併した会社を、手放すということだったのだ。
「会社のスリム化を目指す」
ということで、その背景には、
「海外からのインバウンド」
というものがあったという。
「海外からの連中を安く雇って、働かせる」
ということで、それを、本社は、会社直轄の支点を中心に行おうということであった。
そのため、子会社の役割も会社としては、
「終えた」
と考えたのか、スリム化を目指したのだ。
そのため、売りに出したはいいが、今の時代、
「小さな町工場」
などを引き受けるところが見つかるわけはない。
商社としても、
「どうせ、今さら、小さな町工場が流行るわけはないんだ」
ということで、自分の会社として終わらせるよりも、
「とりあえず、売りに出してみる」
ということの方が、
「世間的にも見栄えがいい」
と考えたのだろう。
しかし、実際に、町工場の連中は、
「悪いのは親会社で、俺たちは切り捨てられた」
という思いが強く残ったのだ。
つまりは、
「世間体だけを気にするということに執着したあまり、町工場の連中を敵に回し、無駄な恨みを買ってしまった」
といってもいいだろう。
これは、親会社側にとっては、正直、
「想定外だった」
ということかも知れない。
いや、もっといえば、
「考え方が甘い」
ということになるだろう。
そのことに、水谷は関わっていたかどうか、ハッキリはしない。
ただ、まったく関わっていなかったということはないだろうが、
「深くかかわっていたということはないのではないか?」
と、樋口刑事は考えていた。
というのは、殺された男、
「片桐良治」
という男を、別ルートで探っていたからであった。
この片桐という男は、元々、田舎で暮らしていて、高校卒業までは、田舎の学校にいたのだ。
その頃までは、別に、
「ワル」
ということもなかったという。
「ただ、あの子は、よくまわりから祀り上げられるタイプだったんですよね」
というのが、彼が高校一年生の時の担任の先生の話だった。
作品名:いたちごっこの光と影 作家名:森本晃次



