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質より量

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「血の臭いを想像させるには、無理がある」
 ということであろう。
 だから、
「臭いに関しても感じなかった」
 という理由が分かるというものだ。
 さらに、
「暗い空気が、よどんだ中」
 というのは、
「空気の密度が高い」
 ということを表していた。
 しかも、その密度の高さは、
「湿気を感じさせる」
 というもので、
「湿気を感じさせる場所」
 特に、工場のように、少し広くなったところでは、
「空気がよどんでいる」
 ということであったり、
「湿度が高い」
 ということであれば、
「音が籠って聞こえる」
 というものである。
 それが、最初に感じた、
「音は、籠って聞こえ、臭いもまったく感じず、明かりはついているのに、光を感じないような気がする」
 ということになるのだろう。
 すべてが、
「影を感じなかったこと」
 というものからの発想ということではないと思えるが、
「少なくとも、影というものを感じた時、それまでの違和感が、氷解するかのごとく、音もなく解けていく」
 ということを考えると、
「殺害現場としては、実にセンセーショナルなイメージを与える」
 といってもいいかも知れない。
 しかも、
「最近は、まだ存在はしても、なかなか工場内に関係者が入ることのない場所」
 ということで、不謹慎ではあるが、
「何か、新鮮な気がする」
 と感じた捜査員もいたかも知れない。
 鑑識は、いつものごとく、地道な捜査を行っていたが、まずは、
「全体を見渡す」
 ということを行った瞬間、
「何か違和感がある」
 と感じた。
 それは、鑑識ならではということであり、他の捜査員には、そのような感覚というものはなかったということであった。
 警察は、現状の捜査を行ったが、あまり違和感を感じるというものはなかったということであった。
 最初に、鑑識も、刑事もまず疑ったのは、
「犯行現場は、果たしてここなのだろうか?」
 ということであった。
 その理由が、
「なぜ、被害者がスーツを着ていたのか?」
 ということからであった。
 確かに、
「被害者は、ここによく来ていたが、その時は営業ということで、作業着を着ていた」
 ということからであった。
「作業着を着てくる」
 ということは、
「電車などの公共交通機関でくるということはないだろう」
 と考えて、普通に考えれば、
「営業車を使う」
 ということであろうと思われた。
 そこで、工場の社長に聞いてみると、
「確かに営業車の時もありましたが、彼の会社は、変なところでこだわりがあるのか、
「営業車はそんなにない」
 ということだという。
「本当は、公共交通機関で移動するので、スーツでの移動の人が多いんだけど、彼はここに来る時は、必ず、作業着なので、営業車がない時は、自分の車で来ることが多いんですよね」
 ということであった。
 それは、被害者の会社でも、その話は裏が取れていて、その分の交通費は、清算すれば、会社が出してくれるということだという。
 ただ、それも、
「ある程度ベテランにならないと許されない」
 ということで、
「中条さんくらいのベテランであれば、ずっと前からこの形だったですよ」
 ということであった。
「中条さんというのは、いつも、作業服で営業に行くんですか?」
 と聞かれた同僚は、
「ええ、そのようですね。あの人は頑固なところがあるので、営業とは相手も身になって、同じ目線にならないといけないというポリシーがあるようで、いつも、作業服というのが、彼の信条ということのようですね」
 といっていた。
 それを聞いた捜査員は、
「なるほど、じゃあ、彼がここに来たということは、どこかに自家用車があるはずですよね?」
 ということで、付近を、探ってみたが、
「被害者の車は発見できなかった」
 ということであった。
 むろん、会社の駐車場、家の駐車場。
 そして、その付近の捜索など行われたが、
「一向に被害者の車は発見できなかった」
 ということであった。
 となると、
「公共交通機関で来た」
 ということも考えられるが、
「帰りを考えると、自家用車が必然」
 と考えられた。
 というのは、彼の住まいは、工場の最寄り駅からでは、何か所かの乗り換えが必要で、何かの用事があってこのあたりに来たとすれば、
「すぐに帰らなければ帰れなくなる」
 ということであった。
 となると、
「このあたりに来たのは、本当に工場に用があったのだろうか?」
 とも考えられるからであった。
 実際には、近くに用があり、その用をごまかすために、
「犯人が、違う場所で殺害し。ここに運んだ」
 と考えられるからだ。
 実際に鑑識としては、
「死体を動かした痕はある」
 ということであった。
 現場の初動における一番の違和感といえば、
「死体を動かした痕跡がある」
 ということであるが、それを、
「違和感だ」
 と思えなかったのは、最初から、
「殺害現場はここではない」
 という思いの下に、捜査を行ったからである。
 そうなると、
「この事件の真実を解明するためには、まず、殺害現場の特定というものが重要になる」
 といえるだろう。
 当然、
「他殺」
 ということに間違いないだろう。
 それが確定するのは、
「この場所が死亡現場ではない」
 ということがハッキリしてからであった。
 ただ、
「自殺する理由は見当たらない」
 ということ。
 そして、なんといっても、
「彼の車が見つからない」
 ということから、
「彼の死に、誰かがかかわっていることに違いない」
 ということだからである。
 所轄署に、
「捜査本部が設けられた」
 というのは当たり前のことで、県警本部から捜査一課も出張ってきたのだったが、この町工場というのが、実は、
「県警本部幹部の奥さんが、この工場の娘だった」
 という絡みがあったことからだった。
 本来であれば、管理官という仕事で出張ってきてもいいくらいであったが、
「関係者」
 ということで、さすがに、捜査本部に入ることはできなかった。
「さすがに、工場の人間をいきなり容疑者というわけにはできない」
 ということで、今回の事件は、シビアな部分が絡んでいることから、
「慎重に行うように」
 というお達しであった。
 最初から、
「犯行現場が別ではないか?」
 と初動の段階で感じたのは、
「犯行が別の場所で行われた」
 ということであれば、
「犯人が工場の人間ではない」
 と考えられるからだ。
 確かに、
「この工場にわざわざ死体を運んできた」
 ということであれば、ここの人間が犯人である可能性も出てくるのではないか?
 とも思えたが。そもそも、
「この工場の人間が犯人であれば、死体を動かすのなら、まったく関係のないところに移動させるのが心情ではないか?」
 といえるだろう。
 それを考えると、
「最初の段階では、死体が運ばれたと考える方が、この事件の犯人が、この工場の人間だという可能性は低くなる」
 ということであるが、
「なぜ、ここで死体を遺棄したのか?」
 という疑問は残るわけで、その理由がハッキリとしない限り、安心はできないということであろう。
作品名:質より量 作家名:森本晃次