多重推理
長曾我部の妹は、馬場という男に、
「最初は警戒していた」
ということであったが、その警戒が自分の中で解けたことで、完全に、馬場に引っかかってしまったのだった。
とはいえ、
「馬場に他にも女がいる」
ということは分かっていたようで、
「自分が、最後には彼をものにする」
という意欲を持っていた。
しかし、だからといって、
「最初からぶっちぎりではない」
という自覚はあった。
だから、
「自分はいい位置にキープしておいて、最後にライバルを蹴落とす」
というような計画を持っていた。
「冷静沈着ではあるが、最後には適格に熱くなる」
というのが、自分というものだと思っていたのだ。
相手の女と、最後は、
「一騎打ち」
という感じだったようだが、相手の女は、まるで、
「瞬間湯沸かし器」
ということで、女としては、一流だったかも知れないが、
「オンナの戦い」
においては素人だったということで、最初から勝負にはならなかったようだ。
結局、長曾我部の妹が、
「優勝」
という形になったのだが、相手の馬場という男は、さらに、
「最低男だった」
という。
やつは、
「オンナを競わせることを一つのゲーム」
とすることで、
「己の満足感を味わいたかっただけ」
という、自分では、
「サドだ」
といっているが、
「サディスティックの風上にも置けない」
という男だったことに築いた妹は、
「それまで神経を張り詰めていた」
ということで、その糸がぷっつり切れてしまったことから、
「自殺を試みた」
ということであった。
一度は、
「九死に一生を得た」
ということであったが、半身不随となり、実際に、身体もどんどん弱ってきて、
「最近、亡くなってしまった」
ということだったのだ。
「殺害への動機」
としては、
「十分すぎるくらいのものだ」
といってもいいだろう。
長曾我部と「いう男は、
「ホストでも最低だった」
ということだが、
「男として」
いや、
「人間として、これ以上ないというくらいの最低な男なのだ」
ということであった。
実際に、ライバル視された女も、
「やつを殺すだけの動機がある」
ということであったが、彼女の捜索をしていると、
「あの事件からあと、結婚し、海外で暮らしている」
ということで、念のために、入国したかどうかの捜査も行われたが、
「その形跡はない」
ということで、
「彼女は、この事件には関係ない」
ということになった。
ある意味、長曾我部の毒牙にはかかったが、
「最後の最後で、難を逃れることができたのは、幸運だった」
といえるかも知れない。
今回の事件、最終的に二人の容疑者が、それぞれ相手の管轄にいるということが、本庁で把握したことと、
「長曾我部と、赤坂が、中学時代の同窓生だった」
ということが、捜査線上に浮かんできたことで、
「連続殺人の可能性も出てきた」
ということで、
「合同捜査」
ということになったのだ。
そうすると、それぞれに、鑑識も意見を共有することになり、
「死体が発見された順序と、実際に殺された順序が逆だった」
ということが分かり、最初は誰も意識はなかったが、気にしている人もいるにはいた。それが、
「K警察署の秋元刑事」
と、
「F警察署の樋口刑事」
ということだったのだ。
「二人がそろって気にしているということであれば」
と、後になって、それが分かった捜査本部としても、
「無視はできない」
と考えるようになったのだった。
「どちらが先に発見されたか?」
というのは、新聞発表もあったので、公表されていたが、実際の、犯行時刻というのは、
「秘密事項」
ということで、
「アリバイ確認をされた人」
であれば分かっているかも知れないが、それ以外の人の知るところではないだろう。
もっとも、事件関係者でもなければ、そんなことは別に自分には関係のないことであり、それこそ、気にする人もいないに違いない。
ただ、
「捜査本部内の人たちは、情報共有される」
ということになる。
しかし、これも、捜査員の一人一人としては、
「状況証拠よりも、物証を探す」
ということで、特に、今の段階では、
「証拠厚真に躍起になる時期」
ということで、
「推理を働かせるのは、もっと後のことであり、実際に推理するとすれば、上の人の仕事ということになるだろう」
と考えていたのである。
そんな捜査陣において、推理を働かせていた二人が、それぞれに疑問を持っていたのだ。
まずは、
「K警察署の秋元刑事」
であった。
これまでの捜査の中で、
「馬場を殺したと思われる、長曾我部には、完璧なアリバイがあった」
ということであった。
これは、
「K警察の捜査」
で明らかになったことであり、今度は、
「F警察の捜査」
ということで明らかになったのは、
「赤坂を殺したと思われる大門にも、完璧なアリバイがあった」
ということであった。
そして、秋元が気になったのは、
「長曾我部と赤坂が、中学時代の同窓生」
ということで、
「二人に面識があったという可能性が高くなった」
ということであった。
最初から
「この事件がまったく別の犯罪」
ということであれば、分からなかったことであるが、皮肉にも、そのことが、
「事件を連続殺人の可能性もある」
ということから、
「合同捜査になった」
ということからであった。
それを考えると、
「この事件は、どこまで表を見ていればいいのだろうか?」
と感じたことであった。
秋元刑事は、それを聞いて。
「いよいよ、俺の推理の出番だ」
ということで、頭が回転し始めたのであった。
秋元刑事という人は、
「自分に興味のない事件であれば、少々の謎があると思っても、頭が働かない」
というタイプだった。
だから、今回のように、
「謎が興味深く。しかも、自分の興味をそそる事件でなければ、本能的に、頭が回転しない」
ということにある。
そういう意味で、
「秋元刑事が解決する事件」
というのは、最初から、センセーショナルな事件ということでもないと、
「秋元刑事によっての解決」
ということにならないのだった。
秋元刑事は、この事件を考えた時、最初に、奇抜な発想を思いついた。
というのが、
「交換殺人」
ということであった。
その心としては、
「連続殺人ではないと思われる犯罪で、容疑者に、完璧なアリバイがある」
ということからであった。
最初は、
「まったく別の犯罪」
と思われ、その関連性が見つかると、今度はその情報共有から、
「お互いに、容疑者には、完璧なアリバイがある」
ということで、
「交換殺人の肝」
として、
「それぞれの犯行が、連続殺人だ」
と思わせず、
「犯人と目された人に、完璧なアリバイを持たせる」
ということだったのだ。
そういう意味では、
「交換殺人ほどの完全犯罪はない」
といってもいいだろう。
しかし、
「交換殺人」
というのは、
「もろ刃の剣」
ということで、それだけ、
「リスクも大きい」
ということであった。
「交換殺人」



