多重推理
「何をするか分からない」
という恐ろしさがある。
そういう人間が、
「衝動殺人」
というものに走るのであって、
「やつは、殺されなければ自分が、誰かを衝動的に殺すことになっただろうな」
ということで、
「殺してくれた人、ありがとう」
といいたいことであろう。
馬場というのは、そんな男だったが、
「結構な腕力を持っている」
ということであった。
「チンピラなんだから、それくらい普通だ」
ということであろうが、実は、彼は、元々はスポーツマンだったのだ。
レスリングの選手ということで、中学時代には、県大会レベルでは、
「敵なし」
と言われていて、
「全国優勝も狙える」
ということで、
「中学3年生の時、一度だけ、全国大会で優勝経験がある」
ということであった。
当然、たくさんのレスリング有名校から、
「お誘い」
というものがあった。
いわゆる、
「スポーツ推薦」
というもので、本人も、
「高校でも、日本一になる」
ということを目標にし、さらに、
「いずれは、オリンピック」
とも考えていたようだ。
それで、
「全国でも、有数」
といわれる、レスリング有名校に、
「スポーツ推薦」
というもので、入学したのだった。
他のスポーツも、結構さかんな学校だったので、
「有名なスポーツ選手が、同じような立場でたくさんいる」
というのは、実際に入ってみて、
「微妙な気持ちになる」
というものであった。
「たくさんいると、自分が目立たない」
という感覚に陥るようで、それも、
「その道のトップクラス」
という人間には、当たり前の感覚だったことだろう。
しかし、逆に、
「他にいてくれた方が、相談相手がいる」
ということもあり、
「孤独ではない」
というのも必要だと考えたからだった。
しかし、
「どちらに優先順位があるか?」
ということになれば、実に微妙で、彼としては、最終的に、
「孤独の方がましだろうか?」
と考えるようになっていた。
というのは、
「入学してから、1年生の間は、順風満帆だった」
ということからであった。
部活の方針として、
「1年生の間は、あくまでも基礎体力をつける」
ということで、大会というと、
「新人戦」
などの、
「一年生中心の大会に出る」
というくらいしかなかった。
もちろん、
「分かり切っていること」
ということで、別に問題にもしていなかったが、これが、2年生になってくると、
「少なくとも、同級生の中では、一番にならないと先に進めない」
ということで、目標が、狭まっていたといってもいい。
そのために、逆に無理をしたということで、
「膝に特に無理が掛かってしまった」
ということから、ひざを壊してしまった。
今まで、順風満帆だったということもあって、
「焦りがあった」
というのを初めて自覚した。
だから、
「完治するまでは、しっかり治療を行っていた」
ということであるが、リハビリの時、無理をしたのであった。
実際に、
「痛みは取れていた」
しかし、
「身体がついてこないだけ」
ということが分かっていただけに、リハビリを無理するということは、自分の中でも想定外だっただろう。
せっかく、完治していたのに、
「リハビリに失敗した」
ということで、
自分の中で、
「これは恥ずかしいことだ」
という意識と、
「あまり、時間が掛かると、学校もいつまでも待ってはくれない」
という話を部長から聞かされたことで、
「余計なプレッシャーがかかった」
ということから、
「2度目のリハビリも失敗に終わった」
というのであった。
さすがに、ここまでくれば、学校も待ってはくれない。
「強化選手」
ということで、その中心にいたはずなのに、学校に戻ってくると、
「強化選手」
の中から外されてしまい、さらには、
「部長から、それとなく、退部勧告」
というものを受けていたのだ。
もし、
「退部」
ということになると、
「スポーツへの夢」
というのが、打ち砕かれるということになるのであり、さらに、
「スポーツ推薦」
ということでの、今までの、
「特待待遇」
というものがなくなるということであった。
「学生寮も出ないといけない」
ということ。
「学費が無料」
というのも、なくなり。
「成績が悪くとも、進級ができた」
というのも、他の生徒と同じ扱いということで、
「このままなら留年」
ということであった。
「部からも追い出され、さらには、学校にもいられない」
という状況に、追い詰められるということになるのであった。
部から追い出された時、先生も、まわりのクラスメイトの目も、皆さげすんだ眼をしていた。
自分とすれば、
「気の毒な立場に追い込まれた」
ということで、せめて、まわりが、温かい目で見てくれていれば、少しは違ったということであろうが、
「皆、さげすんだ眼をしている」
ということで、
「結局、俺一人なんだ」
ということになると、
「世界の人間すべてが敵だ」
と感じるようになった。
こうなると、
「典型的な転落人生」
ということで、
「チンピラ」
ということになり、どこかの組織の下部に入り、
「鉄砲玉」
にでも使われるしかないということだったのだ。
今の時代は、
「大っぴらに、組織というものを表に出すわけにはいかないので、どこかの店の用心棒のようなことをしていた」
ということであった。
実際に、
「組織の用心棒のような連中には、似たような経験を持った人が多い」
ということで、
「世間の風当たり」
というのも分かっているのと、すでに、
「人生、どうなってもいい」
とでも思っているのか、警察のそのことは分かっていて。
「何かの鉄砲玉にでも使われて、組織にとって都合が悪くなった」
ということで、
「組織に消されたか?」
というのが、最初に頭をよぎったのだ。
しかし、
「組織が、邪魔者を葬る」
ということであれば、こんなすぐに分かるようなことはしないだろう。
それこそ、
「簀巻きにして、東京湾にでも鎮めるか?」
などというドラマのセリフのように、
「コンクリート詰め」
などというような、
「発見されない方法」
で行うに決まっている。
そうなると、
「組織による、組織的犯行」
というのはありえないといえるのではないだろうか?
それを考えると、
「今回の事件は、組織であったり、プロの犯行という可能性は低い」
ということであろう。
捜査本部ができてから、3日後のことだった。また近所で、殺人事件があった。
所轄は違っていて、
「最初の馬場の事件」
に関しては、
「K警察署」
の管轄で、
「後から発見された死体」
というのは、
「F警察署」
の管轄であった。
隣の署なので、ちょっと場所が違っていれば、同じ管轄だったということになるだろう。
そういう意味で、
「3日の間に、立て続けに殺人事件が起こった」
ということは、
「連続殺人ではないか?」
と思われ、
「捜査本部は、合同で」
とも考えられたが、初動捜査の段階で、



