二階級特進
「会長という立場上、いろいろなところに姿を見せる」
ということでの、
「遊説」
などがあるのではないかということで、
「2,3日見ない」
くらいは、そこまで気にはしていなかった。
だが、それが間違いだったようで、桜井警部補も、秋元刑事も、
「自分たちが主導でやっていれば、こんなことにはならなかったのに」
と感じていたのだった。
「被害者側から、行方不明を宣告される」
というほど、警察としての失態はないだろう。
もっとも、秘密裏の捜査ということなので、本当のところは誰にも知られることがないのは、功を奏したといってもいいだろう。
「脅迫状も、犯人からの連絡も入っていない」
ということで、本当に誘拐されたのかどうか分からない状態であったが、
「以前に、脅迫状があった」
ということ、
「会長が偶然にも、死体を発見することになった」
ということ、
そして、
「立場的に、誰かに恨まれている」
という可能性も十分に考えられるということを、社長も奥さんも明かすことで、
「事件性が高い失踪」
ということで、捜査が続けられることになった。
実際に捜査をしてみると、
「会社内で、会長に恨みを持っていると思われる人物が、奇しくも社長が行方不明になる数日前に辞職している」
ということで、がぜんクローズアップされることになった。
その人物というのは、
「彼女が、社内にいたのだが、彼女が会長の毒牙に掛かり、辱めを受けたことで、自殺した」
ということが、一年前に起こっていた。
そして、そのことを、
「社長の奥さんが気にしていた」
という噂もあったのだ。
社長と会長は、面白くない。
元々、
「会長の悪い癖」
というものが招いたことであるが、会長とすれば、
「英雄色を好む」
ということで、
「別に悪いことをしたわけではない」
と思っていたのだ。
社長の奥さんは、そのことを知っていただけに、実に怒りがこみあげてきたということであった。
「まったく悪気がない」
ということに、残虐性というものを感じ、さらに、
「自分の夫が、そんな父親の血を受け継いでいる」
ということが怖かったのだ。
奥さんは、まだ、子供がいない。
実際には、子供を作ってもいいのだろうが、
「父親の血」
というものを考えると、恐ろしくて子供を作ることができないのだった。
となると、
「妾が子供を作る」
ということになるだろう。
それでも、
「自分の産んだ子ではない」
ということが救いだと思っていた。
次第に最近では、
「川崎家なんか、どうなってもいいんだ」
と思うようになり、本来であれば、
「離婚してこの家から出ていきたい」
と思うようになっていたのだが、事情がそうもいかなかった。
実母が、病気に罹り、川崎家のお金によって、今は安定しているということであった。
ただ、病気のせいもあり、
「一生、病気と向き合っていかなければいけない」
ということで、
「簡単に、川崎家を飛び出す」
というわけにはいかなかった。
そういう意味では、今のところ、川崎家、特に、会長や社長に、
「殺意」
というものが一番あるとすれば、
「社長の奥さん」
ということになるだろう。
そういう意味では、
「奥さんにも、犯行の動機は十分だ」
ということになる。
そして、もう一人、
「動機を持った人物」
というのがいた。
その人物は、
「妾の子」
というもので、会社で、管理部長という立場には収まっているが、実際には、
「本妻の子」
である社長に頭が上がらない。
社長も、
「妾の子」
ということで、そもそもの、
「英才教育」
というものの中で、
「妾の子というのは、まるで自分の奴隷だ」
という考え方で育っていて、実際の、営業部長も、
「俺は妾の子なんだから仕方がない」
ということで、最初の頃は、
「あきらめの境地」
だったようだ。
しかし、会長の奥さんが亡くなったことで、営業部長は、
「自分の辛さが分かった」
のであった。
というのは、
「会長の正妻である亡くなった奥さん」
から、これまでの厳しい生い立ちを、謝られたのだった。
奥さんとすれば、
「川?グループ会長の奥さん」
ということで、対面上、
「妾の子に対しての対応」
ということでつらく当たってきたが、本来は、
「気の毒な子」
と思っていたようだ。
死期が近づき、自分の悪行を悔い改めるということで、
「最後には極楽に」
とでも思ったのか、最後に枕元に呼んで、自分の罪と、彼に、
「何も卑屈になることはない」
ということを告げたのだった。
これは、ひょっとすると、奥さんによる会長に対しての、
「最後の復讐だった」
ということなのかも知れないが、結果的にそれによって、彼は、
「川崎家」
というものに対して、
「極度な恨みを抱く」
ということになったのだ。
それらの恨みが交差した状態が、今の、川崎グループにはあるということで、
「川崎会長の功績は、いうまでもない」
ということであるが、その裏でやってきたことが、
「他の成功者と変わらない」
というところが、実に残念でならないということになるであろう。
実は、今村記者というのは、極秘に、
「川崎グループ」
というのを見張っていた。
元々、社会派記者ということでもないし、
「ゴシップ」
というものを狙った
「特ダネ至上主義」
というような記者ではないということで、
「川崎グループとのつながり」
というものがまったく見えていなかったが、
「今村が殺された」
ということで、実は、その秘密を恋人の
「坂巻記者」
が持っていたのだ。
大団円
今村は、
「俺が殺されれば、この中身を見て、できるだけのことをしてくれ。だけど、無理をするんじゃないぞ、俺が殺されるくらいなんだから、へたに動けば、お前も危ない」
といって、坂巻記者に託したのだ。
それは、坂巻記者しか知らないことだった。
本当であれば、
「これは、墓場まで持っていこう」
と思っていたのだが、警察が、
「川崎会長が行方不明になった」
ということで、公開捜査に乗り出したことで、坂巻記者は、何か思うところがあったのか、その証拠のようなものを警察にもっていった。
それは、
「USBメモリ」
に書かれた今村記者の記事だった。
そのままでも、記事として通用するように書かれているが、実際に、記事になっているわけではない。
坂巻記者が、
「墓場まで持っていこう」
と、本当は今村記者に頼まれた、
「遺言のような言葉」
であったが、さすがに、それを大っぴらにするには、
「自分一人ではどうしようもない」
と思ったのだろう。
それを考えると、警察も、
「うかつに手を出すことはできない」
というものであった、
そこに書かれている記事というのは、まるで、
「探偵小説」
のようなものだった。
だから、
「これを直接使おうとしても、何の根拠もないことだ」
ということで、相手にされないだろう。
そればかりか、
「もし、核心をついていれば、殺されかねない」



