一つではない真実
それだけの必要経費も掛かり、旦那としても、
「探偵料を支払うということで、かなりの無理をしていたのかも知れない」
それでも、何とか、探偵料をねん出し、佐久間探偵に支払ってくれた。
すべての調査が終了し、佐久間探偵が、依頼人の家に、その報告にやってきたその日のことであった。
「火事だ」
という声が、近所から上がった。
そこは、ちょうど、佐久間探偵が依頼を受けて、
「浮気調査」
を行い、その報告に向かった家だったのだ。
あたりは閑静な住宅街であり、時間的に、
「深夜」
ということでもなかったので、後で警察による調査からも、
「家はオール電化」
ということもあり、
「急に火の手が上がるのはおかしい」
ということで、
「放火の線が強いのではないか?」
と言われ、それで、捜査が行われることになった。
だが、今回の事件は、
「放火」
というものにとどまらなかった。
焼けただれた家の中から、一人の黒焦げの死体が発見された。
「逃げ遅れたのか?」
と思われたが、実際には、
「縛られていた」
ということから、事件は、急遽、
「放火殺人ではないか?」
ということになったのだ。
放火殺人
黒焦げになった死体であったが、その死体は、最初、
「家の主ではないか?」
と思われた。
本来であれば、DNA鑑定をすればいいのだろうが、何しろ、
「家が丸焼けになっている」
ということから、
「家から?な鑑定に使えるものはない」
ということで、
「死体が誰なのか?」
ということを調べるまでに、少し時間が掛かると思われた。
「その日、奥さんが家にいなかったのは幸いだった」
と、いうことであったが、そもそも、その日奥さんが家にいなかったのは、ちょうど用事がある日で、だからこそ、旦那が、
「探偵を招き入れ、証拠をもらう日」
としたのである。
だが、警察はそんなことを知る由もない。
「見つかった死体は一体」
ということで、逆に、誰も、そのことを疑う余地というものがあるわけではなかった。
奥さんも、
「うちが火事になった」
とは、知る由もなく、翌日帰宅してみると、家が丸焼けになっているので、びっくりであった。
しかも、警察に聞くと、
「亡くなったのは、たぶん、旦那」
ということを聞かされて、さすがの奥さんも意気消沈である。
「いくら不倫をしていた」
とはいえ、
「いやとは思っているが、これからも一緒に暮らしていく」
と思っていた相手であり、少し前までは、
「間違いなく愛していた」
という相手なのだから、
「我に返った」
としても、無理もないということであろう。
「警察から、いろいろ聞かれ、不倫に関して正直に話そうか?」
とも思ったが、とりあえず、
「聞かれたことにだけ答えておけばいい」
と思った。
警察から疑われるようなこともなく、
「自分が旦那を殺した」
というわけでもないのであれば、
「旦那が死んだことと、自分の不倫との間に、何ら関係がないのであれば、へたにしゃべることで、不倫相手に迷惑をかけることになる」
と思ったからだ。
不倫相手というのにも、嫁さんがいた。
つまりは、
「W不倫」
というわけである。
ここで、不倫の事実を明らかにして、相手の不倫が相手の奥さんにバレるというのも、実に困ったことである。
「旦那が死んだことで、頭の中はパニック」
であったが、それ以上に、
「不倫相手に迷惑が掛かる」
ということが頭をもたげたということで、
「私って、相当な悪党なのかも知れない」
と感じたのだ。
というよりも、
「計算高い」
といった方がいいのか、
「もし、奥さんに不倫がバレた場合、私が損害賠償を請求されるかも知れない」
と思ったからだ。
「不倫と放火が関係ない」
ということであれば、
「相手が、損害賠償を請求する」
ということに関して、一切の問題はないということになるからだ。
それを考えると、
「今の状態で、損害賠償を請求されれば、どうやって払えばいいというのか?」
ということである。
「火事になって、旦那も死んで、残された自分が、いかにして生活をしていけばいいか?」
ということですら分かっていないのだ。
そこにもってきて、
「損害賠償を請求され、裁判にでもなれば、どうしていいのか分からない」
ということになるだろう。
それこそ、
「弁護士にでも相談しないと」
と思うが、その費用もいくらかかるか分からない。
とにかく、まったく先が見えない状態で、まわりから追い詰められているように思うと、「悪い方にしか考えられなくなる」
ということであった。
彼女が不倫に走った理由は、実際には、
「それほど、大きな問題ではなかった」
確かに、
「旦那にそれなりの不安」
というのは持っていた。
しかし、だからといって、
「不倫をしないと我慢ができない」
というほどではなく、それよりも、
「ちょっとした興味本位」
つまりは、
「火遊び」
といってもいいくらいであった。
しかし、その結末が、まったく関係のない方向に行ったとはいえ、
「放火だった」
というのは、
「決して笑うことのできない皮肉だった」
といってもいいだろう。
火遊びというには、
「あまりにも犠牲が大きい」
といえるが、奥さんとしては、
「死体が本当に旦那かどうかわからない」
ということから、やきもきした気持ちになっていた。
「不倫をしていた奥さんだから」
ということではなく、
「自宅から焼死体が見つかり、それが誰のものか分からない」
ということになれば、どの奥さんであっても、同じことを考えるだろう。
最悪の場合は、
「旦那が、誰か別人を殺して、逃げてしまった」
と考えると、
「放火殺人ではないか?」
と考えられる。
「放火殺人などということになると、その罪はかなり重い」
といえるだろう。
「無期懲役か、死刑か?」
ということになる。
それこそ、放火までしているのだから、
「情状酌量」
というものはない、
それが、自分の亭主の仕業ということになれば、
「自分もただではすまない」
ということになる。
それを考えると、
「これから、どうしていいのか?」
という思いが、
「どんどん積み重なってくる」
といってもいいだろう。
「不倫の代償」
としては、そんなに軽いものではないということになるだろう。
どうしても、今回の事件は、
「どこかおかしい」
と感じるところが多々あった。
刑事であれば、それくらいのことに気づくという人は少なくはないだろうが、気づいたとしても、
「そのことが事件に関係あるのか?」
ということで、重要視しない人が多いだろう。
それこそ、
「バブル崩壊の予知」
という問題を考えさせられるようだ。
というのも、
「バブル経済」
というものが、あまりにも華々しく、
「これほどない」
というほどの世の中の繁栄だっただけに、その崩壊というのは、
「社会的に大きなショック」
というものだった。
中には、
「誰も、バブルの崩壊」



