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一つしかない真実

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「自業自得だ」
 ということで、それ以上は何も感じなかった。
 しかし、もう一人の刑事は、最初に、何ら怯える必要もないところで、怯えた態度を示したところで、
「おや?」
 と感じたのだから、その理由が、
「本人の車ではない」
 ということかと思うと、自分の感じた疑問に、
「何か裏があるのではないか?」
 と感じたのだ。
 しかも、彼は、自分がその場で主導権を握っているわけではないだけに、気持ちにも余裕がある、呈した疑問を、自分の中で考えられるほどに、冷静だったということだ。
 だからといって、
「事件性はない」
 と思われているところでの、
「流れるような事情聴取に水を差す」
 という気持ちもなかった。
 それだけ、目の前の事故は、すぐに終わらせるという空気が蔓延っていて、それをこの場で崩すだけの勇気が彼にはなかったのだ。
 実際に、今回の事情聴取は、
「車が本人のものではなかった」
 というだけのことで、他の疑問は一切なかった。
 実際に、後でけがをさせたかも知れないという意味での加害者が来たが、こちらに対しても、当たり前のことだが、
「穏便に」
 ということで、事故処理が終わったのだ。
 ただ、最初に、一言、
「相手の車は本当にわざとではないのかな?」
 と、怪我のなかった方は、吐き捨てるようにいい、それは、二人の刑事にも聞こえたのだが、結局は、
「愚痴」
 というイメージで受け取られ、そこは、気にもされなかった。
 しかし、事情聴取が終わって、
「車が本人のものではない」
 ということが気になった刑事は、最後の、
「愚痴」
 と思われたその言葉も、気にかかってしまったのだ。
 だからといって、実際に、
「事件性はない」
 ということなのだから、どうしようもなかったのだ。
 だが、この事情聴取が終わってから、3日くらいが経ってからであろうか、K市から、H市に向かう途中、
「つまりは、出会いがしらの事故が起こった峠の道から少し入ったところで、一台の車が見つかった」
 というのだ。
 その車の所有者が誰なのか?
 ということであったが、それが、なんと、
「3日前に、交通事故の事情聴取が終わり、書類が送られて、事故として完全に処理された、人の所有者だった」
 ということであった。
 実際に、その人に話を聞きに行くと、
「ええ、自分の車が、いたずらされて、パンクしていたので、事故が起こった時、普段車に乗らない友達の車を借りることにしたんです。自分の会社は、K市からH市に向かうということで、公共交通機関ではかなりの無理があるので、自家用車での通勤しか難しいんですよ。それを考えると、車が治るまでと思って、友達の車を借りたんですよ」
 というのだった。
「じゃあ、自分の車は、修理に出していたのか?」
 といわれ、
「ええ、そうです。ちょうど車検という時期でもあったので、一緒に車検もしてもらっていたので、元々、2週間くらいは、預けておくつもりにしたんですよ。でも、その間に、自分が悪いとはいえ、事故を起こしてしまったことで、正直、少し自分の中で、ハンドルを握るのが怖くなったんですよ。だから、自分の車を引き取りに行くということも、足が遠のく感じで、しかも、ちょうど相手も、それを話すと、車検の優先順位を下げてもいいかということだったので、いいと答えたので、元々の2週間だったんですが、それが、どんどん後ろになっていったということです。こっちの事情も分かっているので、時間ができたら、車検をお願いするということにしたんですよ」
 といった。
「じゃあ、あの事故から、今はハンドルを握っていないと?」
 と刑事に聞かれ。
「ええ、怖くて握れないですよ。実際に、神経内科に相談もしましたが、怖いと思うのであれば、車にはしばらく乗らないようにすればいい」
 ということだったんですね。
「じゃあ、会社には、今どうやって通っているんですか?」
 ということであったが、
「会社の同僚が近くに住んでいるので、会社まで乗せて行ってもらってます。営業の仕事ではないので、社用車を運転することもないし、仕事も同じ部署ということで、いつも、残業もないので、同じ時間に会社を出れるので、ちょうどいいんですよ」
 ということであった。
「でも、帰りに飲んで帰りたいなどということもたまにはあるんじゃないですか?」
 というと、
「ええ、そうなると、彼も自分も、最初からビジネスホテルを予約して、そこで宿泊することにしているんです。それは、以前からのことですけどね」
 という。
 それは、もちろんのこと。
「家までが近ければ、運転代行やタクシーを使えばいい」
 ということなのだろうが、
「ビジネスホテルで一泊する方が、値段的には安いですからね」
 ということであった。
「ところで、会社では、どんな仕事をしているんですか?」
 と聞かれた時、
「会社では、経理部に所属しています。立場としては、主任という立場で、まぁ、年功序列で、なれるポジションということですね」
 ということであった。
 一般的に会社というのは、
「課長以上」
 というものが、
「管理職」
 ということになる。
 だから、管理職というと、
「残業手当が支給されない」
 ということで、その分、課長以上の手当てが高いということになるのだろう。
 つまり、
「見込み手当」
 ということで、
「残業見込みを含めたところでの、役職手当」
 ということになるので、給料という面で考えると、社員の中には、
「管理職は嫌だ」
 と考えている人も多いだろう。
 なんといっても、管理職というと、その手当は、本来であれば、
「責任を負わされる」
 ということでの手当のはず。
 それを、残業手当に充当されるというのは、実に理不尽だといってもいいだろう。
 それは、ある意味、
「ブラック企業である」
 ということを示しているのであり、自分も管理職になってしまうと、
「会社側の人間」
 ということで、
「部下からはつるし上げをくらい、上司からは、会社側の人間として、一番低い位にある」
 ということで、
「管理職にはなりたくない」
 と考えるのも当たり前といってもいいだろう。
 大きな会社であれば、
「労働組合」
 というものがあり、それは、
「社員側の立場の主張」
 ということで、
「立場の弱い一社員の代わりに、団体ということで、会社との交渉にあたる」
 というものであるが、彼の会社には、組合という組織はなかった。そういう意味では、
「組合を作らなければいけないほど、会社側はブラックではない」
 といってもいいかも知れない。
 彼は名前を遠野といった。
 彼は、心の中で、
「また警察が来るようなことになるなんてな」
 と、半分はうんざりしていたかもしれない。
 というのは、今回の、自分の車が発見されたことでの、警察の訪問の前に、2週間ほど前のことであったろうか、刑事が訪ねてきたのだ。
 今回の事件とは、まったく違うことであったが、その内容というのが、実は、
「H警察署管内で起こった、例のひき逃げ事件に関して」
 のことであった。
 ひき逃げということで、
「H警察」
 とすれば、
作品名:一つしかない真実 作家名:森本晃次