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一つしかない真実

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「事故と事件の両面から調べている」
 ということで、もっとも、
「ひき逃げ」
 という時点で、事件なので、轢いた人間は、確実に、
「犯人だ」
 ということになる。
 問題としては、
「そこに殺意があったかどうか?」
 ということであり、
「殺意があったということであれば、そこに殺害動機が存在する」
 という場合には、
「これは、ひき逃げ事故ではなく、殺人事件になる」
 ということで、捜査の最初は、
「被害者の身辺捜査からの、被害者を殺したいという殺害動機の有無があったのか、どうなのか?」
 ということであろう。
 実際に、今のところ、そのようなウワサは聞いたことがなかったが、どうしても、
「ひき逃げ」
 ということで、しかも、今になっても、
「犯人が自首してくる」
 という様子もなければ、
「事故現場においてのブレーキ痕も怪しい」
 ということで、
「警察が疑う」
 というのも当たり前ということであった。
 いろいろ被害者の捜査をしてみると、
「きな臭い話」
 というのも聞こえてきた。
 それは、
「被害者個人」
 という問題よりも、
「被害者が所属していた会社における、経理係長」
 という立場に問題があるようだった。
 実は、
「会社内部で、使い込みという話が出ていたようなんですが、その犯人を、どうやら、被害者である沢崎が担当していたようで、実際には、上からの圧力も結構あったということでした。へたをすれば、責任を押し付けられて、会社を辞めるか、使い込みを代償するかということで、追い詰められていたのではないか? という話があるようですね」
 と聞きつけてきた捜査員がいたようだ。
 表向きは、
「働きやすくていい会社」
 ということになっている。
 というのは、
「大多数の社員に対しては、確かに働きやすい会社だということですが、それぞれの、役職になる前の、係長クラスに、その重圧がかかっているようで、課長となると、役職となるので、目を付けられやすいということから、その下の係長に、その責任が降りかかってくるというのが、この会社のやり方だったようですね」
 という事情のようだ。
「だから、主任クラスでの、退職者が極端に多かった」 
 ということだ。
 だが、それを、再就職で口にすると、再就職もうまくいかないということで、彼らは泣き寝入りするしかない。それも、会社側の作戦ということだったのだろう。
 そういう意味では、
「沢崎の所属している会社は、限りなくブラックに近い、グレーだ」
 という認識を、まわりは持っていたのである。
 ただ、そういう会社は、
「なかなかぼろを出さない」
 というのが当たり前のようで、
「疑惑はあるが、そこまで」
 ということであった。
 だから、このひき逃げされたということで、会社内でも、
「口封じか?」
 という疑念を抱いた人は少なくはなかっただろうが、もし、そうだとすれば、へたなことをいえば、
「自分の身が危ない」
 ということになるわけで、そうなろと、何も言えない。
 だから、刑事が来た時も、
「あ、やっぱり来た」
 とは思いながらも、何も言えなかった。
「会社を首になるくらいなら、まだいいが、殺されたらたまらない」
 ということで、実は、ここだけの話、
「刑事よりも、沢崎の会社の社員の方が、鋭い考えを持っていたのかも知れない」
 といえるだろう。
 もちろん、その考えが、
「正しい」
 とは言い切れないが、それなりに説得力のようなものはある。
 というのは、彼らとすれば、別の疑問を持っていた。
 それは、
「なぜ、ひき逃げだったのだろう?」
 ということであった。
 もちろん、これが、会社の何かを知ってしまったことでの、
「口封じ」
 ということであれば、これが、推理小説や、サスペンスドラマなどであれば、
「自殺させる」
 というのが、常套手段だろうと考えていた。
 それを、どうして、
「わざわざひき逃げということにしたのか?」
 ということを考えてみたが、その理由として一つ思い浮かんだのが、
「これは、我々社員を相手への脅迫も含まれている」
 ということであった。
 自殺ということであれば、警察の目はごまかせるかも知れないが、社員の間では、
「ただの自殺」
 ということで、
「他にも同じような社員が出てこないとも限らない」
 ということへの
「抑止にはならない」
 ということになるだろう。
 それを考えると、
「今回のひき逃げ事件は、やはり口封じ」
 と考えると、
「誰も、会社の秘密に抵触しよう」
 という人をけん制するということになるのだ。
 そこまで考える人が結構いるほど、この会社は、
「ブラック以外の何物でもない」
 とみんなが思っているのであろう。
「だったら、辞めて、他の会社に行けばいいではないか?」
 ということになるのだろうが、この会社のやり方は、他の会社と違い、結構オリジナルなやり方をしていた。
 それこそ、会社側からすれば、
「けがの功名」
 ということになるのだろうが、
「経験がある」
 といっても、
「他の会社で通用するような経験ではない」
 ということになるのだ。
 だから、
「つぶしが利かない」
 ということで、会社を辞めても、再就職が難しいということになる。
 さらに、これはあくまでも、
「ウワサでしかない」
 ということであるが、
「履歴の中に今の会社の名前があると、嫌われる」
 ということであった。
 だから、
「再就職が難しいかも知れないけど、やめた方がましだ」
 と普通であれば考える人がたくさんいてもしかるべきなのだろうが、
「辞める人はあまりいない」
 という事実がある以上、
「やっぱり、この会社に残るというのは、自殺行為ではあるが、辞めるよりもマシなのかも知れない」
 と思うのだろう。
 完全に、
「飼い殺し」
 といえるが、それでも、
「給料はそれなりに高い水準でもあるし、問題なのは、
「一部の社員」
 というだけで、ほとんどの社員には、
「むしろ居心地はいい」
 といえる職場だった。
 それも、会社側の作戦であり、
「一部の社員に責任を押し付ける」
 というやり方で、今までやってきたのだから、
「それを正しい」
 と考えるのだろう。
 そもそも、この会社は同族会社であり、今の時代、
「同族会社というものは、ほとんど生き残れない」
 といわれているのに、それでも、生き残っているということは、首脳陣とすれば、
「このやり方が最良だ」
 ということで、今さら辞めるわけはない。
 つまりは、
「このままやり通すか、会社がつぶれるかのどちらかだ」
 ということになるだろう。
 そういう意味では、
「他に類を見ない会社」
 ということで、まったく先の見えない状態であるが、完全に固まってしまった会社経営。「もう誰にもどうすることもできない」
 という状態にまできているということであった。
 だから、
「すべてにおいて、過去の経験などから、マニュアル化されている」
 ということで、この時の、
「ひき逃げ事件」
 というのが、会社経営に関係する何かということであれば、
「これも、マニュアルに載っていることを、形式的に実行しただけ」
作品名:一つしかない真実 作家名:森本晃次