一つしかない真実
これが、
「ひき逃げ」
というものの、罪全般ということになるのだ。
ただの、
「業務上過失」
ということであれば、
「殺意はない」
ということで、
「裁判となっても、執行猶予がつく」
といってもいいだろう。
しかし、これが、ひき逃げということで、
「救護義務違反」
というのは、
「見殺しにした」
ということであり、
「報告義務違反」
というのは、
「せっかくの自首の機会を逃した」
ということになる。
ちなみに、
「事故を起こしてから、気が動転し、そのまま帰ってしまったが、後から出頭した」
という場合、
「もし、その場に犯人を示すものが落ちていて、警察が、容疑者の絞り込みを行っていた後だ」
ということであれば、これは、
「自首には当たらず、ただの出頭ということになる」
というものだ。
「自首してきた容疑者」
に対しては、
「罪の軽減」
というものを計ることができるが、
「出頭しただけの容疑者」
に対しては、
「罪の軽減」
というのは、
「自首」
ということに対しての容赦はないということになる。
もちろん、裁判上の、他の要件による、
「情状酌量」
というものはあるだろうが、
「自首というのは、事件発覚で、警察が捜査を始めた時点から以降は、ただの、出頭というころになる」
ということである。
それを考えると、
「ひき逃げ」
というのは、
「自首はありえない」
といってもいいだろう。
そもそも、犯人とすれば、
「事件が発覚もしていない」
と思うと、自首など最初から考えたりはしないだろう。
中には、
「轢いた相手を、別の場所に隠す」
ということでの、
「死体遺棄」
という犯罪を一つ重ねることになるというものだ。
そもそも、
「死体が発見されなければ、事件にはならない」
といえる。
もし、行方不明になっても、警察は、
「明らかな事件性がなければ、捜索はしない」
ということで、それこそ、死体が見つからない限り、捜査をされることはない。
しかも、死体が発見されて、腐乱していたり、白骨化していれば、被害者の特定も難しいだろう。
「DNA鑑定しようにも、あらかたの人物特定ができていない限り、鑑定の仕様がない」
ということになる。
そういう意味で、ひき逃げをしてしまうと、普通であれば、
「死体を隠す」
というところから、
「自首は絶対にありえない」
ということで、その時点で、かなりの凶悪犯に近い状態になっているに違いない。
そんな中で、一つ疑問点が持ち上がった。
そもそも、
「K警察署管内で起こった出会い頭の事故」
というのは、
「どう見ても、事件性はない」
ということで、ほとんど、
「交通課による、事務手続き」
ということで終わるだけだった。
つまりは、調書を取って終わりということであり、後の車やけがの治療代などの、金銭的な問題は、
「車に入っている、自賠責保険であったり、任意保険による解決ということで、警察は、あくまでも、事故証明」
というものを出すだけのことであった。
事故が起こってから、数週間ほどしてから、被害者と加害者に出頭が言い渡された。
この場合、
「出会いがしら」
ということで、
「被害者」
「加害者」
という言い方ははばかるべきなのかも知れないが、
明らかに、
「スピード違反」
という道路交通法違反を犯していることで、けがは自分の方が大きかったが、やはり、怪我の度合いというよりも、違反が重いということで、便宜上であるが、怪我が大きかったとしての、
「加害者」
ということになるだろう。
警察においては、最初、事故発生においての時点で、
「加害者が、救急車で運ばれた」
ということで、確認できなかったことを、この時に行ったのだ。
もっとも、
「事件性はない」
ということで、しかも、
「人身事故」
ということなので、後からどうせ、
「事情聴取は行う」
ということになっているので、
「その時でいいだろう」
ということであった。
警察への出頭における主な内容としては、
「警察内で、被害者と加害者が顔を合わせる」
ということはない。
その場でトラブルがあるとまずいということになるのだろうか、まずは、警察は30分か1時間という時間差を設けて、まずは、最初に被害者を呼び出すことになる。
ただ、今回の事情聴取は、少し違っていた。
そもそも、
「なぜ、時間差を設けるか?」
というのは、
「交通事故でけがをさせたということでの人身事故」
ということになると、加害者は、被害者に対して、
「お詫びの姿勢」
というものを示し、それを踏まえたうえで、警察が、
「告訴はしないか?」
と訊ねることになる。
そして、告訴はしないということになると、そのまま、事情を聴くだけで終わるのだ。
だから、告訴の問題というものがあるから、
「この時に、二人が顔を合わせるのはまずい」
ということになる。
しかし、今回の事故は、
「けがをした方が、加害者」
ということなので、告訴などができるはずがない。
ということで、警察の方とすれば、
「事情聴取と、その時の現場検証」
ということで、話を聞くだけで、現場に行くこともなく終わらせるということだったのだ。
実際には、それで終わりだった。
事情聴取が終わった時、事情聴取を行った二人の刑事だったが、一人の刑事が、疑問に思ったことがあり、それが引っかかったのだ。
というのは、
「加害者の乗っていた車は、本人所有」
というものではなかった。
ということであった。
事故の日は、救急車で運ばれていったので、その人が気づいた時、身元確認くらいしかできなかったのだ。
本来であれば、
「車検証の確認」
というのを行うのだろうが、車に積んだ状態で、しかも、車が大破していたことで、家族が、車の修理というのを請け負う形で、そちらは、スムーズに行われた。
だから、車検証の確認。つまりは、車の所有者としての確認は、まだだったのだ。
これは、もちろん、
「事件性がない」
ということで、
「後回しになった」
というだけのこと、
「後から聴取すればいい」
という甘い考えであったが、それが、後から疑問ということで沸き上がってくるのであった。
交換
「それじゃあ、車検証を確認させてください」
ということで、一人の刑事が聞くと、事情聴取されている男は、急に怯えたような様子になったのを、もう一人の刑事は、
「おや?」
という感じで、不思議に感じたのだった。
聞いた方の刑事は、
「あくまでも、事務的な処置」
ということで、余計なことを考えないようにしていたことで、別に相手の態度が少々変わったくらいでは、別に気になることはなかった。
だから、男が車検証を提示して、
「その車の所有者が、本人ではない」
ということが分かっても、
「ああ、他人の車を借りたんだな」
という確認をしただけで、
「保険会社の方が少しややこしくなるかも知れないな」
と心の中で感じただけで、目の前の男は、手間がかかるかも知れないが、ある意味、



