一つしかない真実
ということになるだろう。
警察は、
「何か怪しい」
と思いながらの捜査であったが、結局は、
「通り一遍の捜査」
ということで、実際の闇の部分に切り込むようなことはまったくなかった。
だから、少しでも、
「会社が怪しい」
ということに気づけば、公安の動きなども気にするのだろうが、さすがに、
「ひき逃げ事件」
ということで、そこまでは考えない。
今のところ、会社の人間関係くらいにまでしか立ち入ることはなかったのだが、その中に、
「別会社」
ということであるが、遠野の存在が浮かんできたというのは、ある意味、
「ファインプレーだった」
といってもいいかも知れない。
ただ、その時点では、まだ何も判明していないということで、空回りに過ぎなかったが、遠野も、
「沢崎がひき逃げされた」
ということを聞いて、
「背すじが寒くなった」
という気がした。
沢崎が、何かを遠野に話したわけではないが、特に最近、沢崎とは、
「よく連絡を取るようになった矢先のことだった」
ということで、
「これをただの偶然といってもいいのだろうか?」
と感じたのも事実で、遠野に話を聞きに来た刑事は、遠野は、
「同じ会社ではない」
ということから、あまり、深く気にはしていなかったのだった。
今回、少し警察が来たことで、ドキッとしたのは、
「車を交換した」
という事実が、過去から何度かあったからだ。
というのは、
「もちろん、犯罪に絡むことではないので、別に悪いことではない」
ということであるが、
「二人は車が中途半端に好きだ」
ということで、偶然ではあるが、
「時々、違う車を運転したくなる」
という衝動に駆られることがあった。
最初は、そんな癖を持っていると、
「なんか変な奴だ」
ということで、バカにされ。友達関係を解消されるということがあったので、なるべく言わなかった。
しかし、
「お前の車、たまに運転して見たくなるんだよ」
と沢崎が言ったことがきっかけで、
「実は俺もなんだ」
ということから、それぞれに、話が弾んでいったのだった。
それから、時々二人は車を交換するようになったということだったのだ。
そこには、なんら、曰くがあるわけではなく、
「単純に、自分たちの利害が一致した」
ということであり、
「別に犯罪でもないんだから、かまわないじゃないか」
ということで、そこから、二人は急速に仲良くなっていったといってもいいだろう。
そもそも、
「会社が違う二人が、仲良しなのか?」
ということを疑問に感じていたが、その理由を刑事が知ることになったのは、
「遠野の車が、山奥で見つかった」
ということがきっかけだったのだ。
つまりは、最初に、H警察の刑事から、
「沢崎の事件の件で」
ということでやってきてから、2週間ほどで、今度は、K警察から、
「あなたの車が発見された」
ということでやってきたのだ。
その時には、
「出会いがしらの事故」
というものは、片付いていて、その件とはまったく別件ということで発見されたということで、警察から呼び出されたのである。
ただ、その時、車を貸していた相手が、ひき逃げされた沢崎だったのだ、
その時、実は、遠野には、一つ疑問があった。
「車を貸していたのに、どうして、車を使わずに、徒歩だったのだろうか?」
ということだったのだ。
考えられることとすれば、
「駐車場のないところへいく」
ということと、
「駅までいって、電車に乗るつもりだった」
ということ、そして、
「車を運転してはいけない。つまりは、飲み屋への移動中だった」
ということのどれかではないか?
ということであった。
これに関しては、警察は考えていなかったようで、疑問に思ったのは、遠野だけだったのだ。
警察とすれば、
「車を交換している」
などということを知らないので、あまり気が回っていなかったのかも知れない。
というのも、あくまでも、
「事件性の有無」
というものを判明するために行っている、
「身辺調査」
ということなので、それこそ、
「言われたことを調べているだけ」
という、いかにも、
「公務員的な考え方」
でしか動いていないので、そんなところまで頭が回るわけはないのであった。
実際に、沢崎は、
「会社組織の中の一員」
ということでは、ブラックなところがあったが、
「同僚や友達関係においては、別に怪しいところはなかった」
ということで、
「事件性があるとすれば、会社絡みか」
と思えたが、この時点で、
「会社がひき逃げに絡んでいる」
という証拠も、その根拠もなかった。
そもそも、警察は、
「何かに絡んでいるとすれば、ひき逃げなんて方法は使わないよな」
とは思っていた。
それは、一般人が考えるような、そこから発想がつながっていくようなものではなく、
「ひき逃げということであれば、それは、会社とは関係がないということの証明になるのではないか?」
という、一種の、
「自分たちに都合のいい考え方」
ということになるのだ。
だから、結局は、
「事件ではあるが、殺人事件というような、殺害動機を伴う計画犯罪ではないのではないか?」
ということで、単純な、
「ひき逃げ事件」
ということで、捜査本部は一応立ち上がりはしたが、今のところ、他に事件がないから立ち上がったというもので、他に、「
「もっと重要な凶悪犯罪」
というものが出てくれば、
「優先順位は逆転する」
ということを、承知での、
「捜査本部立ち上げ」
ということになったのだ。
ギャップ
今回の事件は、
「単純なひき逃げ事件」
ということで、そうなると、
「一番にしなければいけない」
というのは、
「目撃者探し」
ということである。
事故現場には、
「目撃情報を探している」
という旨の立て看板を立て、目撃者を募るというものだ。
もちろん、
「自分たちの足を使った捜査」
というのも、並行して行う。
近所の人への聞き込みであったり、日ごろ、
「このあたりを賛否している人がいないか?」
などといった、
「地道な捜査」
というものである。
これは、
「昭和の時代」
であっても、今の、
「令和において」
も同じことであり、
「事件を解決するための、マニュアル」
といってもいいだろう。
ただ、今の時代は、そこに、
「防犯カメラ」
であったり、
「ドライブレコーダー」
などというのが、役に立つということだ。
しかし、今回の事故においては、前述のように、
「防犯カメラの映像」
というものが、
「犯人の特定」
にまで至らなかった。
被害者の身辺調査において、防犯カメラの映像から、いろいろ聞いてみたが、
「顔を判別するのが難しい」
という状態では、一般市民からすれば、
「へたをすれば、関係のない人間を巻き込んでしまう」
と考えると、
「へたなことは言えない」
となるだろう。



