悪党の因果応報
といえるのではないだろうか?
「悪党」
というものは、そもそも、語源が違うというもので、そういう意味で、
「本当の意味での悪党」
というものが、
「どのように表現すればいいのか?」
実に難しい問題だといってもいいだろう。
卓也のことを、まわりの人は、
「悪党だ」
といっていた。
それを見かねて、
「誰かが殺してくれた」
ということで、自殺として処理することになったのも、
「その誰かのために、波風を立てなければ、自殺ということで犯人捜しをせずともいい」
とみんなが考えているようだ。
「卓也という男が何をしたのか?」
というと、
「この男は、自分が手を下していない」
ということが、悪党の証拠だということであった。
この男は、学生時代に、そのカリスマ性から、まわりから、ちやほやされ、一種の、
「教祖」
のようなものに祀り上げられていた。
もっといえば、
「少々お金を持っていた」
ということで、まわりからは、
「いい金づる」
ということで、しかも、
「おだてに弱い」
ということから、何かあっても、おだてておけば、この男に責任を負わせることで、まわりは、甘い汁が吸える。
ということであった。
ただ、これは、
「一部の取り巻きだけへの特権」
ということであった。
それ以外の、この男とは、中途半端にしか関わっていない人間にとっては、その存在自体が、
「有難迷惑」
であった。
もっといえば、必要悪の正反対。
見た目は、何も悪くないのだが、やっていることは、
「悪党そのもの」
この男は、大学時代に、
「どれだけの人に、どれだけの迷惑をかけた」
というのだろう。
一番ひどかったのは、大学二年生の時の夏休み。
取り巻きをつれて、山にキャンプに行った時のことだった。
やつが、一人の女性を好きになったようで、そもそも、女性と仲良くなるというようなことができる人間ではなかった。
「お金で女を手に入れる」
あるいは、
「お金目当てで寄ってくる女を相手にする」
というだけで、それまでは満足していたようだ。
しかも、
「お金があるから、風俗にいけば、ちやほやもされる」
ということで、
「オンナには不自由っしていない」
ということであった人間が、
「まったくやつとは関係のない女を気に入ってしまった」
ということであった。
普通の恋愛などできるはずもない。
「女性に気を遣う」
などということができるはずもないので、
「何をすれば失礼に当たるのか?」
など分かるわけもなく、彼女に対して、明らかに失礼なことをしてしまったことで、彼女を怒らせたのだった。
普通の男性であれば、
「自分を戒めてくれた女性に対して、男として考えることもあるのだろうが、この男のように、根っからの悪党は、この女を、輪姦する」
という計画を立てた。
取り巻きもさすがに、足踏みをしたが、それが抜けられないほど、取り巻き連中も、
「逃げられない」
というところまで来ていたのだ。
大団円
「お前たちは、俺と組んで今まで、表に出てくるとヤバいことをしていただろう」
といって、脅迫した。
この卓也という男の恐ろしさは、
「自分のあくどさというものを知っていて、それをまわりに、いかに強要させるか?」
ということが分かっているということだ。
「悪知恵が働く」
などというレベルではない。
ある意味、
「あくどいことに関しては、天才的だ」
といってもいいだろう。
そう、
「この男が正真正銘の悪党だ」
というのは、そこにあるということである。
そこで、やつは、自分が目を付けた女を犯し、そして、皆も同じように強姦した。
これは、
「卓也は、この女がほしいという思いからの犯行ではない。自分に逆らったらどうなるか?」
ということを思い知らせるためにやったことだったのだ。
そして、自分以外の他の人をつれてきたのも、
「他の連中にも、一蓮托生:
ということで、
「これ以降も、自分には逆らえないようにする」
という思いと、さらには、
「自分を馬鹿にした女に、恥辱と屈辱を味わわせる」
ということが、最大の目的だったということだ。
当然、この強姦に関わった連中の目は、狂気にみちていたことであろう。
ありったけの悪党が表に出てきたことで、
「悪党というものが、一人の男の中で完成した」
あるいは、
「成就した」
といってもいいだろう。
彼女は、写真も撮られ、
「これから一生、この連中のおもちゃにされる」
と考えたのだろう。
味わった
「恐怖」
と
「屈辱」
そして、さらには、
「将来を踏みにじられた」
ということを考え、自ら命を断ったのだ。
本来であれば、
「ここで死ぬと逃げることになる」
と考えたかも知れないくらいに、彼女の精神は強かったという。
だからこそ、
「彼女が自殺をするなんて」
ということで、皆が悔しがったものだ。
実際に、彼女の中に残っていた体液から、血液型も分かっていて、捜査をすれば、
「やつがあやしい」
ということも分かりそうなものだったのだが、急に捜査が打ち切られた。
なんと、やつも取り巻きの中に、
「権力者の息子」
というのがいたのだ。
やつとすれば、
「まさか卓也がここまでの悪党だとは知らず、半分は父親への反発くらいに思っていたのが、本当にヤバい」
ということから、不本意ながら、親に話し。親から警察に圧力がかかった。
「それもいざという時利用する」
というつもりで、その男を取り巻きにしたのだった。
その関係はずっと続いていて、その因果が今に報いたといってもいいだろう。
あの暴行事件から、15年という歳月が経っていた。
昔であれば、
「殺人事件なら時効」
と呼ばれるものであった。
卓也が、こんなに悪党になったというのは、
「親の因果が子に報い」
といってもいいかも知れない。
父親はかつて、
「年寄りを狙った詐欺を計画していた仲間を、殺してしまった」
という過去を持っていた。
「お互いに借金取りに追われている」
という、
「同じ立場だ」
ということで相手を安心させ、詐欺で奪い取った金を、最後には独り占めしようと、最初から考えていたのであった。
そんなことを知らない仲間は、すっかり相手を信じ込んでしまっていて、
「悪党は悪党なりのルールと心情がある」
と相手に思わせることで、安心させることに成功したのだ。
本来であれば、
「そこまで欲の皮が突っ張っている」
というわけではないのに、この父親とすれば、
「毒を食らわば皿まで」
ということで、
「中途半端は許されない」
と思っていたのだった。
だから、この父親のモットーは、
「妥協は許されない」
ということであった。
「悪党なら悪党らしく、同情などは、まったくの無意味」
と考えていた。
その考えが、息子にも遺伝していたというべきか、それとも、
「因果応報」
ということになるというのか、
「あの親にしてこの子あり」
ということになるであろう。
父親は、
「誰かに殺されたかも知れない」



