小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

笑みの中の恐怖

INDEX|9ページ/16ページ|

次のページ前のページ
 

「渡辺巡査と仲が良かった」
 という人も結構いて、
「実際に、警察内部で、友達が多かった」
 というのも、渡辺氏の特徴だったといえるだろう。
 ただ、若手刑事というのは、頻繁に会えるものではない。
「交番勤務から刑事課に異動すると、時間なんて、あってないようなものだからな」
 という人が多く、次第に、飲み会などから遠ざかっていく人が、徐々に増えてきた。
 そうなってしまうと、
「定期的に飲み会を開いていた」
 という連中も、次第に、
「飲み会は自然消滅」
 ということになり、各々の仕事場が、最優先ということになるのだ。
「交番勤務の、時間制」
 というのは、規律という意味で重要だった。
 しかも、
「刑事になって、自分のための時間というものを忘れてくるようになると、えてして、事件に対しての時間の感覚も分からなくなってしまうということになれば、それは、あまりいいことではないだろう」
 それを考えると、
「警官の時代に、無駄だと感じていたかも知れないことも、ステップアップしてから、そのことが改めて重要だったのだと感じると、警官時代が無駄ではなかった」
 と初めて思うだろう。
 一度感じると、似たような感覚を味わうということは、えてしてあるというもので、
「警察における階級制度というのも、バカにできるものではない」
 と感じることだろう。
 しかし、
「キャリア組は、そういう下積みをすっ飛ばして、どんどん昇進していく」
 ただ、
「その間に越えなければいけない壁」
 というのは、かなりのもので、
「実際には、一人の人間が、キャリアと、ノンキャリというたたき上げを両方超えてきた」
 という人間は、一人もいないわけなので、逆にいえば、
「第三者の中に、その二つを平等に、そして、それぞれの立場から公平に見ることができる」
 という人がいなければいけないともいえるだろう。
 ただ、どうしても、
「第三者の目」
 というと、
「そこに、平等や公平」
 というものが共存できないという、
「ジレンマ」
 というものがあるに違いない。
 もっといえば、
「主義」
 という観点から、
「自由というものを優先し、平等を犠牲にした」
 という
「民主主義」
 というもの。
「平等というものを優先し、自由を犠牲にした」
 という
「社会主義」
 というもの、それぞれに、一長一短があるだろうが、それをいかに、
「いいところだけを結びつけるか?」
 ということが、物理的に不可能である。
 ということは、
「世界情勢が証明している」
 ということで、
「相合われぬ、並行世界」
 といえるような、一種の、
「パラレルワールドではないか?」
 といえるだろう。
 現場における捜査としては、ハッキリとしたことは分からなかった。
 ただ、
「事故だということであっても、不自然だ」
 というのも実際にはある。
 なんといっても、
「死亡推定時刻」
 である。
 完全に日が暮れているはずの時間、こんな寂しいところに、わざわざ来るというbのは、当然のことばがら、
「何か目的を持っていなければ、来るはずのないところ」
 ということである。
「この登山道を通って、どこか、民家に行くということはないでしょうね」
 ということを刑事が聞いていたが、
「そんなことはないでしょう。地元の人間でも、日が暮れれば、山に入るなどということをする人はいません。素人が、迷いこむようなところでもないので、おかしいといえば、確かにおかしいですね」
 と警備隊の人はいうのであった。
「ということは、殺人の可能性も、高くなってきたということでしょうか?」
 と若い刑事がいうと、
「それはなんとも言えないが、この場所に死体が放置されているということは、何か意味があるということだろうな」
 と、その時の現場責任者としての、
「桜井警部補」
 は言った。
 桜井警部補は、
「殺害現場はここではない」
 という考えが強かった。
 そして、それを、若い刑事である、
「清水刑事」
 にいうと、
「じゃあ、いつ運ばれてきたんですかね?」
「それは、早朝の夜明けくらいじゃないかな? それ以外は真っ暗だから、死体を遺棄するとしても、遺棄する意味がないような気がするんだ」
「えっ、それはどういう意味ですか?」
 と、清水刑事はビックリしたように聞くと、
「運ばれてきた時間帯というのの問題なんだけど、死体を遺棄する意味、つまりは、どうしてここだったのか? ということの方が大きな意味を持っているような気がするんだ」
 ということであった。
 清水刑事が考えていると、
「ここでなければいけないという意味があったのではないかと思ってね。要するに、ここにメリットがあるのか、他ではデメリットが大きいのか?」
 それを聞いた清水刑事は、
「その理由の方が、死体を移動させるというリスクに比べて、大きいということなんでしょうか?」
 という。
「そうだね、死体を動かすということは、当然、それだけのリスクがあるわけで、そのリスクというのは、デメリットに直接結びつく。しかし、そこに強いメリットが存在し、その理由を、簡単に警察がたどり着くことができず、事件の核心を掴むということであったとすれば、それが、一番のメリットということになるのではないだろうか?」
 といえるだろう。
「桜井警部補は、その理由をどのようにお考えですか?」
 と、清水刑事が聞くと、桜井警部補は苦笑いをして、
「そんなに簡単に分かれば、それこそ、警察はいらないというようなものだよ」
 といってさらに笑った。
 今度は苦笑いではなく、自嘲に似た複雑な笑顔なのは、
「警察はいらない」
 ということを、
「自分がいうか?」
 と考えさせられることであり、
「自分も偶然とはいえ、よくそんな言い回しができたものだ」
 ということになるだろう。
「確かにそうですね。今の段階でそんなに簡単に分かれば、警察はいらないですよね」
 といって、清水刑事は笑った。
 清水刑事は、これを、
「皮肉な言い回しだ」
 ということは感じているだろうが、桜井警部補のように、
「自らの経験からの笑み」
 ということではないということに、どれだけ分かっているということになるのであろう?
「とにかく、事件性云々にかんしては、解剖結果の所見を見ることと、亡くなった人の、人間関係などを調べていくことで、新たに分かってくることもあるというものだ」
 と、桜井警部補は言った。
 桜井警部補の中で、
「死体を動かした」
 ということは、可能性としては高いと思っていて、
「動かした場所がここ」
 ということから、元々の殺害現場というのが、
「この場所に似たところ」
 という考えになるのか、あるいは、
「死体を動かしたことを、不思議に感じさせない」
 というようなわけがあるのではないか?
 と考えると、
「死体を動かしたということの意味」
 が、重要になってくるということになる。
 その優先順位が、事件に、どのような関係性を持たせるか。桜井警部補は、そのあたりまで考えていたのであった。
 ただ、この会話は、
「実際に聞いていた人がいたわけでもない」
 ということでもあるし、
作品名:笑みの中の恐怖 作家名:森本晃次