笑みの中の恐怖
「何回同じことを言わせるんだ」
と、うんざりさせられることであろう。
人によっては、
「時間が経つと、微妙に証言が変わってしまう」
という人もいるかも知れない。
または、
「同じことを何度も話しているうちに、何が正しいのか分からなくなってしまう」
という人もいるだろう。
それを考えると、
「あの人は、証言が違う」
ということから、
「目撃者が怪しい」
ということになりかねない。
なんといっても、
「人間の記憶ほどあてにならないものはない」
というではないか。
そんな、
「あてにならないもの」
というのを根拠にして、
「犯人として疑われる」
というのはありえないといえるのではないだろうか?
それこそ、
「冤罪を生む」
ということになってしまいかねない。
それなのに、
「なぜ、最初に事情聴取した人の意見を取り入れないのだろうか?」
ということである。
もちろん、最初に事情聴取した後で、その話を聞いたうえで、
「何か気になるところがある」
ということであれば、
「補足して話を聞こう」
ということであってしかるべきである。
それだけ、
「下級警官のいうことは信用できない」
ということになるのであろうか?
だったら、最初から警官に話を聞かせるのではなく、警官に対し、
「事情聴取をしてはいけない」
ということにしておいた方がよほどましだといえるのではないだろうか?
それを考えれば、
「まるで、地層のような警察組織が、少しでも、年輪のように、規則正しい環境で出来上がっていて、信憑性のあるものであれば、捜査も、もっとスムーズに進み、階級による、軋轢のようなものができる」
ということはなくなるに違いない。
そもそも、警察官というものは、
「公務員」
ということであり、
「杓子定規」
といってもいいだろう。
だから、昇進にも、
「試験」
というものがあり、それをパスしないと、上にはいけないということだ。
しかも、その階級ごとに、その力が歴然と違い、
「警部補以上でなければ、捜査権がない」
というようなものである。
実際に、警察を辞めた人は、巡査部長ということで、
「交番では、先輩警官」
ということで、
「新人の教育を行う」
などという立場だったようだ。
警察官としては、
「現場で、庶民のために、第一線で働く」
ということから、
「無理に昇進したい」
とは思っておらず、
「昇進試験に対しても、興味はない」
というようであった。
「刑事になりたいのであれば、県警に推薦してみるが?」
と言われた時も、
「いえ、まだ私はここで勉強します」
といって、断ったくらいだ。
実際に、
「推薦しよう」
といっても、皆が皆、
「刑事になりたい」
と思っているわけではなく、そういう意味では、
昔に比べて、骨のあるやつが減ってきた」
ということになるのであろうが、そんな、
「昭和の刑事」
のような人がたくさんいるとは思えない。
ということで、
「警官でいけるところまでいく」
と考えている人も少なくはないだろう。
「刑事になったとしても、俺一人が頑張ったって、何かができるわけではない」
ということで、
「警察組織の理不尽さ」
というものを味わうだけということになるのだろう。
それを考えると、
「警察官になったはいいが、なるんじゃなかった」
と思って。辞めていく人もいる。
ただ、難しいところは、
「警察を辞めた」
ということで、
「次の職があるかどうか?」
というのは、難しいところである。
「警察は、潰しが利かない」
といってもいいだろう。
確かに、
「警察という職が特殊だ」
ということで、なんといっても、公務員ということだ。
考えてみれば、
「警部補や、警部として、捜査の第一線で活躍している人が、警察を辞めたということで、別の職に就いたとして、どんな職を想像できる」
というのだろうか。
「スーパーの店員」
「営業職」
など、想像もできないだろう。
それこそ、
「制服が似合う」
ということで、
「警備員」
などの仕事であれば、そのイメージは出てくるかも知れない。
そういう意味では、
「山岳警備隊」
などというのは、実に、その通りだといってもいいだろう。
「刑事というと、肉体労働」
ということだからといって、
「土方」
などは、まったく想像できるものではない。
それこそ、それまで、
「刑事」
ということで、威張った態度をとっていた人が、日雇いのような仕事をしているとすれば、
「警察の威信」
というものが疑われる。
と考える人もいるだろう。
もっとも、そんなのは、一部の発想というだけで、
「よほど、警察というものは、威信が大切だ」
という、
「威信神話」
などと言われるものを持っている人ではないだろうか?
それを考えると、
「職業に貴賎なし」
ということになるのだろうが、
「警察に関しては、そうもいっていられない」
といってもいい。
それは、
「公務員全員」
にいえることなのかも知れない。
公務員というのは、
「公務員法」
と呼ばれる。特別な法律によって、
「守られたり」
あるいは、
「制限される」
ということになるであろう。
それを考えると、
「警察官になってしまえば、辞めたとしても、元警察官」
ということを、意識しておかなければいけないということであろう。
そもそも、公務員というのは、
「何か犯罪を犯せば、実名で報道される」
というリスクも負っているというわけである。
なんといっても、公務員というのは、
「国民の血税」
というもので、飯を食っているのである。
つまりは、
「国民の手本であるべき」
ということで、
「政治家や、警察」
などを中心とした公務員には、
「一定の権利も与えられていて、何か不都合なことをしてしまうと、実名で晒される」
というリスクも負うということになるのである。
この山岳警備員は、名前を
「渡辺」
という男で、今年、28歳になっていた。
まだまだ、
「若さ溢れる」
といってもいいが、心のどこかで、
「何かの限界」
というものを、感じているようだった。
渡辺警備員が、警察を辞めたのは、
「どこか、自分の居場所ではない」
と考えたからだ。
確かに、渡辺は、
「正義感あふれる」
ということはない警官で、最近の、
「典型的な若者」
といってもいいかもしれない。
確かに。警察官を志した時は、
「自分の中にも正義感というものがあり、燃えていた」
とも思うのだが、それが
「警察を辞めよう」
と思った時には、そんな気持ちがあったことすら、意識もしていなかったのであった。
警察官を辞めてからというもの、最初こそ、
「忙しいのに、報われない時期があったことで、精神的にも疲れた。いい加減楽をしよう」
と思った。
だから、最初の3か月くらいは、ゆっくりして、それから徐々に職を探そうと思ったのだ。
しかし、世の中そんなに甘くはなかった。
「まだ20代だし、元々警察官なんだから、職はいくらでもあるだろう」



