笑みの中の恐怖
「まだ何も分かっていない段階だ」
ということであった。
ただ、
「桜井警部補が、渡辺元巡査に眼をつけた」
という、
「まるで、突拍子もない勘というもの」
それが、
「事件を一気に加速させる装置になっている」
といえるのだが、桜井警部補が、
「刑事の勘」
と思っている時点では、その確証を掴むだけの真実というものを、
「まだ分かっていない」
といえるだろう。
事件の真実というものが、
「ここから先、いかに」
いや、
「どのように見えてくるのか?」
ということを、桜井警部補は、
「青写真」
として描いているようであった。
ただ、今ハッキリと分かっているのは、
「何をしないといけないか?」
ということであり、その一つであり、しかも、
「最優先課題」
ということが、
「奥さんの所在の確認」
ということであり、今捜査本部としては、
「これを、
「行方不明者」
ということだけで、
「失踪事件ということで、情報を得るだけにすべきなのか?」
それとも、
「この事件に特定したこと」
ということでの、
「犯人ということではなく、失踪者」
ということでの、
「全国指名手配」
ということにしての、公開捜査に踏み切るか?
ということであった。
桜井警部補としては、
「犯人を刺激したくない」
という考えから、
「全国指名手配には、時期尚早」
と考えていた。
今までであれば、いの一番に、
「指名手配をするべき」
という桜井警部補が、今回に限って消極的だということが、皆を慎重な気持ちにさせるのであった。
行方不明となっている奥さんのことをいろいろ調べてみると、実は不可解なことがあるようだった。
特に、10年前に奥さんは、ある事件で、知り合いが殺されていたということが分かった。
一時期、
「重要参考人」
ということで捜査を受け、
「逮捕も辞さず」
ということになったようだが、それに関しては、
「その直後、犯人が自首してきた」
ということで、逮捕もされなかった。
警察とすれば、
「もう少しで、冤罪を生むところだった」
ということで、当時は、マスゴミから結構非難を受けたようだが、もう、10年も前の話、当時のことを覚えている人もそんなにはいないだろう。
なんといっても、
「事件は毎日のように起きていて、一つのことに、しかも、解決した事件について、誰もこだわっていた李はしない」
ということだ。
しかも、
「人のうわさも75日」
というではないか。
いちいち気にしていては、時間だけが過ぎていくというものだ。
「何の成果もなく、時間だけが過ぎていく」
ということほど、もったいないものはない。
幸いにも、
「過ぎる時間は、待ってくれない」
というわけで、特に警察は、日々、時間に追われているわけである。
捜査員も、奥さんのそんな過去を気にしながら、
「なかなか見つからない奥さん」
を考えると、
「もう、生きていないのでは?」
と思えて仕方がなかった。
しかも、このタイミングで、旦那が殺害されている。奥さんの失踪と、旦那の死に、かかわりがないとはどうしても思えない。
それが、
「奥さんの過去」
ということであった。
調べれば、奥さんの過去はすぐに露呈することだろう。
旦那の死とのかかわりも、調べれば調べるほど濃くなっていくわけで、それが、
「この事件の骨格になるものだ」
と考えれば、
「どこか、わざとらしさがある」
と考えられるというものだ。
そうやって調べてみると、
「奥さんと、旦那の事件の第一発見者である渡辺元巡査が、微妙に関係している」
ということが分かってきた。
もちろん、最初に分かったのは、
「刑事の勘」
というもので推理していた桜井警部補だった。
実際に、その
「刑事の勘」
というものがなければ。
「まったく二人の関係に気づく」
ということはなかったであろう。
確かに奥さんの失踪というのは、事件性があるものとして捜査はされるだろうが、調べれば調べるほど、
「奥さんと、渡辺元巡査の関係」
というものは結びついてこない。
それこそ、
「交わることのない平行線」
ということで、
「渡辺元巡査というのが、蚊帳の外だ」
ということであれば、まったく想定外のことだったであろう。
大団円
渡辺元巡査は、殺された榎田と接点はあった。
といっても、山岳警備隊として活動を始めてから、山登りが好きだった榎田と、よく話をしていたという程度だったのだが、よく話を聞いてみると、
「渡辺が、山岳警備隊に興味を持って、入隊するかのように仕向けたのは、榎田だ」
ということであった。
しかも、渡辺が山岳警備隊に入る前から、渡辺と、榎田夫妻とは仲が良かったというのだ。
そして、捜査をっすると、分かってきたのは、
「奥さんと、渡辺の関係」
ということであった。
「二人は以前から仲が良く、奥さんが10年前に起こした事件では、まだ大学生だった渡辺を、奥さんが誘惑していた」
という話もあった。
どうやら、
「渡辺にとって、最初の女ではないか?」
という噂もあったくらいだ。
奥さんは、まだ、当時は24歳くらいだったという。
大学に入学してすぐの渡辺からすれば、
「かなり年上のお姉さん」
ということだった。
大学一年生の頃の渡辺は、
「自他ともに認めるうぶな青年」
ということで、まだ童貞だったというのは、誰の目にも明らかなことだった。
「そんな関係、榎田は知っていただろうか?」
ということであったが、そもそも、榎田という男も、
「人から信頼を受けることはあっても、決して恨まれることはない」
という人だったということは、誰に聞いてもそういう答えしか返ってこない。
つまり、
「容疑者は皆無だ」
ということだ。
さらに、
「榎田が死んだことでメリットがある」
という人もいない。
そうなると、今のところ考えられるのは、
「奥さんが浮気をしていて、その関係で、旦那が巻き込まれた」
という考えであった。
さらに、それを暗示するかのような奥さんの失踪である。
そして、気になるのが、
「旦那が殺された場所はここではなく、別の場所で殺されて。ここに置き去りにされた」
ということであった。
となると、
「どうして、そんな手間がいるのか?」
ということになる。
それを桜井警部補は、確証はあないが、一つの結論を持っていた。
というのは、
「殺害現場を明らかにされると都合が悪い」
ということである。
普通、
「犯行現場を変える」
ということは、
「アリバイ作り」
ということから、
「犯行現場が発見現場である場合に、犯人にはアリバイがある」
ということにしたいからである。
しかし、
「犯行現場を変えるということ」
あるいは、
「アリバイ工作」
ということになれば、もう一つ考えられることとすれば、
「死亡推定時刻をずらず」
ということである。
考えられるのは、
「死体を冷やしたり。温めたりすることで、死亡推定時刻をごまかす」
ということであったり、もう一つは、



