腐食の後悔
ということで、一応、課長という役職にはあったが、あくまでも、
「年功序列」
ということでのポストであった。
しかし、それだけではない。彼の立場というものは、本来の力によるものではないことは皆にも分かっていた。
この会社は、半分は、実力主義による役職で、残り半分は、年功序列だった。
吉岡専務が入ってくる前からの体制なので、そう簡単には、一気に変えることもできず、
「元々は、完全な年功序列だったものを、半々くらいにできるのだから、さすが、吉岡専務だ」
というところであろう。
吉岡専務の改革は、主に、
「営業部」
の改革であった。
管理部に関しては、管理部長から選出された人が担っていたが、彼は、立場的には、
「吉岡専務の下」
ということで、管理部長のポストも、若い頃に入社して、たたき上げの状態で上がってきたという自負があるだけに、実際に、
「吉岡の下」
ということに関しては、
「屈辱的」
ということであった。
だから、
「不正献金問題」
というものが起こった時、吉岡が、
「経理部にその責任を押し付ける」
というやり方を取ると知った時、身体全体に震えがくるほどに怒り心頭であった。
「なんであんなやつに、自分の管理部を、荒らされなければいけないんだ」
ということであった。
もちろん、
「社長をはじめ、首脳陣の決定」
ということで、逆らうことができないのは分かり切っていることであった。
管理部長は、名前を
「清水」
といい、今回ターゲットとされた、西郷をかわいがっていた。
元々は、
「おとなしくて、従順なところがある社員」
ということで、
「扱いやすい社員」
ということで、
「利用価値」
として、ひいきしていたのだが、一緒にいると、
「思ったよりも、会社のことを考えてくれている」
と感じると、
「人間として、かわいがってあげたい」
と思うようになったのだ。
そういう意味で、
「人は見かけによらない」
ということを教えてくれた相手だったので、
「部下としても、かわいがるに等しい相手だった」
ということである。
それを、
「首脳陣の意向」
とはいえ、
「自分たちの不正の責任を一人の社員に押し付ける」
ということが、人道的に許されるわけはない。
とはいえ、
「ここで事を荒立てると、せっかく、出向ということになっているのを、一歩間違えると、懲戒免職にされてしまうことを思えば、何もできない」
といってもいいだろう。
責任を押し付けたのだから、押し付けられた人間を、懲戒免職にしないというのは、
「それこそ怪しい」
ということになるが、そこに手をまわして、
「それぞれが面目が立つようにした」
ということであるが、そこで起こる葛藤であったり、人間が考えることを、細かく理解するというのは、土台無理なことであった。
そんな心理の渦巻きが、どこでどうなったのか、不思議な形で出てきたのが、今回の
「おかしな事件」
というものであった。
それまで、
「まじめ一筋」
ということで、
「屈辱的な出向命令」
というものを受けても、それでも、怒りを面に出さず、まじめに働いてきた西郷課長であったが、その西郷課長が、
「ラブホテルの一室で、死体となって発見された」
というのは、実にセンセーショナルな話題をさらった。
もちろん、所属している子会社でも、大混乱となったのだが、親会社であり、元々所属していた、
「オシ・コーポレーション」
においても、
「青天のへきれき」
であった。
実際には、なるべく顔に出さないタイプだと言われた吉岡専務としても、かなりのショックだったといってもいいだろう。
吉岡専務としては、
「何がどうなったんだ?」
ということで、焦りに似たものがあった。
彼のように、
「頭が切れる」
「先読みに長けている」
という人間は、自分の先読みに、かなりの自信を持っている。
だから、
「予期していない」
というようなことが発生すると、
「どうすればいいんだ?」
ということになる。
いろいろ考えてみるが、実際には、結論が出てこない。
「こんなに、迷ってしまうと、堂々巡りを繰り返してしまうものなのか?」
と考えさせられるのだ。
だから、話を聞いただけの時の吉岡は、少なくとも、地に足がついていなかったといってもいいだろう。
事件が起こったのは、前の日のことだった。
警察が捜査したところによると、
「殺された清水という男と、若い女性がホテルの一室に入ったのは、夜の8時ころだという」
それは、防犯カメラの映像と、自動チェックインのデータで分かるということである。
ラブホテルにもいろいろ種類があるが、このホテルは、オーソドックスに、一階の入り口のところに、
「タッチパネル」
というのがあり、そこで点灯している部屋が、
「空き部屋」
ということになっている。
その日は、
「平日の夜」
ということで、比較的開いている部屋も多かった。
「半分近くは空室だったのではないか?」
ということであった。
基本的には、金曜の夜が一番多く、料金体系も、
「金曜の夜からの宿泊の時間帯」
というのが、一番高く設定されているということであった。
知らない人が聞けば、
「曜日によって、値段が違うなんて」
と思うかもしれないが、それは、
「ホテル業界」
でいえば、
「当たり前のことだ」
といってもいいだろう。
それは、
「ラブホ界隈」
に限ったことではない。
「ビジネスホテル」
に関してもいえることで。
「特に都心部のビジネスホテルなどでは、どこかのイベントホールに、有名人が来るともなると、半年前から予約でいっぱい」
などということも当たり前だったりする。
そのため、
「イベント前後の部屋は、2割増しの料金」
というのは当たり前というくらいである。
あまり詳しくは分からないが。ビジネスホテル業界では、それくらいの値段に対しては、
「臨機応変」
ということになるのか、それとも、
「うまく考えられている」
といっていいのか、混乱を収めるということでは、悪くはないといえるだろう。
その日は、平日ということで、それほど客もいなかった。そもそも、
「曜日によって、客の多い、少ない」
というのが分かるわけではない。同じ曜日でも、週によってまったく違ったりするからだ。
ラブホテルというのもそういうもので、基本的にはビジネスホテルなどと違い、
「24時間受け付けている」
ということが、一番の違いだといってもいいだろう。
なんといっても、その目的が違っている。
もちろん、
「恋人同士が、デートの帰りに利用する」
というのが、
「昔からの基本」
ということであろうが、最近では、少し様相が変わってきている。
いや、場所によっては、
「恋人同士」
というものとは違うのが当たり前というところもあるだろう。
そう、昔でいえば、
「立ちんぼ」
と呼ばれるものであった。
一種の、
「非合法」
ということであるが、その界隈を歩いているサラリーマンなどに、
「お兄さん、遊ばない?」
などといって声を掛けて、



