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繰り返す世代

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 これを若手の刑事がやろうとすると。
「経験も少ないくせに、比較するなんて、百年早いわ」
 と言われて終わりであった。
 しかし、実際に、
「定年というものに、片足を踏み込んでいる」
 という刑事であれば、他の刑事も納得し。
「おやっさんなら、何かヒントになることを思い出してくれるかも知れない」
 と感じるだろうことを、むしろ期待していたりするのであった。
「事件というものは、多方向から見るようにしないといけない」
 と日ごろから言っていた老刑事の教訓を、今の自分がまさか実証していようとはと感じていることであろう。
「これが警察の捜査というものか」
 と、本人が、今さらのように感じているが、若手も、
「今に感じるに違いない」
 ということであった。
 普段から、あまり事件に積極的に首を突っ込むことをしない老刑事だったが、今回も、最初は、ただ、くっついてきているだけだった。
 彼が事件に積極的になれないのは、
「もうすぐ定年を迎える」
 ということで当たり前のことなのだろうが、十年前の事件からだということは、
「公然の秘密」
 といってもよかった。
 その事件は、この所轄においても、この老刑事だけに限らず、それぞれの捜査員が、それぞれに、心に闇のようなものを残す結果になったようだ。
 その事件というのが、
「放火殺人事件」
 だったのだ。
 この事件において、ただでさえ、強盗殺人という、残虐な事件だったものを、さらに、
「証拠隠滅」
 というものを狙ってか、家に火をつけたのだ。
 その日は折からの風に煽られたこともあり、さらには、狭い路地の間で、違法駐車の車もあったということで、消防自動車が最低限しか入り込むことができず。消火に戸惑ってしまったことで、燃えなくてもいい家がいくつも燃えた。
 しかも、悪いことに。近くには町工場があったことで、そこの被害も大きかった。
 二次災害が広がったことで、逃げ遅れて、今回の事件とはまったく関係のない家が全焼し、
「焼け跡から、身元不明の遺体が発見される」
 という不可解なことがあったりもした。
 その家の住民は、逃げたことで全員が無事だったのだが、なぜか、そこで見つかった死体が誰なのか分からないまま、
「殺人事件」
 というものを視野に入れて捜索が行われたが、結局、身元すら分からない状態だったのだ。
 警察の公式な発表としては、
「迷宮入り」
 ということになってしまったのだが、いろいろ皆。考えるところはあっただろう。
 少なくとも老刑事としては、
「今回の被害者は、犯人グループの中の一人ではないか?」
 と思っていた。
 一人を殺してしまったので、その人物をごまかすために、火をかけて、殺害しようと考えた。
「押し入った家であれば、自分たちの仲間だということが容易に分かるということで、他の家に死体を遺棄した」
 ということだ。
 殺してしまったのは、仲間割れか何か、考えられることとしては、
「一人が裏切ろう」
 と考えたか、あるいは、
「一人でお金を持ち去ろう」
 としたか。
 あるいは、
「一人がおじけづいたか何かで、臆病風にでも吹かれたか?」
 考えられることはたくさんあるわけで、とにかく、強盗事件の犯人たちの、犯人像を掴むことすらできていないということで、
「完全に、警察の負けだ」
 といってもいいであろう。
 ただ、犯人側も、ここまでやるのだから、必死だっただろう。
「強盗殺人」
 ということだけでも重罪なのに、さらに放火までということになれば、
「捕まって、有罪ということになれば、死刑は確定したも同然」
 といってもいいかも知れない。
 それを分かって強行したのだから、犯人側も必死だったに違いない。
 その時の捜査は、もちろん、
「あまりにも残虐な事件」
 ということで、警察サイドも、
「警察のメンツにかけても、必ず解決するんだ」
 という意気込みはかなりのものだった。
 しかし、実際に捜査は、思ったようにうまくはいかなかった。
 容疑者といえるグループは、いくつか考えられ、実際に捜査をしてみると、
「容疑者の絞り込み」
 というものができなかった。
 それぞれに、
「一長一短」
 容疑が深いと思えば、皆に完璧なアリバイがあったりしたのである。
「こいつらが一番怪しい」
 と思っても、アリバイが完璧であれば、どうすることもできない。
 もちろん、
「アリバイ証言を何とか崩せないか?」
 ということを考えてみたが、実に難しかった。
 アリバイ証言だけでなく、
「防犯カメラの映像」
 であったり、
「Nシステム」
 の映像など、
「動かぬ証拠」
 というものがある以上。
「完璧なアリバイ」
 というものが立証されたといってもいい。
 このように、
「容疑者が浮かんでは、そのアリバイが立証される」
 ということが繰り返されると、さすがに、地道な捜査を覚悟している警察だとはいえ、実際には、精神的にやる気が出ないというのも、無理もないことであった。
 次第に、捜査員の士気も下がってくる。
 最初は、
「あれだけ残虐な事件」
 ということで、警察官の心の中に、
「勧善懲悪の気持ち」
 というものがあふれていて、
「必ず、仇を討ってやる」
 というくらいに思っていて、
「士気は最高に盛り上がっている」
 ということで、警察としても、
「早期解決」
 というくらいに考えていただろう。
 しかし、捜査を続ければ続けるほど、犯人と思しき連中の、アリバイを証明しているだけのようで、いくら、
「勧善懲悪の気持ちが強い」
 といっても、空回りを続けていると、
「人間として、どうしようもない」
 という考えに至るのであった。
「だから、時間が経つにつれて、情報も少なくなってきた。出てきた情報も、調べれば調べるほど、容疑者がどんどんいなくなってしまう」
 そんなことを考えると、捜査本部が解散になるころには、捜査員としては、ほとんど皆、精神的にも肉体的にも、
「疲労困憊してしまっている」
 ということから、
「これほどやりきれない犯罪捜査もない」
 と考えられるようになり、警察としては、
「因縁の事件」
 ということで、記憶に残る人には残ったことだろう。
 しかし、ほとんどの捜査員は、
「この事件を記憶してしまうと、事件が解決できなかったというトラウマを抱えてしまうようで、自分の中では、
「記憶の中に封印してしまう」
 としか考えられない事件となるだろう。
 だから、
「あの時の事件を思い出す人はほとんどいない」
 年齢が若い刑事ほど、思い出すことはない、
 その理由の一つとして、
「年を取れば取るほど、時間があっという間に過ぎる」
 という感覚からきているのではないかと感じるのであった。
 確かに、
「20代までというと、なかなか時間が過ぎてはくれないが、30代以降は、年齢を重ねるごとに、あっという間に過ぎていく」
 というものである。
 もちろん、老刑事には、そのことは身に染みて分かっている。
 しかし、それ以外の若い連中には、分かるわけはない。
 なぜなら、
「そんな年齢まで生きているわけではない」
 という当たり前のことだからだ。
 ただ、
作品名:繰り返す世代 作家名:森本晃次