繰り返す世代
「今回の犯罪は、どこか復讐心がみなぎっているような気がするな」
とばかりに、
「老練刑事としては、自分の感じる昭和の感覚が、犯人の感情とシンクロしているように思えてならない」
と感じているのだ。
そういう意味で、この老練の刑事は、
「身も心も、昭和の時代を彷彿させる」
といってもいいだろう。
普段は、
「今の時代に十分ついていける」
という精神状態であるが。
「いざ、捜査や、推理をする」
という場合に、
「昭和の考えに至る」
ということで、逆に、
「今の時代しか知らない刑事たちに対して、一つの刺激になっている」
ということを、本人はもちろん、まわりの刑事も皆、
「理解はできないが、感覚で分かっている」
といってもいいだろう。
若手刑事は、老練刑事の
「意図を組む形で、過去の事件の洗い出し」
というのをおこなっていた。
彼は。
「現場べったり」
というわけではなく、
「警察にあるデータベース」
というものを駆使して、過去の事件とのプロファイルであったり、犯人像とを結びつけることで、
「データ捜査」
というものを行う、
「プロフェッショナル」
といってもいい部署にいたのだ。
そんな彼が、昭和の時代を彷彿させる。
「老練刑事と気が合う」
というのは、ある意味皮肉なことであろう。
ただ、彼の考え方として心の中にあるのは、
「時代は繰り返される」
ということであった。
この考えは彼が、
「学生時代から持っていた。彼の考え方の中枢を担っている」
といってもいいもので、
「まだ、30代前半の彼ではあるが、警察に入ってからも、その気持ちに変わりはなく、むしろ、どんどん固まってきている」
といってもよかったのだ。
大団円
繰り返すというものには、
「世代」
というものだけではなく、
「輪廻転生」
のようなものであったり、
「警察の捜査」
ということであれば、それは、
「犯罪」
というものもそうなのかも知れない。
「人を殺す」
ということは、そこにどんな理由があるとしても、殺された側にも、家族というものがいるわけである。
そうすると、
「その時殺された家族」
はどう感じるであろう。
たとえ、
「最初の犯人が復讐」
であったとしても、残された家族とすれば、
「そんなことは関係ない」
ということになる。
一家の主人が殺されたとなると、
「収入の口はなくなる」
ということになり、家族は路頭に迷うだろう。
母親は、必死に働いたとしても、家族を養うだけのことができるわけがない。
昔のように、
「専業主婦」
というものであれば、母親が働くことで、少しは、いいのだろうが、今の時代のように、
「共稼ぎが当たり前」
という時代になれば、
「母親は元々働いていたので、母親が、二人分の働きをしないと、やっていけない」
ということになる。
できるわけはないといってもいいだろう。
そうなると、世間というのは冷たいもので、
「同情はするが、それ以上のことは何もしない」
それだけ、
「非情な世の中だ」
ということである。
実際には、
「非情な世の中」
というものは今に始まったものではなく、
「ずっと昔から受け継がれてきたものであり、ただ、微妙に変化があるようだ」
といえるだろう。
それを、若手刑事は、
「時代を繰り返していることの証明だ」
と感じていた。
世の中が微妙に変わって見えること、それも、
「復讐」
という考え方からの復讐である。
ということを考えてみると、結局は、
「老練刑事の発想が、証明されているようだ」
といえるのではないだろうか。
若手刑事が調べてきたことによると、
「今回の被害者は、昭和の詐欺事件において、自殺することになった人の、子供ということであった」
つまりは、
「過去の事件の復讐を考えていたが、返り討ちに遭ってしまった」
ということである。
なぜ、今ごろ復讐を考えたのかというと、
「被害者は、今回の犯人が、かつて自分の父親をはめたことが、父親の自殺の原因だ」
ということを最近になって知ったのだという。
それは、
「当時の犯人グループの中で、社長が死んだというどさくさに紛れて、実際に隠していた金を持ち逃げした連中がいた」
ということであった。
実際には社長殺害の混乱もあったことで、
「誰がいくら持ち逃げしたのか?」
ということは分からなかった。
しかし、持ち逃げした人は大体分かっていて、複数であることも分かっていたが、捜査をすれども、結局、どこをうまく雲隠れしたのか、曖昧になってしまったのであった。
「社長殺害に一枚?んでいて、結局は、持ち逃げした連中が、得をした」
というのが、昭和の事件だったということである。
実際には、それを警察はある程度分かっていたが、発表はしなかった。
もし、そんなことが発覚すれば、
「国民の反響は激しいものであり、被害者にどんなとばっちりがあるか分からない」
ということであったり、何よりも、
「警察の権威が失墜する」
ということから、警察としては、
「公表できるわけない」
ということだったのだ。
それを考えると、
「やつらだけが得をした」
という、
「実にやりきれない事件だ」
ということで、警察としても、
「あまり触れたくない」
という事件の一つということになったのだ。
そして、その時、
「得をした連中」
というのは、お金を山分けにしてから、
「捕まるわけにはいかない」
ということで、
「ほとぼりが冷めるまで、連絡を取ってはいけない」
ということにしていた。
実際に金が手に入ると、今度は、
「自分の身の安全を図る」
ということで、
「他の犯人とつなぎをつけるということは、命取りだ」
ということから、連絡を取ることはなかったのだが、犯人それぞれで、性格も違っていたりすることから、
「金遣いの荒いやつ」
というと、すでに、
「10年も経たないうちに、金を使い果たす」
という人もいたり、
「会社を設立したが、才覚がなくて、借金まみれとなった」
ということで、それぞれに、昔の仲間を頼るということになった。
実際に、そこでもめ事が起こり、秘密裏に殺害してしまい、
「うまく、死体を始末した」
ということで、
「いまだに死体が上がらない」
ということもあったのだが、今回の事件は、そんな中で、金がなくなったタイミングで、被害者が、脅迫に来たこの犯人に聞いたことで、被害者にも、納得いく事件であったことで、復讐を考えたのだ。
犯人が、被害者に話に行ったのは、
「かつての仲間割れを恐れて」
ということで、仲間の中で行方不明になっているやつがいることから、
「消されたのではないか?」
と考えると、理屈に合うということから、
「だったら、当時の被害者家族をうまくいって脅迫できれば」
と考えたようだ。
ただ、それもただの脅迫ではなく、
「ネット詐欺」
というものを仕掛けて、罠にはめるという考えであった。
これこそ、
「時代の進化」
というものはあるが、
「時代が繰り返された」



