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繰り返す世代

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 管理官であっても、本部長も、さらには、所轄署長も皆年齢的には40代の中盤くらいまでで、それだけ、
「キャリア組だ」
 ということからだった。
 年齢も若く、キャリア組ということもあって、それだけに、そんな、
「バカバカしい」
 と思われるような、
「時間を調節した模倣犯」
 などということが、現実味があるわけはないと思っていたに違いない。
 だから、余計に、老練刑事としても、会議で具申するなどということができるわけもなかった。
「どうせ、握りつぶされるだけだ」
 と思うからで、それを考えると、
「犯人側も、わざとこんな昔の犯罪を模倣することなどない」
 と考え、犯行に及んだことで、騙された人の中で、誰かが殺すことになったのだろう。
 それこそ、
「詐欺事件の生放送中に、強行が行われた」
 という事件、そのものである。
 もっとも、
「殺し自体が模倣かどうか」
 ということが、今回の事件において、
「犯人が画策したことかどうか」
 というのが、重要な意味を持っているということに、気づくとすれば、
「老練刑事しかいない」
 ということであろう。
 しかし、老練刑事は、自分の勘というものに、ある程度の自信のようなものは持っていたようだ。
 だが、それを自分から具申するという気持ちはない。
 これまでにも、何度も捜査会議で、具申をしてきたが、結果、誰も信じてくれることはなく、実際には、老練刑事の推理とは、かけ離れた事件として、解決を見てきた事件ばかりであった。
 つまり、老練刑事は、
「オオカミ少年」
 と思われていたことだろう。
 さすがに、最初の何度かは、捜査本部としても、
「貴重な意見」
 ということで、
「粗末にもできない」
 という、一応の、
「年功序列」
 という意識からか、
「むげにはできない」
 ということで、捜査をしてきたが、それが、結果、
「トンチンカンだった」
 ということで、誰からも信用されなくなると、結局、
「もう誰も信用しない」
 ということになる。
 老練刑事としても、
「俺のいうことを、よくここまで信用してくれたものだ」
 と思ったくらいで、そもそも、
「時代が違うんだ」 
 ということを、
「そこまで真剣に考えていなかった自分が悪い」
 と考えるようになった。
 だから、
「事件が解決する」
 というのは、
「捜査員皆の努力が実を結んだ」
 ということで、最初の頃はまだ、
「推理が受け入れられなくても、捜査に参加したのだから」
 ということで、その輪の中に入っていたが、今では事件が解決するたびに、感じさせられる、虚無感というものが、毎回襲ってくることで、
「こんなことなら、捜査員に加えられるのは、逆に晒しものにされてしまっているようで、屈辱感しかない」
 と思うのだった。
 だから、最近では、
「どうせもうすぐ定年なんだから、窓際族として、適当にやればいいんだ」
 と思うようになっていたのだ。
 だから、
「何かを感じても、具申することはなくなった」
 といってもいい。
 しかし、実際には、今回の事件は、
「あまりにも昔と似ているな」
 ということから、彼は、自分なりの推理を建ててみることにした。
「ひょっとすると、この事件は、昔からの尾を引いているのではないか?」
 と思ったのだが、
「そのわりには、40年近くも経っているということで、あまりにも、時間が経ちすぎている」
 と考えた。
 そう思えば、
「事件の関係者の中に、かつての昭和の事件において、少なからずの関係があった人がいるのではないか?」
 と考えたのだった。
 そこで考えたのが、
「当時、途中まで事件解決のために、奔走していた弁護士がいて、その人が被害者組織を作り、水面下で、民事的な解決をもくろんでいた」
 というのを聞いたことがあったのだ。
 しかし、
「社長殺害という、非常事態が起こったことで、その水面下で行われていた地道な交渉が、元々が水面下ということもあり、その交渉相手の一角が崩れた」
 ということで、
「事件は、見えないところでも、大きな頓挫があった」
 と言われていたのだ。
 もちろん、当時の捜査員の間では、そのことはとかくのウワサになっていたのだが、実際の調書であったり、マスゴミ発表などで、そのことが明らかにされることはなかった。
 だから、
「もし、今の警察内部で、そのあたりの事情を知っている人はいないだろうことから、今回の事件と、過去の事件を結びつけて考えることはないだろう」
 といえる。
 つまり、逆にいえば、
「過去の事件の時間を超越した模倣犯」
 ということは、
「分かるわけはない」
 とタカをくくっている犯人による犯行ではないか?
 と老練の刑事は考えた。
 しかし、証拠があるわけでもないし、あまりにも考えが突飛すぎる。
 しかも、
「オオカミ少年」
 と言われている自分の意見を誰が信じるというのか、
 どこか、鬱積した気持ちを持っている老練刑事は、そこまで考えたところで、それ以上を考えることを辞めてしまった。
 考えれば考えるほど、
「俺が事件にかかわったとしても、俺にメリットなんかないんだ」
 ということであった。
 老練刑事には、分からなかったが、
「彼の背中を見つめてきた」
 という若手刑事がいたのだ。
 この若手刑事は、今までも、いろいろな事件を見てきた中で、ひそかに、老練刑事が考えていることを、自分なりに考え、それを後ろからサポートする形で、事件解決に助力をしてきた。
 これは、
「老練刑事の手柄にならない」
 というのは当然だが、実際に推理をした若手刑事の手柄になるわけではない。
 だが、実際には、
「老練刑事と、この若手刑事の二人の発想というものが、いつも功を奏する形で、事件解決を導いた」
 ということになる。
 手柄は、その時々で、誰か他の人にいくわけだが、二人はそれでいいと思っている。
 といっても、
「老練刑事は、若手刑事が、いつも事件解決の肝心な部分を担っている」
 ということは分かっていたが、そのヒントになるものを、
「自分が提供している」
 ということまでは分かっていない。
 それが分かっているのであれば、
「もっと、自分が表に出さえすれば、手柄を、彼に与えることもできるのに」
 と考えたのだが、それも、自分が、かつてからのやり方のミスからか。
「オオカミ少年」
 としての立場しかないことが影響しているのが分かっているからであった。
 今回の事件でも、
「老練刑事が目を付けた部分を、少しでも、若手刑事に分かるように、導こう」
 という考えはあった。
 ただ、それで手柄を他の人に横取りされる形になるのは、癪に障る。
 それでも、
「事件解決することで、市民が安心して暮らせる世界を取り戻すことができる」
 ということに変わりがないということで、
「警察の威信」
 というものと、
「市民の安心安全」
 ということのジレンマというものが、自分の今までの
「刑事生活」
 というものへの報いとはならないということが分かっているだけに、どこか、
「復讐心」
 というものが芽生えてくる感覚を感じるのであった。
 そこで、
作品名:繰り返す世代 作家名:森本晃次