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昭和からの因果応報

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「争った跡もなければ、薬で眠らされた跡もない。ということは、犯人は被害者と顔見知りだったのではないかという可能性は高いかも知れないですね」
 ということであった。
 ただ、
「急所をとらえているところであったり、部屋が荒らされていないことから、やはり、計画的な犯行であり、物取りではないといってもいいでしょうね」
 ということであった。
 その時はハッキリと分からなかったが、あとから分かったこととして、
「凶器の包丁や、部屋の指紋を見る限り、ほとんど、被害者の指紋しかついていなかったですね」
 ということで、
「じゃあ、犯人は手袋をしていたということだね?」
 と言われた鑑識は、
「その通りです。やはり計画的な犯行といってもいいでしょうね」
 ということであった。
 そうなると、考えることとしては、
「怨恨の線」
 と、
「被害者が死んだことで、得をする人間がいないかどうか?」
 ということであった。
「誰が得をするのか?」
 ということであるが、一人浮かび上がってきた人物がいた。
 それは、息子の、
「刑部一郎」
 という男で、被害者は、刑部一郎を受取人として、死亡保険を掛けていたという。
 その額は、
「二千万円」
 ということであったが、それも、一度若い頃に入った保険を、一度40代の時に解約したが、50代になり、再度かけなおしたということであった。
話を聞いてみると
「ああ、親父とは、仲が悪かったからな」
 と一郎は平然と言った。
「親父は、本当に堅物な人で、それこそ、昭和の頑固おやじそのものだったんですよ。しかも、親父が40代の頃というと、ちょうどバブル崩壊くらいの時代だったせいもあって、保険を解約したのも、しょうがなかったかも知れない。親父は、バブル期までは、町工場をやっていて、工場を大きくしようと考えていた矢先のバブル崩壊だったようで、そこからかなりの苦労があったと聞いています。私もまだ学生だったけど、自分の将来が不安で仕方がなかったのを覚えていますね」
 ということであった。
「じゃあ、仲が悪かったということではないと?」
「ええ、時代が時代だったということでしょうね。だから、工場は処分して、何とか、バブル崩壊を乗り切った親父だったけど、私の母親が死んでから、さらに頑固になってしまったことで、嫁と折り合いがつかなくなり、板挟みになった私は、それまでは同居だったんですが、もう無理だということで、親父を一人残すことにはなったんですが、これもしょうがないということで、家を出ました」
 ということであり、息子とすれば、あくまでも、
「仲が悪かったわけではない」
 ということを繰り返すだけだった。
「まあ、当時は、息子夫婦と同居というだけで、気を遣うと言われていましたからね」
 と刑事がいうと、一郎は、
「うんうん」
 と、少し大げさ目にうなずいているのであった。
「お父さんが誰かに恨まれるというようなことはありませんでしたか?」
 と言われ、
「さあ、最近の親父のことはまったく分かりませんからね。仲が悪くなくとも、よかったわけではない。こっちはこっちで自分たちのことで精いっぱい。しかも、私はすぐに、親を見に来るということができない場所にいますからね、仕事だってあるし、無理というものですよ」
 といっていた。
 それこそ、
「今の時代の家族構成を地で行っている」
 といってもいいだろう。
 そんな被害者と、その家族構成であったが、この家族が知らないところで、数人の人物が、まったく警察も想像できないところで、時間だけが動いているのを、知る由もなかった。
 警察とすれば、
「自分たちの時計の時間が止まっている」
 ということに気が付いていなかったということであろうが、
「それは、えてして不思議なことではない」
 ということであり、逆に、
「警察だから」
 ということで、その立場が、
「交わることのない平行線」
 というものを描かせて、さらに、
「表裏の関係」
 ということで、その裏に潜むものを見ることができないということになっているのであった。
 しかも、
「警察と犯人、どっちが裏でどっちが表なのか?」
 ということが分かるわけではなく、そこに、
「被害者というものが加わると、多面的な要素が膨らんできて、これが三角形であれば、何やら歪に思えてくる」
 と感じたのだ。
 刑事の中には、
「三角形」
 というもの、
「特別なものだ」
 と感じさせる要素があることに気づいている人もいた。
 ただ、警察として、
「犯罪捜査のプロ」
 と呼ばれる人は、大なり小なり、三角形というものを意識するしないは別にして、犯罪の初期段階で、特に、
「何も分かっていない」
 という時期であれば、
「事件というものを、いかに考えるか?」
 ということが、
「捜査本部というものによって、大方決められることで、何度も捜査に参加していると、自然と、無意識に何かを感じる」
 ということが往々にしてあるということが分かってくるのであった。
 それが、いつも、
「三角形」
 というものだとは限らない。
 他にも、いくつも、
「初動捜査の合間で分かってくることがある」
 といってもいいだろう。
 ただ、今回の事件において、一人の男性が、
「自首をしよう」
 と考えて、それを辞めるという心理的な形になっていることを、捜査員は分かっていなかったのだ。

                 復讐

 実際にナイフを使って、被害者を殺害した人が誰なのか?
 警察は、捜査本部を設置し、捜査として、
「被害者を恨んでいる人」
 そして、
「被害者が死ぬことで得をする人間」
 ということで、
「怨恨の線」
 ということでは、今のところ、捜査線上に現れることはなかった。
 あくまでも、
「最近の被害者の人間関係」
 ということであった。
 そもそも、
「引きこもりの一人暮らしの老人」
 ということなので、人間関係もそんなにあるわけではない。
 家族も、遠方にいて、近寄ろうとはしない。
「そもそも、遠方に引っ越したのも、あまり近くであれば、親を見ないとなると、世間から何を言われるか分からない」
 ということから、
「関わりたくない」
 という一心の下で、遠くに住むことにしたのだ。
 一郎は会社にも、
「転勤願い」
 というものを出していて、
「会社としては、転勤はつきもの」
 とは言っているが、
「好き好んで転勤したい」
 という社員は、そうはいないだろうから、自ら、
「転勤希望」
 という社員がいるのは、人事としてはありがたかった。
 ただ、誰もが嫌がる転勤というものを、自ら志願するということは、
「何か、同じ部署で、わだかまりがあってのことではないか?」
 と考えるのも当たり前のことで、その調査を行うということから、さすがに、
「転勤願いを出したからといって、すぐに、その願いが叶う」
 ということはないのだ。
 そのことは、一郎も分かっていたが、実際に、部署内で何かのわだかまりがあったというわけではないので、
「転勤辞令が出るまでに、そんなに時間はかからないだろう」
 ということであった。
作品名:昭和からの因果応報 作家名:森本晃次