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昭和からの因果応報

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 もちろん、検挙率をおろそかにしているわけではなく、起きてしまった事件を解決するというのは当たり前ということで、そのことを当たり前ということにして、片付けることに徹底するのも当たり前である。
 ただ、問題は優先順位ということで、
「事件を未然に防ぐ方が、実際には難しい」
 ということで、問題は、
「いかに、市民からの情報に耳を傾けるか?」
 ということが重要になる。
 となると、
「交番などの現場で対応する巡査などの、いわゆるお巡りさんの仕事は重要だ」
 ということになる。
 そんな交番勤務をおろそかにしないというのが、K署の考え方だといってもいいだろう。
 実は、今回の事件も、
「事件を未然に防ぐことができた」
 といってもいいかも知れない。
「被害者となった刑部老人の様子が少し変だ」
 ということは、近隣の住民から、交番には届けられていた。
 しかし、これは、あくまでも、自治体であったり、介護施設関係の問題ということで、
「そういう内容は、市役所の担当部署に問い合わせてください」
 と、普段通りの対応をしたのであった。
 それが、数か月前のことだったので、巡査としても、
「殺害されたのが、刑部老人」
 ということで、びっくりもしたし、
「捜査本部に報告すべきかどうか、迷ってしまっていた」
 ということである、
 本当であれば、
「捜査本部への報告は必須」
 ということになるのであろうが、巡査とすれば、
「少し時間が経ってしまったので、報告を怠ったことで怒られるのがこわかった」
 のである。
 普段から、巡査に対して、
「事件を未然に防ぐために、日ごろの業務において気になることがあったりすれば、どんどん、警察署まで言ってきてくれ」
 ということが徹底されていた。
 そもそも、これを聞いた巡査というのが、昔から引っ込み思案で、人付き合いもあまうまくないという人だったのだ。
 それを考えれば、
「普段から徹底が厳しいと、却って話がしにくくなる」
 ということがあることに、上司は失念していたのだ。
 つまり、
「理想は理想であり、実際に徹底しようとするならば、最初から意識レベルが同じ人を配置しないと無理なのだ」
 ということである。
 確かに、警察という組織は、特に、
「意識レベルに差」
 というものがあれば、特に、
「組織での行動」
 というものが徹底されていないと無理なところがあるということで、
「上司と部下との考えに差があったり、意識レベルでの差があってしまうと、今回のように、肝心なことがおろそかになりかねない」
 ということになるのだ。
 警察というものが、
「いかに庶民と寄り添ったり」
「お互いに、意思の疎通ができるように、警察主導で行うことができるか?」
 ということである。
 署内での努力はしているだろう。
「市民に親しまれる警察」
 ということで、
「交通安全講習」
 などを、学校や企業で行って、市民との溝を埋めようとしたり、
「開かれた警察」
 ということで、市内のイベントにも積極的に参加したりという、一種の、
「広報活動」
 や
「啓蒙活動」
 と言われるものであろう。
 しかし、どうしても、
「すべてにおいて、気を抜かずにできるかというと難しい」
 結局、今回は、話を聞いた巡査の様子がおかしいということで、
「ハコ長」
 と呼ばれる、
「交番の長」
 が、巡査に
「何か悩み事でもあるのか?」
 と聞いてみると、最初は怯えていたが、途中から、むしろ、
「助かった」
 という表情になり、
「実は、この間の被害者のことで、相談を受けたので、それを役所の担当に相談してくれということで、それ以上深くは聞かなかったんです」
 と白状した。
 本人とすれば、
「我に返った」
 ということであろう。
 我に返ったというよりも、
「覚悟を決めた」
 と言った方がいいかも知れない。
 それこそ、
「開き直り」
 ということであろう。
 それを聞いた
「ハコ長」
 とすれば、一瞬ため息をついたので、巡査は、
「あ、言わなければよかった」
 と思ったが、すぐに、
「そうか、よく話してくれた」
 と言ったので、すぐに気を取り直すことができた巡査は、その時のことを話し始めた。
「何が、おかしいというんだ?」
 と言われた巡査は、
「はい、近所の人がいうには、何かに怯えているように見えるというんですよ。年齢がある程度になって、一人暮らしであれば、孤独な気持ちから、不安になるというのも分かるんですが、それが、時々奇声を挙げたりなどということがあるということで、精神疾患があるのではないか? というんですよね」
「なるほど、確かにそれであれば、管轄は、役所ということになるだろうね。そういう施設というものがあるだろうからね。そういう施設へ連絡をするように言っただけかい?」
 と聞かれ、
「ええ、そうですね」
「確かにそれ以上は警察の仕事ではないが、できれば、役所に行ってすぐに話ができるくらいの話は、こちらでつけてあげられるようにしておけばいい。もし、自分でできないのであれば、家族に連絡するとかね」
「いえ、その老人には家族はいないということでした」
 というので、
「だったら、余計に、こちらが動いてあげればよかったよね。結果論にしかならないけど、あとで後悔するくらいなら、それくらいはしてあげてもよかったのではないか?」
 と言われ、
「自分は、人見知りしるので」
 と、喉の手前まで出かかった言葉を、何とか巡査は飲み込んだのだ。
「じゃあ、君は、その後被害者が、役所に連絡を入れたのかどうか、確かめていないのかい?」
 と聞かれ、
「ええ、確かめるまではしていません。私としては、話をした段階で、自分の仕事は終わりだと思っていましたので」
 というので、
「確かにそうかも知れないが、これからは気を付けよう」
 とハコ長はどこまでいうと、
「じゃあ、捜査本部には私から話をするから、もし、捜査本部から話をしてほしいと言われれば、出頭してくれたまえ」
 とハコ長は続け、さっそく、捜査本部に話を入れていた。
 しばしの捜査本部との電話が終わると、
「話は通しておいたから」
 ということで、事なきを得たが、実はこの報告が、事件を解決するうえで、一つのキーポイントになったということだから、
「報告というのは、ちょっとしたことでも、重要だ」
 ということになるだろう。
「何がいかに影響するか分からない。やぶ蛇に終わる時もあるだろうが、怪我の功名ということだってあるのだ」
 ということである。

                 精神疾患

 この話を聞いた桜井警部補は、さっそく捜査員に命じて、
「役所の方に、被害者から何か、介護などに対しての相談であったり、それに対しての役所側がないか対応したのであれば、そのあたりの確認をしてきてほしい」
 といって、捜査員を送り出した。
 捜査員は、さっそく市役所に行き、
「介護」
 や
「保険」
 などの窓口に行き、被害者の問い合わせについて、事情を聴いてみた。
 話を聞いてみると、
「いえ、そういう相談はありませんでしたよ」
 という。
 そして、捜査員が、
作品名:昭和からの因果応報 作家名:森本晃次