表裏のスパイラル
「早川刑事が口を開かなければ、まだまだ事件は、煮詰まっていないということであり、口を開けば、事件解決」
ということである。
今回の事件も、皆がそう思っていて、
「特に、早川刑事の活躍を裏から支えているのが、副署長だ」
ということを、皆分かっているだけに、早川刑事は、自分の意見を、いとも簡単に退けられたことに対して、
「不満を持った」
というわけではなく、普段と違う副署長の態度に、
「警察という組織の裏側」
というものが見えたと感じたのであった。
「この年になって、警察の裏側を見るなんてな」
と、早川刑事は、どこか残念な気がした。
「あと、もう少しで定年なんだけどな」
と思った。
それだけ、今まで何度となく、
「警察組織の裏表」
というものを見せられ、そのたび、いやな気分にさせられてきて、時には、
「その尻ぬぐい」
というものをさせられたのを思い出していたのだ。
「国家権力という朱に交わるということはしたくない」
と思っているのだが、それよりも、その思い出したということが、
「まだ未解決事件」
ということが引っかかったのだった。
「昔の未解決事件」
というものに対しての記憶は、
「結構すごい」
と言われているのが、早川刑事だった。
だから、
「それだけの記憶力と、法律というものを結構理解できている」
ということから、
「昇進試験なんて、簡単にパスするだろうに」
とまわりから言われたのだった。
その都度。
「現場で通用する知識があれば、それで十分だ」
と、早川刑事は答えていた。
「実際に起こった未解決事件」
というのは、
「入り口が今回の事件と似ている」
ということであった。
「ほぼ同じ」
あるいは、
「模倣犯ではないか?」
と言われてもいいだろうが、実際に、
「模倣するほど目立った事件」
ということではないだろうから、それよりも、
「同一犯ではないか?」
という方が、もっともらしい考えであった。
「何が似ているのか?」
ということであるが、まずは、
「脅迫状が届いた」
ということである。
この事件は、今から20年近く前の事件なので、
「脅迫状」
というのも珍しくはなかったかも知れない。
今回のように、
「新聞紙や雑誌の切り抜き文字」
という、昭和時代の名残を残すもので、当時は、そろそろパソコンが普及してきた時期なので、
「脅迫状を書くなら、パソコン」
といってもいい時代だったのに、わざわざ文字の切り抜きだったのだ。
「おかしい」
と思った証拠は、今回もそうだったのだが、封筒の宛名は、ワープロ文字だったのだ。
これは当たり前のことであり、
「手書きにすれば、筆跡鑑定される」
ということであり、かといって、
「切り抜き文字を封書につければ、それこそ、怪文書」
ということで、警察が相手に届く前に関与することになるというものだ。
だから、表はワープロだったのだ。
だが、それをあえて、中だけ昔ながらにしたというのは、それこそ、
「何か意味があるのでは?」
と、思ったが、それを感じたのは、早川刑事と、今の副署長だけだった。
副署長とは以前から気が合っていて、刑事時代から、二人は、
「よくコンビを組んでいた」
ということで、すぐに、
「ツーカーの仲」
ということになったのだった。
そして、今回も同じように、便箋には、文字が張られていた。しかし、前回と違うのは、あくまでも、
「直接の投函」
ということで、前回とはパターンが違ったのだ。
しかし、考えてみれば、
「今回の方が、犯罪としては当たり前のことで、逆に前回の場合は、ポスト投函だった」
ということで、キチンと消印が押されていた。
その場所も分かったことから、刑事が数人で、
「実際に投函された日時の聞き込みを行ったのだが、結局、手掛かりは得られなかった」
ということである。
当然、
「ポストに投函するのだから、同じところから投函するというようなことはしないだろう」
という意見もあったが、逆に、
「これこそが、裏の裏をかくというような、トリックなのかも知れない」
ともいえるのだった。
だが、結果的に、
「迷宮入り」
ということになったのだから、
「結局、犯人に一杯食わされた」
といってもいいだろう。
「今回と似通っている」
というよりも、
「まったくそっくりだ」
と思わせるのが、実はここにあったのだ。
というのは、
「最初に届いた脅迫状からちょうど一週間後に、、また脅迫状が届いたのだった」
だが、
「まったく同じ」
というわけではなく、どこが違っているのかというと、
「二通目が、同じ管轄に届いた」
ということであった。
つまり、
「この20年前の犯行と、重要なところはよく似ているのだが、細かいところで違っている」
ということであった。
「では、その20年前の犯罪はどうなったのか?」
というと、実際に、脅迫電話が掛かってきて、お金を指定されたところにもっていったのだが、まんまとお金が奪われたのだ。
ただ、なぜか犯人は、被害者の子供を返してきた。当然警察は、
「誘拐された子供が何かを覚えている」
ということで、聞き取りを行ったが、不思議なことに、
「事件に関してのことは、すべて忘れていた」
ということであった。
しかし、それ以外のことはすべて覚えている、それなのに、事件に関してのことは、まったく覚えていないのだ。
「事件があった」
ということも、
「自分が誘拐された」
という意識もない。
ただ、
「誰か親切なお兄さん、お姉さんが遊んでくれた」
としか分かっていない。
そういう意味でいえば、子供がまったく恐怖を覚えていないということで、確かに、
「窃盗」
ということであるが、だからといって、
「誘拐された子供が、誘拐されたという意識がない」
というだけでも、世間は同情的だったといっても過言ではない。
しかも、解決が、どちらかというと、
「犯人に有利に動いた」
ということから、
「捜査すればするほど、警察が不利になる」
ということで、誘拐された子供のことも、
「他の記憶もあるわけなので、悔しいが、あまりこだわらないようにしよう」
と考えたのだった。
それを考えると、
「まだ、何も起こってはいないが、酷似した犯罪が過去にあった」
ということで、本当は参考にしたいというところでもあったが、副署長とすれば、
「今の自分の立場」
からも、過去の事件と結びつけることはできないといえるだろう。
というのは、
「なんといっても、前の事件が未解決だ」
ということからだといっても過言ではないだろう。
だから、
「昔の事件との関連を結びつけるということは、過去の事件を未解決にしてしまったことでの警察のメンツが悪くなる」
ということになるのであろう。
それが、
「副署長としての、立場」
ということであろうが、早川刑事とすれば、
「あの事件の参考がなければ、今回の事件が解決できない気がするんだな」
ということであった。
もう一つ、記憶の中で覚えていることとすれば、