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夕凪の時間

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 娘の方は、大学を卒業し、派遣社員として、会計事務所で事務員をやっていた。
 大学時代には、
「経営学」
 を専攻していて、心の中で、
「本当は、経営に携わる仕事がしたかった」
 とも思っていたが、折からの不景気も相まってか、なかなかうまく就職もできなかったというわけである。
 大学時代には、いろいろアルバイトをしていた。
 特に、水商売のようなこともやっていて、普通、父親にそんなことをいえば、
「心配されるか、反対されるか」
 ということになるのだろうが、黒田氏は、反対するということはなかった。
 どちらかというと、
「せっかく経営学を学んだのだから、スナックなどがどんな経営をしているかを、勉強するのもいいかも知れない」
 といっていたくらいだ。
「さすが、経営コンサルタント会社に勤める父親だ」
 と、娘も関心していた。
 娘の名前は、
「みゆ」
 という名前だった。
 父親似というよりも、
「母親に似ている」
 と自他ともに認めるみゆは、背も高く、すらっとしていることから、
「夜の衣装もお似合いだった」
 といえるだろう。
 そんなみゆなので、中には、
「スカウト」
 がやってくることもあったが、
「まだ大学生なので」
 ということで丁重に断っていた。
 最初から、
「あくまでも、アルバイト」
 と割り切っていたからで、
「できれば、将来は経営者」
 という思いが実際にあったからである。
 だから、父親が、
「おじいさんの店を受け継ぐ」
 と聞かされた時、
「私がホステス役くらいはできるわよ」
 といっていたのだ。

                 世界的なパンデミック

 みゆとすれば、
「昼職は普通にこなし、夜はホステスをこの店で」
 と思っていたようだったが、昼職も、最初はなかなか見つからなかったので、
「夜だけ働こうかしら」
 と思っていたが、とりあえず、
「派遣社員として会計会社で働きながら勉強するか」
 と思っていた。
 それが、数年続いたが、実際に、父親が定年退職して、店のオーナーになると、
「これから、店をどうしていこうか?」
 ということを考えるようになった時、みゆの方も、
「いずれは、この店のママになって、経営にも参加したいな」
 とは思っていたが、父親から、だしぬけに、
「お前、ママをやってみないか?」
 というのであった。
 元々、昼間の、
「純喫茶」
 という顔も、夜の、
「場末のスナック」
 という趣きを持った顔もあったのだが、どちらかというと、
「夜がメイン」
 ということであった。
 しかし、オーナーとすれば、
「昼のお店も充実させたい」
 と考えていたようだった。
「常連さんが、増えてきたのも間違いないし、何よりも私が、昼の純喫茶を充実させたいという思いを持っている」
 ということからであった。
「これは、私のわがままでもあるんだが、お前に夜が任せられれば、昼は、私の方で、充実した店にしたいんだ」
 ということで、みゆの目からは、
「どうやら本気のようね」
 ということで、納得したのだった。
 父親は、
「経営コンサルタント会社勤務」
 ということで、娘は、
「経営学部を卒業し、会計会社での事務経験もある」
 ということで、
「ずぶの素人」
 というわけでもないので、その経営指針も、
「別に無理がある」
 というわけでもなく、
「銀行側との折衝」
 というもの、しっかりできていて、それは、娘のみゆにしても同じことであった。
「銀行の営業」
 の方としても、
「これなら安心ですね」
 ということで、融資に関しても、心配しているわけではなかった。
 それを考えると、
「店の外観は、今まで通り」
 ということであったが、内装を少し変えて、
「老朽化の部分をこの機会に一掃する」
 ということに力を注ぐことで、
「みかけはあまり変わらない」
 ということであるが、名目は、
「リニューアルオープン」
 ということで、始めたのが、今から3年前のことであった。
 もちろん、
「不安がなかった」
 というわけではなかった。
 というのも、今から4年前くらいから、
「世界的なパンデミック」
 というものが猛威を振るい、
「もし、あの時と重なれば、店を開店できたかどうか分からない」
 ということで、少なくとも、
「店の改装」
 というのは、ままならないといってもよかったであろう。
 それどころか、
「今のままのこの店でも、存続できるかどうか分からない」
 ということで、
「最悪の場合は、店を閉めるしかない」
 ということになっていた。
 そうなると、
「定年退職と同時に、この店のオーナーになる」
 ということで、ここ数年頑張ってきたことが、水の泡になってしまう。
 当然、娘のみゆに対しても、
「ここ数年、娘に対して、人生を左右する選択を促した責任が、親として、この私にはある」
 ということで、どうしても、気にしてしまっていたのであった。
 それを考えると、
「お父さん、しょうがないよ」
 と、
「最悪の場合」
 を娘と話し合った時、覚悟を決めているかのようなみゆが、父親としては、不憫で仕方がなかったのである。
 みゆとすれば、夜の店に対しての考えをいろいろ持っていたが、その当時、ハッキリしていたのは、
「スナック」
 というよりも、
「バー」
 という雰囲気の店の方がいいと思っていたようだ。
「おいしい食事と、オリジナルのカクテル」
 というものを売りにしての、
「隠れ家のような、いかにも場末のバー」
 と言ったお店を考えていたのである。
 大学時代にアルバイトで勤めていたお店は、
「スナックというよりも、クラブというイメージが強かった」
 といってもいい、
「接待などで使う人が多く、客層は悪くはなく、お金もしっかりと落としてくれる」
 という人が多かったことから、
「上客」
 ということであった。
 しかし、店は、どうしても、
「利益重視」
 ということで、相手が、
「上客である」
 ということをいいことに、
「同伴」
 であったり、
「アフター」
 というものを、女の子に奨励するというようなことをしていた。
 しかも、女の子には、その成果での、
「色」
 というものを、破格な値段にすることで、女の子をその気にさせていたのであった。
 みゆとすれば、
「あくまでも、大学時代のアルバイト」
 という思いと、
「将来のための勉強」
 というイメージがあったことで、
「そこまで金の亡者にはなれない」
 と思っていた。
 店の方は、
「アフターなどの奨励はするが、何も無理にというわけではない」
 といっていた。
 ましてや、大学生のアルバイトに、それを強いると、今度は、
「辞める」
 と言い出されても困ると思っている。
 彼女たちにも、それぞれに、
「常連客」
 というものがついているのだ。
「大事にしていこう」
 というのも、店の方針だったというのは、実に彼女たちにすれば、ありがたいことだったのであった。
 そういう意味では、
「働きやすい店」
 ということだっただろう。
 しかし、
「もし、自分が経営者になるとすれば」
 ということになると、
「こういう店じゃない」
作品名:夕凪の時間 作家名:森本晃次