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夕凪の時間

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 仕事はどんどん縮小し、収入がなくなったり、少なかったりすることで、奥さんが、パートに出るようになる。
 すると、会社は、
「正社員に払う金がもったいない」
 ということで、増えつつあるパートアルバイトなどという人にでも、できる仕事を振るようになる。
 そうなると、
「社員の待遇は、正社員にしておく必要はない」
 ということで、
「派遣社員」
 などといった
「非正規雇用」
 というものが生まれてきて、それによって、余計に、
「夫婦共稼ぎ」
 ということになるのであった。
 そのために、
「どうしても、託児所というものが必要」
 ということになってくる。
 そのため、
「本来であれば、認可が必要な託児所」
 であるが、中には、
「無認可」
 であっても、保育所を作ることができるという時代になってくると、
「確かに、施設不足という問題は解消されるが、教育問題ということが、残ってくるのだ」
 ということになる。
 しかも、今の時代ではもっとひどい時代になった。
 というのは、
「本来であれば一番しっかりしているはずの幼稚園で、一番大きな問題が起こる時代になってきた」
 ということである。
 しかも、それは、
「一軒だけの問題」
 ということではなく、全国では、
「絶えず起こっている」
 ということのようであった、
 というのは、
「幼稚園バスなどという、送迎バスにおいて、幼稚園の先生であったり、運転手などが、きちんとしたマニュアルに沿って、幼児がちゃんといるかどうかの確認を取ることが決まっている」
 というにも関わらず、
「一人の子供をバスに置き去りにして、最後は熱中症で死んでしまった」
 という、一緒に、
「殺人事件」
 が起こっているのだ。
 そのほとんどは、
「いつも担当している人が、その日休みだった」
 ということで起こったことであった。
 本来であれば、
「二人その仕事に責任を持てる人を雇っておいて、片方が休みの時は、片方が賄う」
 ということにさえしていれば、こんな問題は起きないし、
「起こってしまった」
 としても、
「園側では、やるべき体制を取っていた」
 と、言い訳にしかならないだろうが、それなりの答弁はできるだろう。
 それだけ、
「少子高齢化」
 と
「保育問題」
 というのは、
「切っても切り離せない大きな問題」
 といえるだろう。
 昭和の頃は、今では考えられないような、専業主婦というのが、ほとんどだった時代、閑静な住宅地には、
「昭和の純喫茶」
 と呼ばれるようなところも多かった。
 近くに大学などがあるあたりは、喫茶店なども多く、早朝から開店している店であったり、夕方には、酒を出す店というのも、少なくなかった。
 かと思えば、
「名曲喫茶」
 などということで、
「クラシックレコード」
 を、所せましと並べていて、リクエストをすれば、流してくれるという店もあったりしたものだった。
 それだけ心地よい空気を醸し出すかのようなお店には、
「密閉されている」
 と思えるような部屋に、心地よい風が吹いてくる感覚になれるのが、嬉しかったようである。
 初老の人たちからすれば、この思い出が懐かしいと思っている人も、多いことだろう。
「年を取れば取るほど、昔のことを思い出すようになる」
 と言われるが、まさにそうなのだろう。
 昔のことを思い出すというと、これも、年齢を重ねるようになってからのことであるが、
「昨日のことをかなり以前のことのように思い出すくせに、数年も前のことを、まるで、昨日のことのように思い出すことがある」
 ということも結構あったりした。
 時間の感覚というものが、
「時系列」
 というものに、何かしらの、
「いびつな形」
 というものを示すような気がしてくるということもあったりするのであった。
 ただ、それは、
「年を取れば取るほど多くなってくる感覚」
 ということであるが、だからといって、
「若い人にはほとんどない」
 というものでもなかった。
「年齢を重ねれば」
 というのは、それだけ、
「過去というものが、時間の経過とともに増えていき、厚みを帯びてくる」
 ということになるのだろうということであった。
 ちなみに、この街の、
「昼は、昭和の純喫茶」
 そして、夜は、
「場末のバー」
 といってもいいこのお店は、
「昼と夜とで名前が変わる」
 というお店だった。
 だからといって、
「夕方、一度閉店する」
 という店ではなく、
「喫茶の時間から、バーの時間に突入する」
 ということで、これも、
「常連客が多い店ならでは」
 ということになるであろうか。
 実際に、店の方でも、運営には、いろいろ考えてもことであった。
 何しろ、
「純喫茶委」
 であったり、
「場末のバー」
 などというのは、この令和の時代には、なかなか見ることのできないものである。
 特に、今の若い連中に、
「昔懐かし」
 といっても分かるはずもない。
「これが昭和なんだ」
 と言えば、素直に納得してくれることであろう。
 それを思えば。
「いくらでも、コンセプトを創造できる」
 という意味で、そもそも、この店のオーナーというのは、それが目的だったといってもいいだろう。
 実際には、この場所で、以前は、バーを営んでいた。それは、昭和の時代から受け継がれてきたもので、オーナーは、今60歳を超えていた。
 サラリーマンをしていたが、先代オーナーである父親が、
「どうせ、この店も私で終わりだろう」
 ということを最初から思っていて、それを、
「息子に継いでもらいたい」
 という気持ちはなかったようだ。
 今のオーナーである息子は、30歳ちょっとくらいで結婚し、奥さんは、五つ下ということで、子供ができたのは、結婚五年後ということであった。
 その頃には、家を出て、都心部の賃貸マンションで、家族三人暮していた。
 子供は娘で、今では、25歳になっていた。
「お母さんが、結婚した年齢になってきたわね」
 といっていたが、娘は結婚する気持ちはないようだった。
 オーナーが、ここに戻ってきたのは、57歳の時だった。
「私もそろそろきつい年齢になってきた」
 ということで、
「もう店を手放してもいい」
 と思っていた頃のことだった。
 オーナーが、息子にそのことを話すと、
「おやじ、俺があの店をするよ」
 と言った。
 息子は、
「経営コンサルタントの会社」
 に勤めていたので、
「経営に関してはプロ」
 といってもよかった。
 さすがに父親とすれば、少しびっくりしたが、
「じゃあ、一応会社には、定年まで席を置くということにしておいて、その間、時間のある時に、この店の経営の引継ぎを少しずつやっていこう」
 ということになったのだ。
「3年あるから、ゆっくりできる」
 ということで、特に、
「経営に関しては素人ではない」
 ということがありがたかったといってもいいだろう。
 息子は、黒田正孝というのだが、この話を、奥さんと娘にすると、奥さんは、
「少し心配な気はする」
 と言いながらも、強い反対はなかった。
 むしろ娘の方が、
「それはいいかも知れないわね」
 といって、にっこりと笑っていたのだ。
作品名:夕凪の時間 作家名:森本晃次