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地図から抹消された村

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 ということである。
 戦国時代の攻城戦というと、
「籠城よりも3倍の兵力が必要だ」
 ということであった。
 何といっても、攻める相手も、
「いかに攻められない要塞を築くか」
 ということで、いろいろな細工がしてあるというものだ。
 それは、
「目の錯覚」
 というものを用いたり、普通に進撃できないように、足場をわざと悪くしたりなどということが、城における戦いというものであった。

                 血で血を洗う歴史

 そんな
「無残塚」
 と呼ばれるものがある村であるが、この村こそ、
「血で血を洗う」
 と呼ばれる歴史というものがあった。
 その歴史は、誰も知るものはいない。
 何といっても、昔、
「歴史上や地図上で、抹殺された村だった」
 ということからである。
 実際に、その歴史というのは、存在はしていたと言えるのだが、誰にも知られることはなかった、明治政府の権力と、その権力を保持するための命題ということで、この村の存在を永遠に消し去るということは、必須だったということになるのであった。
 この、
「無残塚」
 というものがどういうものなのか?
 あるいは、
「どういう歴史を秘めているのか?」
 ということに興味を持って調べてみようと思った人は少なくなかった。
 そもそも、明治政府は、
「この村の存在を打ち消したかった」
 ということのはずなのに、どうして、このような塚が今も存在しているかということに、疑問を感じることができれば、それが、この問題を解く、大きなカギになるということが分かるというものだった。
 この村にとって、この塚というものが、
「自分たちの村に昔から存在した」
 と、昔は信じられていた。
 この村というのは、
「地図上から、そして歴史から姿を消した後に、明治政府の意向によって作られた村」
 というものだった。
 明治政府としては、
「消し去りたい村を、そのまま抹殺した後の土地をどうするか?」
 というのも問題だった。
 それこそ、廃墟として、何もなかったかのようにするという方法もあるのだが、その土地に、他の土地からの移民を住まわせることで、まるで、昔からあったかのようにしたのだった。
 その理屈にするために、移住してくる人間というのは、条件があった。
「かつての住んでいた場所に自分の居場所がなくなってしまった」
 というような、アウトロー的な人。
 ということと、
「決して、余計なことはしゃべらない」
 という口の堅さには定評のある人であった。
 この条件は、これまでの自分の人生が壮絶だった人には、備わっているはずのものであった。それだからこそ、うまく歯車が回るというものだった。
 そしてもう一つは、
「何かを疑ってみたり、それを解明しようという考えをもたない」
 という人である。
 ハッキリいえば、
「バカな人間」
 ということであり、さらには、
「行動力のない人」
 ということが条件であった。
 ただ、そういう人間には、なぜか、
「想像力」
 というものがあった。
 これは、探求心というものがないかわりに、それならばということで、自分で勝手に想像し、楽しむということを考える人たちだ。
 それによって、明治政府としても、
「余計なことを考えることなく、ただここで、自分たちが先駆者で、先住民だ」
 ということを感じ、その子孫にも、その思いが遺伝する」
 ということになり、それが、明治政府の思惑にピッタリだということなのであろう。
 この明治政府の目論みというのは、
「実にうまく機能した」
 といってもいいだろう。
 余計なことを考える人は一人もうらず、その日を精一杯に暮らすというだけの、おとなしい性格の人たちばかりだったのだ。
 それこそ、
「どこの村でも見られる光景」
 ということで、この村は、
「本当に、昔から、彼らの先祖が住んでいた村」
 ということを、他から見れば、疑う人は誰もいないといってもいだろう。
 それが、今の時代でも、
「当たり前」
 ということであり、ただ、この村を、市町村合併で、
「一緒に併合しよう」
 と考えるところはどこにもなかった。
 だから、さぞや、この村は孤立しているのだろうと思われるかも知れないが、実際には、孤立などしているわけではなく、
「自分たちはあくまでも、自給自足」
 ということで、誰もこの村の存在を疑うという人はいなかった。
 それに、彼らの子供も、親から何も教えられないことで、
「この村は、昔から存在する歴史ある村なんだ」
 と、個人個人では思っていたことだろう。
 ただ、自分たちの親が、誰もこの村の歴史を教えてくれないことに、
「おかしい」
 と感じる子供もいたかも知れない。
 しかし、だからといって、彼らがそれを調べようとは思わない。
 それこそ、
「親からの遺伝」
 ということで、
「余計なことは決してしない」
 という思いが、遺伝子で受け継がれているのだった。
 それこそ、
「未来への約束」
 といってもいいだろう。
 ただ、
「あまりにも過去がないというのは、おかしなこと」
 ということで、村人の中でも、長老と呼ばれる人たちには、
「架空の過去」
 というものを創造させ、もし、村で、この村の歴史を知りたいと思った人がいた時のために、その、
「架空の歴史」
 というものを、あたかも、
「本当の歴史」
 ということで、語ってやればいいということになっていたのだ。
 実際に、
「俺たちの村の歴史」
 というものを知りたいと、最初に移住してきた人の中にもいたのも事実だった。
「勝手に政府に移住させられて、ここがこれからお前たちの村だ」
 ということで、訳も分からずにいるというのは、これほど息苦しいものはないということになるだろう。
 それも、明治政府には、想定内のことであった。
 だから、
「架空の歴史」
 というのは、その時代から作られていた。
 息子の代で語られる架空の歴史というのは、その歴史を、少し拡大解釈し、分かりやすく、そして説明しやすく、ちょっと改良を加えたものだった。
 だが、最初の、
「架空の歴史」
 というものも、その時代の歴史としては、
「信用性は十分にあった」
 ということである。
 つまり、架空の歴史の初版というのは、
「それだけでも十分な説得力があり、それを考えた明治政府というのも、それだけ、未来を真剣に考えて動いている」
 と言えるだろう。
 何といっても、それまでの封建制度とはまったく違った社会になったのだ。
「一つ一つをゆっくりと変えていけばいい」
 というようなことではいけない。
 すべてのことを、並行して、しかも、ゆっくりなどという生ぬるいことではいけないということになる。
 それが、
「改革というものの難しさ」
 ということで、
「新しいことを改革していくことの難しさ」
 ということになるだろう。
 並行してのマルチタスクということは、
「一つのことが頓挫すれば、他に影響してくることになり、致命的な運命をたどることになるとも十分に言える」
 ということであった。
 だから、安易な失敗は許されない。
「二度と失敗は許されない」
作品名:地図から抹消された村 作家名:森本晃次