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地図から抹消された村

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「この村は、大日本帝国の時代までは、完全に日本政府の監視のもとにあったといってもいいところで、それを守っていたのが、かつて存在した二大勢力だったんだよ。それが、明治政府の時代になる時に、仲間割れのようなことになってしまい、村が分裂したことで、村に対しての政府の見方が変わってきて、最終的に、村が地図に乗らない街になってしまったということになるんだ」
 と一人が言った。
 それは、飯塚としても、
「自分で解読した」
 ということなので、分かっていることであった。
 ただ、村人を見ていると、
「まだ何かを隠しているような気がする」
 というのが、飯塚にとっては、気持ち悪いというところであった。
「何が、そんなに気持ち悪いんだろうか?」
 ということであった。
 それこそ、
「嘔吐してしまいそうな気持ち悪さだ」
 ということで、
「胸やけというか、ムズムズしたものが上がってきそうな気がする」
 というものである。
「逆流性食道炎?」
 というものを感じさせるほどだったといってもいいだろう。
 この村にとって、そして、飯塚准教授にとって、
「この村の秘密」
 というのが、どういうものなのかというのは、村人だけが分かっている、一種の、
「公然の秘密」
 ということのような気がする。
「二大勢力があったというのは、絵巻で分かりましたが、何かそこに曰くでもあるんですか?」
 ということを訊ねてみた。
 村人は、別に隠す気持ちもないという、それまでとはまったく変わらない笑顔のままに、
「この村のことを知ろうとして、この村が地図から消える前の封建制度の時代には、いろいろな連中がやってきたものだったんだが、そのほとんどは、この村から生きては出られなかったというような伝説も残っている」
 という。
 飯塚はびっくりして、
「そんなことをここでいってもいいんですか?」
 と感じた。
 別に、聞いたことにビックリしたというわけではなく、
「この村にそんな秘密があり、さらに絵巻に残っていないというような、本来であれば、最高国家機密に値するかのような内容」
 であるにも関わらず、
「ただの研究員である、この自分に本当に話していいことなのか?」
 と感じたことからであった。
 村人は、それでも表情を変えず、
「ええ、いいんですよ。もうこの村に、因縁や怨念というものはありませんからね」
 ということであった。
 それを聞いて、飯塚も、
「じゃあ、かつては、因縁も怨念もあったということですね?」
 と聞くと、
「ええ、ここでは、血で血を洗う歴史がありましたからね。特に戦国時代などは、落ち武者などが、どうしても、ここを通ることが多かったから、最初こそ、一時の休息ということでいたのが、長期に滞在することになるということで、二大勢力の存続に危機が起こった時、それらの落ち武者を惨殺するという歴史もありますからね」
 ということであった。
 それも、調べたことであり、むしろ、
「公開に近い」
 という出来事のような気がした。
 実際には、祠の中で見つけた内容で、周知のことだったということであった。

                 血のつながり

 この村には、昔からの二大勢力があるということは前述のとおりであるが、それらの争いは、昔からあったものではないという話も、そこには乗っていた。
 というよりも、
「それが大前提」
 というところから話が始まっていたのだ。
 そもそも、二つの勢力は、同じ一族だったということで、どちらかというと、
「どちらかが、本家で、どちらかが分家」
 ということなのだが、途中で血が混じりあうということで、分からなくなってしまったようだ。
 つまりは、
「どこからか、身分が変わってしまった」
 ということである。
 しかし、それくらいは、どこの村にでもあることで、実際に、二大勢力の争いというのも、問題としてはあっても、村の滅亡にいまで発展することはなかったのだ。
 しかし、この村においては、
「同じ一族での血の交わり」
 というものが大きかった。
 実際には、他の村のように、
「本家」
「分家」
 というような感じでいけるのだろうが、血がへたにまじりあったことで、近親相姦というものが行われ、どこからか、本家分家が分からなくなったということである。
 お互いに、
「自分たちが本家だ」
 ということで、争ってばかりで、結局は、それが誰にも分からないので、その争いは、半永久的に続くということになる。
 そこで、村人の誰かが、領主ともいえるところに直訴のようなものをして、
「仲裁をお願いする」
 という形になったのだが、領主としては、これ幸いにと、
「両家を一緒に潰してしまえば、この領地は我々のものだ」
 と考えたのだ。
 それが、ちょうど幕末の混乱の時期で、そのいさかいの中で、領主から、潰されて、領主の土地にされたのだった。
 しかし、領主は、あくまでも、
「幕府方」
 ということで、明治新政府にとっては、邪魔者ということであった。
 そこで、
「このあたりの土地を幕府から接収し、新しく手に入れた村が、曰くのある村ということで、この機を逃さずに、合併させよう」
 と考えたのだ。
 そのため、
「合併」
 という言葉は伏せたのだ。
 そもそも、領主としても、ここを合併させるには、極秘裏に、そして、強引に強奪するかのようにするため、
「合併などという言葉はつかえない」
 としたのだった。
 そのため、政府にとしても、この村は、
「地図から永遠に抹消しなければならない」
 ということになったのだ。
 つまり、この村は、
「最初に一度、領主から合併され、再度、領主が滅んだことで、明治政府のたくらみで、もう一度合併した」
 ということになる。
 しかも、その二度とも、
「合併という言葉は使わない」
 というような、おかしなことになったのである。
 政府としては、
「それが一番いい方法だ」
 ということであり、実際に、この村が、どうして合併という憂き目にあうのかということを知っていたのかどうか、定かではないだろう。
 しかも、政府としては、
「地図から抹消した」
 ということで、後ろめたさがあるからか、
「書物には一切残さない」
 ということだったようだ。
 そんなことも、飯塚准教授が調べているうちにわかってきたということである。
 飯塚准教授は、
「血のつながり」
 というものに着目した。
「なぜ、領主や政府から、疎まれるようになり、これ幸いと、合併されることになったのか?」
 その秘密が、
「血のつながりにある」
 と考えたのだ。
 この土地で、
「近親相姦が多い」
 というのは、実は、昔の時代であれば、公然の秘密だったということである。
 隣の大きな市の郷土史を見ると、そこには、どこの村ということは明記されていなかったが、
「近くには、近親相姦で成り立っている村がある」
 と書かれていた。
「近親相姦というと、忌み嫌われるのに、成り立っていたというのは、どういうことなんだ?」
 と感じていた。
 しかし、その時は、
「まさか、その村が自分たちの研究に深くかかわってくる村のことだとは、思ってもみなかった」
作品名:地図から抹消された村 作家名:森本晃次