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地図から抹消された村

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「逆に簡単に解読できるようなら、信頼できる」
 というようなもので、それこそ、
「昔の人の知恵」
 というものが、凝縮された巻物だということになるだろう。
 それは、解読できた飯塚准教授にも分かってきたことであり、
「私の遺伝子と同じなのかも知れないな」
 というような、思いがあった。
 そもそも、飯塚准教授というのは、
「心理学にも造詣が深い」
 ということなので、
「暗号解読というのが、心理学の観点から考えれば、難しいものではない」
 と言えるのかも知れない。
 実際に、暗号解読というものを行ってみると、
「最初に考えていた難しさが、次第に考えているだけで、頭の中からほどけてくる気がするのだ」
 ということで、
「それが自分の感性によるものなのか、今までの経験によるものなのか?」
 ということを考えると、
「どうやら、自分の感性の方が強いのかも知れない」
 というのは、
「自分が心理学の権威」
 ということが分かっているからではないかと感じたからだった。
 今の時代において、これほどのことが分かるというのは、自分でも、
「さすがだな」
 と、自画自賛したいくらいだったのだ。
 暗号をあらかた解読できたことで、分かってきたことの一番というのは、
「この村には、昔から、二大勢力があり、その二つが交互に隆盛を誇ることで、村が成り立っていた」
 ということであった。
 とはいえ、その二大勢力というものが、ずっと、争っていたというわけではない。
 村の危機には、必ず助け合っていたということであった。
 このことを書いた絵巻というのは、数種類、それぞれの家にあったということであるが、それは、
「すべてを見ないと、分からないようになっている」
 ということで、きっと誰かが、数本の絵巻にしたのだろうが、その一つ一つが時系列になっていて、それを各家で守っていくということが、この絵巻を分けた理由ということになるのだろう。
 そういう意味で、
「大日本帝国まで続く、政府や警察への警戒」
 というものが、どれだけひどかったのかということが分かるというものである。
 そんな村に残っている絵巻を一つ一つ並べていくと、分かってきた。
 助け合ってきたという歴史は新鮮であったが、ただ、この村には、
「犯してはならないタブー」
 というのも存在している。
 それは、迷信のたぐいで、今でいえば、都市伝説のようなものなのかも知れないが、村人の間では、まことしやかに囁かれた、いわゆる常識のようなものだったということになるのであろう。
 というのは、
「決して、この二大勢力の血が混ざってはいけない」
 ということであった。
「二大勢力はあくまでも、競合しあう勢力でなければいけない」
 ということで、
「相手を決して潰してしまおう」
 ということもダメだということであった。
 当然、当主ともなると、
「自分の家を一番ということで、ライバルを蹴落とす」
 ということを考えるのも当たり前というものだ。
 しかし、それをすると、災いが起こるというのだ。
 その考えは、
「この村においては、必ず、二大勢力が存在しないと、まわりから攻められる」
 ということになるというのだ。
 つまり、
「二大勢力であるということで、他の村からこの村を攻撃しようなどという気にはならないからだ」
 ということである。
 それは、何かのスピリチュアルな迷信だが、それは、本当のことのようで、絵巻を見ていると、どうやらそこに、この村が地図から消えた理由が分かるようになっていた。
「江戸時代末期に、幕末の混乱に乗じる形で、どちらかの勢力が、もう一方を滅ぼそうと考えた」
 ということであった。
 その家は、
「あくまでも、迷信でしかすぎないということを、自分たちが証明してやる」
 とばかりの暴挙だったのだ。
 そのせいで、村は混乱し、さらには、明治政府に目を付けられ、
「地図から抹消される運命」
 という道を歩まなければならなくなったということである。
 ただ、実際に、
「この村が地図から消えても、この村のことを書いた絵巻は存在していた」
 ということである。
 誰が書き残したのか、歴史としては克明に描かれていた。
 あくまでも、村の名前が消えたというだけで、実際には、一方の勢力、つまり、滅ぼされそうになった勢力の方だけが生き残り、ほそぼそと村で暮らしてきたということである。
 だが、そこには、最後に、
「預言めいたこと」
 というのが書かれていた。
「いずれは、滅んだはずの勢力の子孫が現れ、本来であれば、誤解をしているということで、その誤解を解く人が現れる。それが、生き残った勢力の方の子孫であり、この二人が協力して、この村を復興することだろう」
 ということであった。
「なるほど、この絵巻は、預言書でもあるんだ」
 ということを飯塚は感じると、
「果たして、これを公開してもいいのだろうか?」
 と考えるのであった。
 実際に、解読ができて、村人に返しにいったとき、
「どうじゃ、この村のことが分かったかな?」
 と村人は、一人一人ではなく、巻物を託してくれた人たちが集まって、飯塚准教授を迎えてくれたのであった。
「ええ、おかげさまで」
 ということで、飯塚准教授とすれば、恐る恐る、相手の顔色を見ていたのだ。
 そこには、恐怖があるわけではないが、少し気持ち悪いという思いがあった。
「こっちの気持ちをすべて見透かされているようだ」
 と思いながら、相手に無性に余裕があるように見えると、
「何か胸騒ぎがある」
 と考えるのであった。
 そして、終始笑顔で迎えてくれるのが、嬉しいのだが、恐ろしくもあるということで、今までに感じた恐怖感とは、違うものがここにはあるということが分かってきたのであった。
 そんな村人を見ていると、
「なぜか暖かさのようなものが感じられる」
 ということで、それこそ、
「包み込まれるような感覚だ」
 と感じた。
「母親の羊水って、こんなものなのかな?」
 ということまで感じるほどで、それこそ、
「今までに感じたことのない感覚」
 というものであった。
 そこまでくると、
「恐怖は薄らいでいく」
 というもので、安心して迎えるはずなのに、顔が硬直して、余計に緊張感が増してきているのではないかと感じるのであった。
 相手はそれでも、
「好々爺」
 という表情で待ち構えている。
 まるで、にらめっこの様相といってもいいかも知れない。
「いろいろ分かりました」
 と、飯塚が言葉を発するまでに、10秒くらいかかったような気がしたが、相手はしびれを切らすということもないことから、
「実はあっという間のことだったのかも?」
 と感じた。
 その思いは、別に違和感がないことから、
「自分の思い過ごしかも?」
 と感じるのであった。
作品名:地図から抹消された村 作家名:森本晃次