本当の天才
「犯罪でなくとも、何か自分の身を崩す何かに嵌ってしまうのではないか?」
と考えるからだ。
それが、ギャンブルであったり、薬物などであったりすると、
「もっと恐ろしいことになる」
と思ったのだ。
痴漢行為というものに対して、自分なりに冷静に考えたことがあった。
それは、あくまでも、
「モラル」
というものを度返しした、
「犯罪行為」
ということから見たもので、
「痴漢」
というものは、
「ただ服の上から触っただけであれば、自治体が制定している、迷惑防止条例というものに引っかかるだけで、へたをしても、罰金で済む」
ということであった。
もちろん、それがエスカレートして、下着の中に手を入れて、直接触ったりすれば、それは、刑法違反ということで、
「強制わいせつ」
ということになる。
なんといっても、相手の自由を奪うということでの犯罪なので、こちらは、懲役刑も十分にあるものだ。
それを考えると、
「なるべく早く手を引かないと、沼に嵌ってしまうと、本当の犯罪者ということになってしまう」
と考えてはいた。
だが、今の段階で、
「自分の状況が中途半端なことになっている」
と思った。
簡単に辞めることもできないし、辞めてしまうと、他のものに嵌ってしまい、そっちの方がこわいということになると、自分でも、
「逃げ出したい」
という感情が出てくることから、
「あまり考えないようにしよう」
となってくるのだった。
「逃げてはいけない」
ということなのかも知れないが、そもそも、精神的に不安定で、
「ろくなことを考えない」
ということが分かっているのだから、余計なことを考えてしまうと、それこそ、
「負のスパイラル」
というものに嵌ってしまうということになるだろう。
それを考えると、やはり、
「あまり深く考えない方がいいのでは?」
と思うのだった。
しかし、他の人たちから見れば、
「お前はちゃんと考えて結論出さないと、どんどん悪い方に向かってしまうぞ」
と言われることは分かっている。
「もし、俺が相手の立場であれば、同じ忠告をするだろう」
と思った。
というのは、
「友達だったら、こういう言い方をするのが最善だ」
と思うからで、それも、テレビドラマか何かの影響で、それこそ、まるで、
「マニュアルを読んでいるかのような」
と思えば、それこそ、自分が情けなくなるという気持ちになった。
それは、相手のことを考えているわけでも、ましてや、
「自分の意見」
というわけでもない。
それなのに、あたかも自分の意見であるかのようにいうのは、それだけ、言葉だけであれば説得力があるからだ。
しかし、それは、ドラマなどで、役者が演じるから分かることだ。
実際に、
「数年間の出来事」
というものを、ドラマの、
「尺の間」
でするのだから、
「凝縮された時間ですべてを見ているのだから、それこそ、内容は分かり切っているということ」
ということで、
「俺だって同じ忠告をするわ」
と思うと、
「違和感がないどころか、本当の説得力を感じる」
ということである。
だから、余計に、
「リアルで、説教めいたことをいうと、これほど、わざとらしい、あざとさというものはない」
といえるだろう。
それを考えると、
「ここでの説教など、まったく本人には無意味」
というもので、
「そんなしらじらしいこと言われても」
と感じ、
「聞きたいのはそんなことじゃないんだ」
とばかりに、結果は、
「時間の無駄」
としか思わない。
それであれば、まだ信憑性や正当性はなくても、
「教科書のような答えに対して異議を唱える意見の方が、よっぽど理解できる」
というものである。
この奥さんが、本当に
「保険金詐欺」
というものを行ったのかどうかわからないが、奥さんの本心がどこにあるというのか、聞いてみたいと思うのだった。
今のところであるが、
「疑惑ではあるが、一番シロというものに近い、グレーなのではないか?」
といってもいいのではないかと思えるのであった。
工藤の勘
工藤という男は、親友ではあったが、時々、怖くなることがあった。
「それはなぜなのか?」
というと、
「勘が鋭い」
というところがあるからだった。
その勘というのは、他の人であれば、
「感動すべきもの」
なのだろうが、坂田としては、そう簡単に感動できるものではなく、
「相手を不安にさせる」
というような、
「そんな勘ではないか?」
と思わせるのであった。
実際に、工藤と一緒にいると、その視線に恐怖を感じる。
「そんな相手だったら、友達を辞めればいいじゃないか?」
とも言われるが、坂田としては、工藤と離れる気は、毛頭なかったのだ。
というのは、
「不安を感じさせるところもあるのだが、それを補って余りあるほどの、利点が、彼にはある」
と思っていた。
それは、
「彼の勘の鋭さによって、自分が救われる」
と思うからだった。
「自分が痴漢の虫が生まれた時、工藤の視線によって、その時は諦めなければいけないと思い、自分としては、地団駄を踏みたい気分で、歯ぎしりしているそんなときのことであったが、なんと、その時、ちょうど、近くで、別の犯人が捕まった」
ということがあった。
どうやら、その時、警察の方で、
「痴漢やスリの防犯強化期間中」
ということで、電車内には、私腹の警察官が、張っていたということであった。
「まともにいつものようなことをしてしまうと、あっという間に検挙されていた」
と思うと、ゾッとしたが、それ以上に、
「工藤が救ってくれたんだ」
と思えば、工藤に対する感謝の念と、それ以上に、
「不安を感じる以上に、余りあるほどの頼もしさがある」
と感じられるようになったのだ。
それが一度であれば、
「ただの偶然」
ということで片付けられるのだろうが、実際に、
「何度かある」
ということになると、
「ただの偶然ではない」
と思わずにいられなかったのだ。
だから、
「俺と、工藤の間には、口では言い表せないような縁があるに違いない」
と感じた。
その縁というのが、坂田の中にある、
「痴漢行為」
ということで結びついているので、
「どのような縁なのか?」
というのは、分かったものではない。
それを感じると、
「工藤という男が末恐ろしいという存在」
といえることに違いはないが、
「そんな彼と離れられない」
とかんじさせたのは、今回の殺人事件の目撃者に、彼がなっているという偶然が、そう感じさせたのであった。
そういう意味では、
「工藤という男との因縁」
というものを考えると、
「奥さんにも、工藤にも深入りしてはいけない」
ということかも知れないと感じた。
しかし、坂田は、
「いったん気になってしまうと、それを解消させないと、絶対に気が済まない」
と思うタイプで、それは、
「自分の中で感じた、しつこさというものが、一度気になり始めると、他のことがまったく身にならない」
という性格だということからである、
しかも、