本当の天才
「あの家族も、何か曰くがある」
といってもいいだろう。
だから、得体の知れない連中から、付け狙われるということになるというものだ。
それは、坂田にも言えることで、
「俺だって、曰くがあるからこそ、余計なことはいえない」
と感じているので、
「彼女の家で何が起こっているのか?」
という、具体的な話は分からないまでも、
「ここも、自分と同じ匂いがする」
ということから、
「犯罪者は犯罪者を引き寄せる」
ということで、さらに、
「同病相憐れむ」
といってもいいのではないだろうか?
というよりも、
「犯罪者が一番犯罪者の心理を分かる」
ということであり、
「何かを隠している」
という感覚であったり、
「精神的に追い詰められている」
というようなことは分かるというものだ。
「ひょっとすると、俺が彼女に興味を持ったのも、それが理由かも知れない」
と感じたが、それと同時に、
「彼女も、俺に関心を持ったというのも、同じ理由からではないだろうか?」
と感じたのだった。
坂田は、その日、彼女の家を表から見ていると、相変わらず、彼女の家を張っている連中を見つけた。
「ああ、また今日も可」
とうんざりしていたが、どうも、やつらの様子がいつもと違うのが分かった。
「どうやら慌てている」
という雰囲気を感じたからである。
完全に、男たちは、逃げ腰になっていたが、まるで、
「腰が抜けてしまって立てない」
という様子にも見える。
「あれだけ、自分たちが見張っているのを相手に分からせるくらいの大胆不敵さだったものが、まるで子供のように、うろたえているの」
それを見ると、
「お前たち、本当にダサいな」
と言いたくなるほどだった。
とにかく、
「何をどうしていいのか分からない」
という様子が見え、どうやら、ケイタイでどこかに連絡を取っているようだった。
電話での慌て方、そして、電話の主から叱責を受けているのを見ると、
「相手はやくざの親分」
といってもいい相手だろう。
「電話をかけている連中は、詫びを必死に入れながらでも、その場を何とかしないといけない」
ということで、必死にすがっているという様子だった。
すると、もう一人のやつが、別のところに電話を入れている、
様子を見ると、へこへこと頭を下げているが、もう一人の、
「親分に対しての態度とは、よすが違っていた」
という。
親分に対しては、へりくだりながらも、必死にすがっているという様子が見て取れたが、もう一人の方は、へりくだりながら、その状態をそのままキープしている様子だった。
つまり、
「相手は、自分の身内ではない」
ということはハッキリしていた。
ということになると、相手は、
「警察ではないか?」
と思うと、そうとしか思えなくなっていたのであった。
そうこうしているうちに、警察があわただしくやってきた。
それこそ、殺人事件でも起こったかのような喧騒とした雰囲気で、よく見れば、その場には、先ほどまで数人いたのに、一人を残して立ち去っていたのだ。
そこに残った男は工藤であり、どうやら、
「目撃者」
ということで残ったようである。
野次馬が集まってきたことから、それに紛れるようにして、
「規制線の外から、中の様子を眺めていると、工藤は、警察から事情を聴かれていた。
それは、もちろん、容疑者を見る目ではなく、
「第一発見者に話を聞いている」
というだけだったのだ。
どうやら、彼女の家の中では、男が一人殺されている様子で、
「ナイフで刺されたようだ」
という声が野次馬から聞こえてきたことで、
「誰が殺されたのか?」
ということを聞くと、
「どうやら、あの家のご主人らしいんだけどね」
というではないか。
それを聞いて、坂田は、一瞬安心した自分を感じた。
「人が一人死んでいるので、不謹慎だ」
とは思ったが、次の瞬間。
「ということは、今のところの最重要容疑者というのは、彼女のことではないか?」
と感じるのだった。
それはそうだろう、
捜査が続けば少しは変わってくるかも知れないが、
「旦那が殺された」
ということになれば、他に誰も家の中にいなかったのだとすれば、
「犯人は、奥さんしかありえない」
といえるのではないだろうか?
そうなると、坂田は、
「もっといろいろ知りたい」
という気持ちもあったが、
「第一学研社が工藤で、最重要容疑者が、彼女かも知れない」
と思うと、頭が混乱してしまったようで、
「想像がつかない」
ということで、
「だったら、このままここにいても、どうなるものでもない」
ということで、
「ここにこの時間いたことを、工藤にも、彼女にも知られたくはない」
と思ったのは、最初から、
「この事件のことを、この俺が洗おう」
とでも思ったのかどうか、
その時は、
「これ以上、余計なことはしない方がいい」
と感じたのであった。
工藤も神妙に取り調べを受けているようで、それ以上のことは、
「今の俺が知ることはできない」
と、坂田は感じたことだろう。
坂田は、次の日、新聞を見て驚いた。普段は、
「新聞など見たくもない」
と思っている方だったので、あまり見たことのない新聞だったが、この日は前日の殺人事件が気になったので見てみたのだ。
やはり警察は殺人事件ということで乗り出していて、昨日の目撃者である、工藤の話も少し載っていた。
というのは、
「目撃者もいることで、殺人事件として捜査している」
ということだったからだった。
ただ、実は、もう一つ気になっているのがあったのだが、それは、殺人事件の現場で、野次馬が話をしていることであった。
その話というのが、
「あの奥さん、旦那に多額の生命保険をかけているらしい」
ということであった。
それを聞いたもう一人の人は、かなりビックリしているように見受けられたが、すぐに、冷静な顔になった。
それが、
「不謹慎だ」
と感じたからなのか、それとも、
「話に信憑性を感じた」
ということで、必要以上に、驚く必要がないと感じたのかのどちらかではあいだろうか?
それを感じると、
「果たしてどっちなのか?」
と思ったが、坂田としては、
「近所の人たちからも、さゆりが何かあやしい」
と思われているのだろうと感じたのだ。
ひょっとすると、最初から、
「うさん臭い」
と思われていたのかも知れない。
それを感じると、さゆりという女のことを、さらに怪しく感じられた坂田であったが、次第に、
「俺が、さゆりを狙っているわけではなく、俺の方が、さゆりの手のひらの上で踊らされているのではないか?」
とさえ思えた。
ただ、
「気になる女である」
ということに違いはなく、
「俺にとって、さゆりという女は、これからの俺の進む道に、何かの暗示を感じさせることになる」
という風にさえ感じた。
今のところ、坂田は、痴漢行為をやめるという気持ちはない。自分の中で、
「辞められない」
という思いを持っているからだ。
もし、ここで辞めてしまうと、他の犯罪であったり、