本当の天才
「痴漢行為以外では、性的興奮」
というのを感じることはなかった、
それこそ、性格的には、
「純粋」
で、
「勧善懲悪」
という感覚を持っていると感じていた。
へたをすれば、
「堅物」
といってもいいくらいなので、まわりの人は、
「まさか、俺が痴漢の常習犯だなどと思っているわけもないよな」
と思っていた。
だから、まわりは、
「もし、坂田という人間に対して、何かおかしい」
と感じるとすれば、それは
「二重人格なんじゃないか?」
ということで片付けるだろう。
「二重人格」
というのも、普通に
「おかしい」
といってもいい、
それが、
「ジキルとハイド」
のように、
「同じ肉体の中で、別々の人格がある」
という考え方なのか、それとも、
「躁鬱症」
であるかのような、
「性格的な問題ではなく、精神疾患が絡むものではないか?」
と考えると、
「後者は、病気なので、医者に罹る必要がある」
ということであろうが、
「前者は、病気ではなく、医者がどうこうできる問題ではない」
といえるだろう。
これが、前者のような人物であれば、
「ジキルとハイド」
のように、別々の性格には、それぞれの顔があり、まるで、
「二人が同じ人間だ」
ということが誰に分かるわけではないということになるだろう。
「だから、ジキルとハイドが同じ人間だったということを誰も知らなかったので、ハイドが死んだ時、ジキルもすでに死んでいる」
ということを分かった人はいないだろう。
しかし、それが分かるとすれば、
「ハイドが死んだ時。その表情が、悪魔のような形相ではなく、穏やかな表情がそこに浮かんでいた時、どこかで見たと思いながら、すぐには思い出せなかった」
ということがあったのかも知れない。
「これは、ジキル博士」
ということが分かった時点で、その瞬間、まるで、とりついていた何かが取れたかのように、
「ジキルとハイド」
というからくりが分かるということであったのだろう。
だから、坂田は、今一つ別のことを考えている。
「最初に好きになった女性と、今気になっている女性は、俺の中で同じ人という感覚だが、顔は決して似ているわけではない」
と思っていた。
性格も似ているわけでもない、
それは、
「自分が、年齢を重ねたからだ」
ということは分かっているつもりだが、
「さすがに、成長した」
とは言えないが、
「せめて、年齢を重ねる」
ということにしたのは、
「それなりに成長がある」
ということが分かったからだった、
そもそも、
「制服フェチ」
ということから、痴漢の道に入ってしまった自分が、
「どうして、30代後半くらいの熟年女性に惹かれてしまったのだろうか?」
と思えてならなかった。
顔も雰囲気もまったく違うかのように見えると、そのたたずまいは、無視することはできない。
「雰囲気と、佇まい」
というのは、似ているように感じるが、
「まったく同じだ」
と言えない以上、
「佇まい」
というのが、
「相手を高貴だと思わない限り、自分で自分を納得させることはできない」
といえるのではないだろうか?
その上品な佇まいは、
「どこか妖艶」
というものであり、
「佇まいが上品」
というよりも、次第に、
「怪しい雰囲気」
というものを醸し出しているのであった。
それは、
「俺が、痴漢という行為を彼女から切り離そうとしているからだ」
と感じてきた。
すると、次第に、
「この間まで、あれだけ痴漢行為から自分を切り離すことを、
「怖い」
と思っていたのが、まるで嘘のように感じられるのであった。
「痴漢行為に対して、段階のようなものがある」
とずっと思っていたことで、今は、
「起承転結」
の、転の終わり頃にあり、
「まるで、第三コーナーを回ったところ」
といってもいいかも知れない。
最後は、
「ゴールに向かって、余計なことを意識することなく、突っ走る」
ということを考えているのだろう。
「果たして。ゴールとはどこにあるのだろう?」
と考える。
幸いなことに、
「痴漢行為に対して、飽きが来ているように思えた」
ということで、
「もう余計な行為を自分の中の意識でしなくなる」
ということほど、楽なことはない。
行為を戒めるために、どのような対応をするか?
ということで、
「例えば警察に捕まった」
とすれば、
「逮捕される」
ということになると、
「もうこれからは絶対にしない」
という反省をするだろう。
罰金などの行政罰を浴びた後、
「もうこれ以上の罰を受けることは嫌だ」
と思い、
「足を洗う」
と考えるようになる。
ちなみに、この、
「足を洗う」
ということで、
「悪の道」
というものから、更正するということで、使われていたのだが、
「最近厳しくなった」
という、
「放送禁止用語」
の中には入っている。
要するに、警察で刑事などが、日常茶飯事に話している言葉のほとんどが、
「放送禁止用語」
つまりは、
「差別用語」
ということになり、
「これ以上、放送禁止用語が増えると、それこそ、テレビや映画での、刑事ものというジャンルの作品を作れなくなるだろう」
ということになるのだった。
その女の家を知っているので、普通なら、それで満足すればいいということになるのだろうが、実際に、週に何度か、彼女の家の近くまで見に行くことにしていた。
彼女の家の近所の人に怪しまれないようにするのはもちろんのこと、
「彼女にも気づかれないようにしよう」
とさえ思っていた。
彼女には、旦那がいて、その旦那に尽くしているように見えた。
ただ、彼女の旦那は、結構年上のようであった。
家は普通の閑静な住宅街にあり、旦那の年齢は、見た目では、
「50歳を超えているのではないか?」
ということで、彼女とは、20歳近くは離れているように思えた。
一見すると、
「後妻業ではないか?」
という雰囲気もあり、特に、彼女の雰囲気が、いかにもそんな風に見えなくもないということから、坂田は、
「自分が彼女を気にしているのは、そんなところに興味を持ったからではないか?」
と思ったのだ。
そう思って時々見張っているということから、その日も、彼女を意識しながら見ていると、
「そういえば、最近、彼女が俺の手を求めているように感じるんだがな」
と感じていた。
何かを計画している女というのは、
「俺の手を求めているような気がするんだよな」
ということで、かつて、別の女を意識して触っていたのだが、その女が、それまで、坂田の手にあれだけ身を任せていたのに、ある日、ぴったりと現れなくなった。
最初こそ、
「もったいないことしたな」
と思ったが、逆にいえば、
「冷静に考えれば、変な女に引っかからなくてよかったな」
と感じたのだった。
そうこうしているうちに、これは偶然だったのだが、坂田の友達で、実は、彼女のことを知っている人がいて、
「ほら、いつも、お前が出勤している時、近くに立っている女性がいるだろう?」
と言われた時、坂田は、顔が青くなった。