本当の天才
坂田が、気になる女性をコロコロ変えていたが、そんな中で、また気になる女性ができたのは、
「飽きた」
と思っていたはずの女性のイメージが、まだ残っていたからであった。
好きな人であれば、どうしても、その人のイメージが残っていて、忘れられないというのは、恋愛においては、よくあることだ。
しかし、この感情を果たして恋愛に合わせてしまってもいいのだろうか?
いや、
「やり方に問題はあるが、相手を好きだと思う感情に悪いところがあるのかどうか、そのあたりは、何とも言えないだろう」
確かに、
「好きな相手を虐めてみたい」
という感覚は、子供の頃にあったりして、もちろん、大人からは、
「治しなさい」
と言われることになるのだろうが、大人になって思い出すと、
「顔から火が出るほど恥ずかしい」
といってもいいかも知れないが、
「子供のことだから、十分に許容範囲ではないか」
といってもいいだろう。
そんな少年時代には、
「虐めていたその子のことが、本当は好きだったんだ」
ということを実際には分かっていないのかも知れない。
痴漢という行為には、当然、
「変態チック」
なところがあり、
「虐めたい」
という感覚と似通った部分があり、それこそが、
「拘束したい」
という感情なのかも知れない。
そんな彼女のことが、どうしても気になって仕方がなかった。
それまでは、痴漢をしても、その人のことを知りたいなどという気持ちになることはなかった。
当然、
「ストーカー行為」
ということが気になってしまい、追いかけるところまでは考えられなかった。
「痴漢するくせに、ストーカー行為に関しては意識するんだ」
と言われてしまうかも知れないが、自分の中では、
「同じ犯罪でも、種類が違う」
と思っていた。
それは逆に、
「痴漢まではするが、それ以上のことは」
という、どこかに制限のようなものが自分の中に掛かっていたのであった。
だが、気になる彼女ができると、意識は変わってきた。
「痴漢行為をやめられない」
というよりも、
「彼女の家を知りたい」
と考えたのだ。
それは単純に、
「彼女のことを知りたい」
という純粋な気持ちだった。
「純粋な気持ちなのに、痴漢はするのか?」
と言われてしまうと、言い訳はできないのだろうが、あくまでも、
「彼女に対しては、痴漢行為をしても、それを悪いことだ」
という感覚にならないのであった。
そう、彼女は嫌がっているという感覚を感じることはできない。触ってあげることが、逆に彼女のためになる。
というくらいに感じるのであった。
といっても、
「そんなのは、勝手な思い込みだ」
と思うのだが、そんな身勝手な思いが、
「痴漢を辞められない」
ということになり、結局は、
「依存症」
のようなものになってしまう。
ということになるのだろう。
ある日、彼女の帰宅に遭遇した。
「夕方の時間の、いつもと反対方向の電車」
だったので、
「彼女も帰宅なのだろう」
ということが分かったのだった。
彼女は最初、
「坂田がその場所にいる」
ということを分かっていなかったようだ。
すでに、その頃には、
「彼女がどこに住んでいて、名前が何なのか?」
ということは、リサーチ済みだった。
分かってしまうと、自分の感覚の中で、
「彼女とは、昔から知り合いだったんだ」
という錯覚に陥ってしまっていた。
だから、朝のいつもの電車で、彼女とのいつもの時間に対しても、
「昔からの関係だった」
とずっと思っているのだった。
その分、触っていても、それまでのような、興奮というものが、少し薄れてきているのだったが、それは、きっと、
「前から知り合いだった」
という感覚からではないだろうか?
そもそも、
「触ることで興奮する」
という痴漢行為への感覚から、少し変わってきていた。
痴漢行為を常習的に行っていると、
「その時々に、ターニングポイントがあり」、
「成長期であったり、変革期などというものが、それぞれあるのではないか?」
と感じるのだった。
「だから、これは人間の命のように、最終的には、寿命があって、消えてしまうものだろう」
と思うようになった。
というのは、
「年齢的に、年を取ってくると、やらなくなるだろう」
と感じていた。
ただ、そこまでには、数十年はかかるだろうから、その間に、警察に捕まってしまうことになるだろうと思った。
そういつまでも、女性の方が黙っているということも考えられないと思うと、
「今までが幸運だっただけ」
ということであり、
それが、
「自分から告発しない女性ばかりだった」
ということになるのか、それとも、
「女性の方でも、触られたい願望があるから」
ということになるのか?
と考えていた。
だが、痴漢行為というのも、長く続いてくると、
「女性が触られたい願望がある」
ということではなく、
「相手は本当は嫌がっているのに、自分から離れなれないような、オーラのようなものがあることで、女性を蹂躙できているのかも知れない」
という感覚もあった。
それを、
「自分の超能力のようなものではないか?」
という勝手な妄想であったが、
「もし、そのような自分の中にある超能力であれば、神の報いのようなものを受けることはない」
と考え、
「その時は、自分の人生をつぶすようなことがないように、導いてくれる」
という、またしても、自分に都合のいい考えを持っていた。
ただ、これまで警察に捕まることがなかったのも、同じような、
「都合のいい考えを持てることで、働く力だった」
ということなのかも知れない、
だが、今回は、今までと違って、
「自分に対して、ずっと都合よく進んできたことが、どこか、歯車が狂ってきているような気がするのであった」
というもの、
「今までは、相手がこちらの洗脳を受けている」
と思っていたが、今は、相手の女に自分が翻弄されているかのように思えた。
そもそも、
「相手を知りたい」
などと思っても、そこは、それ以上感じなかったはずなのに、その女性に限っては、痴漢行為以外で、慈雲を抑えることができなかったのだ。
彼女は、さゆりという女だった。
年齢は、坂田よりもかなり上で、そろそろ30代後半といってもいいくらいだった。
そもそも、その女のどこに惚れたのかというと、
「気高い気品がある」
ということで、だから、年齢の割に、逆に彼女には、若さのようなものを感じたのだ。
最初に触って、のめりこんでいた女性と確かに似ている。
その女性が、
「今の自分を作った」
ということで、
「恩人のように思っていたが、本来であれば、この道に連れ込んだということで、恨みこそある相手」
といってもよかった。
しかし、あくまでも、こんな自分になったのは、
「自業自得」
ということで、最初の頃は、
「自己嫌悪」
というもので、どうしようもない自分がいるのを感じていた。
「俺って、変質者ではないか?」
というのは、子供の頃から感じていることであり、その思いが今の自分を作っているわけで、