正悪の時系列
「小説にいずれはなりたい」
ということで、小説になるための勉強をしたり、いろいろな本を読んだりしていると、
「趣味と実益を兼ねたことができるのが、一番幸せだ」
と思ってきた考えが、揺らいでくるということを感じてきたのだった。
というのも、
「小説家を目指すということは、あくまでも、個人事業主ということであり、出版社との契約によって、小説家でいられる」
ということになる。
出版社というのは、
「利益にならないものを扱ったりはしない」
つまり、
「いくら素晴らしいと思えるような本でも、売れなければ本を出すことができない」
ということだ。
だから、出版社は、作家に対して注文する。
作家はその注文に沿った形のものを納品する義務があるのだ。
それは、なんといっても、
「お金が絡む」
からである。
「原稿料をもらって、それで、飯を食っている」
ということになるので、出版社が注文してきた内容を、いくら、
「自分の考え方に沿わない」
ということになると、その案件を、今度は他の作家にもっていくだけということになるだろう。
そして、一度断ってしまうと、出版社は、
「二度と依頼してくれない」
ということになるかも知れないのだ。
確かに、
「一度断っただけでは」
ということなのかも知れないが、そもそも、小説家というのは、
「いくらでも変わりがいる」
といってもいいだろう。
「依頼の原稿料が同じ」
ということであれば、
「少しでも売れる本を書く」
という作家か、
「出版社側の意向を聞いてくれる作家」
というものに、仕事を依頼するというのは、当たり前のことだといってもいいだろう。
それを考えると、
「小説家としてプロになる」
ということは、
「自分が書きたいものが書けない」
ということになるということだろう。
そんな時期だったが、
「物を書く仕事に就きたい」
ということで、ある意味、
「甘い気持ちで、出版社に入社したのだった」
大学時代は、確かに、
「ものを書く」
ということを目指し、文学部に入学し、そこで、文章力をつけようと考えていた。
確かに、文章の基礎のようなものはついたかも知れないが、自分のやりたかった仕事が、目的通りに学べたのかというと疑問が残る。
「小説家になりたい」
という気持ちに一定の距離を置きはしたがmいったん、
「ものを書く」
という仕事をしたいと思った気持ちは、正直にあったということから、逃れられない気持ちになっていたのだ。
「それでは、何を書くか?」
ということを考えると、よく考えてみれば、
「自分は、フィクションとしての小説と、ノンフィクションとしての歴史」
という相対的なものが好きだと思っていた。
だから、
「趣味と実益は別だ」
と考えると、
「趣味として小説を書くのであれば、実益としての歴史の知識を生かしたい」
と考えるのも、一興だと思ったのだ。
だから、仕事では、
「歴史という切り口から、取材を行って、雑誌に載せる」
という、
「ルポライター」
を目指したのだった。
今から思えば、
「好きな歴史の知識を得るのに、どれだけの歴史雑誌の世話になった」
ということであろうか?
そもそもが、
「いずれは小説家になりたい」
と思ってきたので、
「ルポライターという仕事は、まったく眼中になかったが、趣味と実益は逆だと思うようになって、歴史を顧みるようになったというのは、実に皮肉なことだといえるのではないだろうか?」
それを考えると、
「小説を書くのは、あくまでも、自分の想像。いや妄想の範囲であり、仕事としては、実際に自分で取材したものや、取材に必要な知識はすでに、頭の中にある」
ということで、ルポライターになることを自分なりに、快く感じたのであった。
実際に、編集者に面接にいったりして、話をすれば、意外と雇ってくれそうなところはあるものだった。
今の時代、ライターというのも、人手不足だということだった。
「人気のあるジャンルのライターは、それこそ履いて捨てるほどいるんだけど、あまり人気のないところは、これでも人手不足なんだよ」
というのだ。
特に、
「ここ最近は、歴女などという人たちも増えて、女性でも、歴史に興味を持ってくれる人が多いですからね」
と編集長は笑っていた。
「確かに、昨今の歴史人気は目まぐるしいものがありますからね。やはり、今までは、不人気だった歴史に、女性が目を向けるとなると、人気も出ますよね」
というと、
「そうなんですよ。女性に人気がなかった理由というのは、どうしても、歴史というと、暗記物の学問ということを言われていて、そのイメージが残っているからでしょうね。でもここ十数年前くらいから、アニメやゲームの影響で、イケメンの戦国武将が出てきたり、真田幸村や、伊達政宗のような伝説のヒーローのような人が祀り上げられたりすると、皆そのゆかりの土地に、旅行がてら行ってみようと思うようなんですよ。だから、旅と歴史というのは切っても切り離せないものになってきて、ただの旅行雑誌に、そういう戦国武将の裏話などを載せると、女性ファンがこぞって買っていくというわけです」
と編集長はいうのだった。
かなり前のめりな言い方だが、まさにその通りで、歴女が読む歴史書に、旅行が加われば、女性としても、旅行好きの人が多いことから、観光地もにぎわうというもので、
「旅や歴史」
などという雑誌は、結構売れているのであった。
それを売り込みにいくと、二つ返事で編集者も契約をしてくれる。
とりあえずは、社員という形ではなく、
「フリーのルポライター」
として、実績を重ねて、どこかしっかりした出版社の社員になろうというのが、中里の考えであった。
ただ、この
「実際の仕事」
というのが、実は趣味にも影響してくるというのは、本人としてはありがたかった。
取材旅行ということで、会社からの出張費が出ているに乗じて、自分は、現地の、
「言い伝え」
であったり、
「伝承」
というものを聞くことができるのであった。
その話を聞くと、
「興味を持ってくれそうなものは、仕事の雑誌にも書くが、ホラーすぎて、書けないというものは、自分の小説のネタに使う」
と考えると、
「仕事と趣味」
というものに対して、
「まったく表裏が関係ない」
とも言えないと考えたのだ。
そんなルポライターをしている中で、この、
「不可思議な町」
というところを発見したのだが、この町は、不思議なことに、
「歴史的な伝承」
というのは、基本的には残っていなかった。
そもそも、昔の話としては、
「今も残っている、田舎町」
というのが、昔からあったところに酷似しているということで、ただ、その頃から、
「村が二分していた」
ということだったのだ。
それが、
「昔の探偵小説であるかのような、二大勢力によるもの」
とは思われていないようだった。
どちらかというと、
「宗教の争い」
というものがあったという話にはなっている。
というのが、今も残っているのだが、
「神社が治めていたところ」