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記憶喪失の正体

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「ただ、今の自分にできることは、少しでも、精神病を解明し、未来にそれを託す」
 ということだと思っている。
 つまりは、
「自分の時代に、精神病というものを克服できるだけのものはない」
 と考えていただろう。
 ただ、佐々木博士のすごいところは、
「今言っている精神病とは別の種類の精神病が、これからどんどん出てくるのではないか?」
 ということを予想していたという。
 もちろん。それがどのようなものかというのを、明らかにはしなかった。
 時代として、
「未来に対して、ハッキリとしないことを残したり、根拠のないことで、今の時代を惑わすようなことをしてはいけない」
 ということだった。
 そもそも、そのことに関しての一番の理解者は、佐々木博士だった。
 そのことを、自らが推進していたということであり、それが、
「まさか自分の足かせになる」
 とは思ってもいなかったのだ。
「実に皮肉なものだな」
 という考えを持っていて。
「ただ、私のような学者というのは、過去にもいただろうし、未来にも出てくることだろう」
 と思っていた。
 それは、
「似て非なるもの」
 というものではなく、それこそ、
「もう一人の自分」
 といってもいい、まるで、
「ドッペルゲンガーのようなもの」
 といえるだろうと思うのだった。
 佐々木博士のことを、
「預言者だ」
 と思っている学者は、何人かいた。
 実際に、ここ数年でも、佐々木博士のいっていることが現実になったこともあった。昭和のこの時代は、科学にしても、医学にしても急激に発展した。それは、病気に対しての研究もそうであるが、逆に、
「生物兵器」
 などの開発というのも発展してきた証拠でもある。
「それぞれの表裏が、目的は違えども、目標としては、近いところにあった」
 といえるだろう。
 つまりは、
「正義も悪も、ちょっとしたボタンの掛け違いで、よくも悪くもなる」
 ということだ。
 それを誰がうまく証明できるというのか、
「逆にできないからこそ、前が見えないわけで、見ようとする気持ちがあるから、発展もするというもの。物事は何が災いするか、それとも、幸いするか分からないといってもいいだろう」
 と考えていた。
 そもそも、開発されていたものが、
「最初は平和利用だったはずのものが、急に兵器になったり。逆に、兵器利用しようと思っていたものが、いつの間にか医薬品になっていたりする」
 それは、
「時代のいたずら」
 といえるかも知れないが、それだけではない。
「何か目に見えないものの力に操られている」
 といってもいいのではないだろうか?
 それを考えると、
「佐々木博士の言ったことが、いずれは的中する」
 というのも、それは、
「預言」
 というものではなく、佐々木博士の研究熱心さと、未来への発想の豊かさなどが、そうさせるのかも知れない。
 そして、一つ言えることは、未来のことを考える時、
「自分に自信を持つことだろう」
 特に未来というのは、その時はまったく想像もつかないと思っていることかも知れないが、結果として必ず起こることである。
 だから、それだけに、
「自分の口から出てくる言葉には、責任がある」
 と感じる人も多いだろう。
「責任も感じずに、好き勝手なことを言っていれば、それこそ、
「オオカミ少年」
 ということになりかねないが、これも、
「一歩間違えれば、天才的な発想」
 といってもいい。
「100回口に出した中で、99回が嘘であったが、最後の1回が的中した」
 ということであれば、それは、
「1%ではなく、100%だ」
 といってもいいだろう。
 途中、どんなに嘘を言っても、最後には正解だったのだから、それまでの嘘が帳消しになってもいいだろう。
 なんといっても、
「オオカミはやってきた」
 という事実が残ったわけなので、
「少年の言ったことは、本当のことだった」
 というわけである。
 もし、そのあと、少年が、
「オオカミが来る」
 といって、それがその時は嘘だったとしても、
「一度真実があると、誰もが信じてしまう」
 ただ、その時々では嘘なのかも知れないので、
「オオカミ少年」
 というのは、
「本当のことを言ったのか?」
 と言われると、
「100%本当のことを言った」
 ということになるのだろうが、
「嘘を言ったのか?」
 と言われると、
「それも間違いのない事実」
 ということになるのだ。
 この話の問題は、
「本当のことなのか?」
 あるいは、
「嘘なのか?」
 ということよりも、
「すべてを嘘だとして片づけてはいけない」
 ということで、可能性を考えた時、
「いかに対応するか?」
 ということが問題になるということになるということだろう。
 この病院に連れてこられた患者が記憶喪失であるということは、治療の中で明らかになった。
 普通の記憶喪失であれば、
「何も、わざわざうちに連れてくることもないだろうに」
 と、佐々木博士は思ったが、
「どうしてここに連れてきたのか?」
 ということは、すぐに分かった気がした。
 その理由とすれば、
「あの患者は、自殺を絶えず繰り返している」
 ということで、
「普通の病院ではなく、まるで、監獄のようなところで、完全に隔離しておかないと、すぐに死のうとする」
 ということから、
「じゃあ、どこの病院が?」
 ということになり、この病院が紹介され、その時、佐々木博士の存在を知ったということであった。
 それが付き添いの男である
「岸田」
 という男の話だった。
 岸田がいうには、
「私が連れてきた男は、沢村という人で、私の会社の同僚でした」
 という。
「ただの同僚で、ここまで寄り添うというのは、どういうことなんですか?」
 と聞かれた岸田は、
「私は沢村と同じところに勤めています。そこは、ある会社の開発部というところで、会社の商品の研究開発を行っています。博士のような医学や心理学のようなものではなく、電化製品のようなものを中心に開発する会社で、いわゆる家電メーカーと思っていただければいいと思います」
 といって、岸田という男を見ていると、
「この男は、言葉の言い方よりも、絶えず表現を考えながら話しているように見えるな」
 とさすがに、心理学も研究しているだけのことはある。
「そんな彼がどうして記憶喪失になったり、自殺を繰り返すようになったんですか?」
 と言われ、
「はっきりしたことは分かりません。だた、それを分かっていたとして、私が軽々しく言えないことではないかとさえ感じるんです。だから、私だけではどうすることもできなくなり、しかも、自殺も繰り返すようになれば、しかるべき病院でキチンとした治療を受ける必要があると私は思ったんです。そういって会社に進言すると、私に沢村の面倒を見るようにと会社から言われ、さらに、予算は十分にとってやるとまで言われたので、責任は重大ということで、博士にすがるしかないと思ったんです」
 というのだ。
 岸田という男は、
「賢明だ」
 といってもいいだろう。
 岸田は、どこでこの病院の話を聞いてきたのかということは話してくれなかった。
作品名:記憶喪失の正体 作家名:森本晃次