症候群と秘密結社
というものを背負った人たちばかりで、そのほとんどは、近くのバイパスで事故を起こした人たちだったのだ。
その近くの村に住んでいる人たちは、実は、
「半分は、その病院で治療を受けたひとたちだ」
ということであった。
実際には、
「人口が増えている」
と言われている。
実際の、
「県の資料」
としては、少しずつ人口は確かに増えていた。
ただ、住民票やその人たちを証明するものは、県にはないので、町役場で確認するしかないのだが、
「それを確認したという人はいない」
ということであった。
町役場に、確かめに行った人は誰もいないというが、それは、
「県の方から、禁止令のようなものが出ているからだった」
ということである。
「あの町について、勝手な詮索は許さない」
ということで、
「へたに動けば、国家権力に逆らうことになる」
とまでのウワサが流れているほどだった。
いくら、
「好奇心旺盛」
という人がいたとしても、さすがに、
「触らぬ神に祟りなし」
ということで、誰も、詮索しようというものはいなかった。
「昔、一人いたらしいんだけど、その人は、存在のものがこの世から抹消された」
というくらいの話が残っているのだという。
そこまで言われると、いくら、
「都市伝説」
といっても、
「怖くて近寄れない」
というのが当たり前だった。
実際に、県の中で、
「その町の担当」
という人が、担当になってから初めてその町に行き、数日、いろいろ確認をしてから戻ってくるということになっていたが、それが終わり戻ってくると、
「まるで別人になっていた」
ということであった。
昔は、口数も多く、人との会話も滑らかだったのに、戻ってきてからは、
「仕事以外のことは一切口にしない」
という人になっていた。
いつも、
「何か思いつめたような表情をしている」
という雰囲気であるが、
「それこそ、町で洗脳でもされたのではないか?」
というくらいだった。
だが、皆着にはなっているが、それに触れようとはしない。
「禁止令」
というものが出ていたからだ。
なんといっても、
「ここまで人間が変わってしまった」
という事実と、実際に出されている
「禁止令」
それを考えると、本当に、
「触らぬ神にたたりなし」
というのも、当たり前のことであり、
「冗談ではない」
ということになるだろう。
そして、そんな彼のことを、県庁の所員は皆、
「コンピュータ人間」
と呼んでいた。
それは、
「揶揄した」
というわけでもなく、
「敬意を表している」
というわけでもない。
つまりは、
「コンピュータ人間:
というのは、
「触れてはいけないアンタッチャブルな存在」
ということで、位置づけている。
それが、どこか空気のような存在ということで、
「石ころ」
というものを、皆が感じていたのだ。
石ころというのは、
「そこにあっても、誰も意識することのない」
というものである。
「見えているのに、意識をすることがない」
という不可思議なもので、
「石ころからすれば、見られているという意識はかなり強いはずなのに、見ている方からすれば、石ころからは何も感じられない」
つまり、
「それぞれの方向からの見え方が、まったく違っている」
ということになる。
それこそ、
「向こうからは見えているのに、こちらからは、鏡にしか見えない」
といってもいい、
「マジックミラー」
というものではないだろうか。
そもそも、
「マジックミラー」
の原理というのは、
「光の屈折」
というものであり、その屈折が、双方からの角度の違いで、
「向こうからは見えるが、こっちからは鏡にしか見えず、自分の姿しか確認できない」
ということになるのだ。
それが、
「石ころ」
という現象への理屈として成り立つものなのかは分からないが、発想としてできないことではないということから、
「石ころ」
という発想は、
「普通では理解しかねる」
ということの発想として、考えるための材料として使えるのではないかと考えられるのだ。
今回運び込まれた人も、緊急入院ということで、
「結構大変な手術だった」
ということであったが、手術は成功し、今は、集中治療室で、意識が戻るのを待っているという状態であった。
警察もやってきて、その身元を確認しようにも、どうやら、身元を示すものは、残っていないようで、
「身元の調査には、しばらくかかりそうだな」
ということであった。
「とりあえず、患者の意識が戻りしたいということになるでしょうね」
ということで、医者は、それ以上、警察には言えなかった。
警察としても、
「いつ頃意識が戻りますか?」
ということをいうが、
「それははっきりとはわかりません。ただ意識が戻ったとしても……」
とそこまで言って、言葉を切った。
刑事もそれを聞いて、
「嫌な予感がする」
とは思ったが、今ここでそれを聞いてもどうなるものでもない。
「覚悟は必要ですよ」
と言われているようであったが、刑事も、それ以上聞けるわけもなかったのであった。
患者の目が覚めたということで、警察が病院に入ったのは、手術から、5日後のことであった。
「結構時間が掛かりましたね」
と刑事がいうと、
「ええ、そういうこともありますよ。意識が戻っても、面会謝絶ということは普通にありますからね」
と医者がいうと、
「それは、しゃべれないとか、身体が動かせないなどという問題からですかね?」
と刑事は聞いたが、医者は、それに対して何も答えようとはしなかった。
刑事の方としては、
「何も言わない医者」
に対して、これ以上聞くのは愚の骨頂ということで、とりあえず、医者に立ち会ってもらっての、聞き取りに入ることにした。
医者は、ポーカーフェイスで何も言おうとしない。
そのことも少し気にはなっていたが、刑事としては、進むしかなかった。
患者は、意識は取り戻していて、ベッドに寝たまま、刑事の顔を、まったく表情を変えることなく見たのだ。
「大変な目に遭われましたね」
ということで、患者をねぎらう気持ちで声をかけたが、患者は、何も言おうとしない。
「私は、F警察からやってきた、清水というものです」
というと、男は、軽くうなずいた。
見た目は血色もいいようだが、まだまだ自分で思っているほどに身体を動かすということは無理のようだった。
「あなたのお名前をお聞かせください」
と清水刑事がいうと、男は、今度こそ、表情を変えて、いかにも、いやなことを聞かれたという顔になった。
ただ、それも一瞬のことで、すぐにそれまでの表情に戻り、また、天井を見つめている。
今の一瞬の表情だが、少しでも気を抜いていれば見ることができなかったほどの一瞬だった。
それこそまるで、
「本能による、条件反射ではないだろうか?」
と思えるほどだった。
医者の方を見ると、医者は患者を見守っているようで、刑事の方を見ようとはしなかった。
その表情は、
「不安で見守っている」
というよりも、何かの意思があって見つめているように見えたが、