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覚悟という錯誤

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 という感覚になったのである。
 兄貴たちとは、時々遭ってはいるが、
「お互いのことは、あまり話をしない」
 だから、たぶんであるが、
「お互いに、困ったことはない」
 とそれぞれに思っていることだろう。
 特に、坂上の方は、
「一度助けた」
 という自負があることで、余計に、
「もう兄貴たちに負い目はないはずだ」
 という思いが強くある。
 それは自分の中で、
「助けた相手には、ずっと無事でいてほしい」
 という、
「自分自身で助けたことへの納得」
 というものをしたいからだ。
 それがいずれは、
「助けたことで恩を売ったのだから、いざという時に助けてもらっても、罰が当たらない」
 ということになるからだ。
 この考えは、
「卑怯だ」
 といえるかも知れないが、人間というものは、そんなに強いものだというわけではない。
 当然、
「弱いものだ」
 ということで、
「だからこそ、親友や友達がいるんだ」
 ということだった。
 そもそも、坂上は、
「友達はいらない」
 と思ったのも、
「俺には、友達100人に匹敵する優秀な兄たちがいる」
 と思っているからだった。
 そんな兄がいることで、
「俺だって、いざとなれば、自分で何とかできるだけの技量があるはずだ」
 と、
「自分を納得させることができるだけの考えが生まれる」
 というものであった。
 だから、今回、女の子を家に連れて帰ったのも、そういう自負があったからだ。
 もし、そんなものがなければ、
「もし、後悔する」
 ということになったとしても、それ以上に、リアルな状況を思えば、
「警察に連れていくしかないではないか」
 ということになるだろう。
 警察に連れていくということもせず、家に匿った。
 へたをすれば、
「誘拐」
 であったり、知らないこととはいえ、
「何かの犯罪の片棒を担ぐことになるかも知れない」
 というわけで、とてもではないが、
「そんな責任を負うことはできない」
 と思うだろう。
 しかし、それを分かったうえで、それでも、家に連れて帰った。
「後悔をしたくない」
 あるいは、
「自分を納得させるため」
 ということだけで、連れて帰ったのだ。
 そこには、前述のように、恋愛感情などはない。
 もし、恋愛感情があったとすれば、それは、
「自分の中の妄想に振り回されているだけ」
 ということで、
「我を忘れてのこと」
 ということになるだろう。
 実際に、彼女を家に連れて帰った時、自分の中で、
「覚悟の正体」
 というものを考えたうえでの行動だったはずだ。
 それを思えば、
「まず考えることとすれば、彼女の記憶の問題」
 ということで、
「その記憶が思い出すべき記憶なのかということを見出さなければいけない」
 ということになる。
 しかし、これは、
「実は一番難しい」
 ということである。
 もし、
「思い出すにはあまりにも辛い」
 ということであれば、
「それを俺が無理やりに引き出すことになれば、それこそ、一生かけてもぬぐうことのできない後悔を背負うことになってしまう」
 ということだ。
 だから、この問題が、
「思い出していいものかどうかの見極めというのは、本当に難しい」
 といえるだろう。
 特に、
「記憶というものは、一度思い出し始めると、一気にある程度までは思い出すのではないか?」
 と思っていた。
 それまで、トラウマになってまで、必死に忘れようという意識の下。記憶が失われたわけであって、それが、
「思い出す」
 という空気に乗ってしまえば、一気にその力は、他力であっても、倍層するというものだ。
 それによって、
「思い出したことは、いくら途中で、思い出してはいけないと感じたとしても、それはしょせん、自分だけの意識ということで、他力の風が吹いてきている状況においては、堰き止めることは、もはや不可能」
 ということになるだろう。
 だから、
「記憶を取り戻す」
 ということに関しては、
「記憶を取り戻させようとするまわり」
 というのも、
「取り戻すために不可欠な本人」
 というのも、それぞれに、最初から覚悟を持たなければいけないということになるのだ。
 そういう意味で、
「坂上という男は、どれほどたくさんの覚悟と責任を背負うことになるのか?」
 ということになるのだ。
「俺が、彼女の記憶を取り戻したとして、もし、その時、彼女が一人で支えきれない重みをもってしまったら、その責任は、自分にあるのだ」
 という覚悟である。
「一人で支えられないものも、二人なら」
 などという、生半可なものでいいのだろうか?
 もちろん、最悪を考えてはいけないのだろうが、
「いざとなれば、二人で心中する」
 というくらいの覚悟が必要というものだ。
 それこそ、
「武士道」
 というものに近いのかも知れないが、そういう意味では、
「武士道というのは、いかに、覚悟というものを持てるかどうか?」
 ということになるのではないだろうか?
 自分がいかに、
「世の中を知らない」
 といっても、
「一度覚悟を持ってしまうと、世の中を知らないということは、言い訳にしかならない」
 ということになるのだ。
 そんな覚悟を持つ中で、見つかったのが、彼女の、
「記憶への糸口」
 であった。
 彼女と数日過ごしてみると、
「性的なことに、恐怖を感じる」
 というような、トラウマのようなものがあるということが分かってきた。
 性的なことというのは、
「実際に、男性が近づいてきたりすると、反射的によける」
 という反応から、近くを歩いている若い男性が、
「下ネタ」
 などで盛り上がったりすると、余計な反応を示すということであった。
 これは、
「やはり、精神的な面と肉体的な面で、性的なトラウマが彼女には残ってしまった」
 ということになるであろう。
 そのトラウマというのが、どのようなものなのかということは、正直分からない。そんな中で、坂上に対しては、一切の拒否反応は示さない。坂上からすれば、
「俺だって、彼女はいないが、風俗の女は抱くんだけどな」
 と感じた。
 そこから考えたところで、勝手な憶測にすぎないが、その一つとして、
「彼女には、風俗嬢というものに対しての偏見のようなものはない」
 ということではないかと感じること。
 そして、
「坂上以外の男性は、そのほとんどに拒否反応があり、まるで、ツバメのように、最初に見たものを親と思うというような感覚なのではないか?」
 という、
「本能的なものを感じる」
 ということであった。
 坂上とすれば、
「やはり、風俗関係者だったのではないか?」
 という思いが頭をよぎった。
 そして、男全般に対して感じる怯えは、
「客から何か嫌なことをされ、さらに、そこから逃げているところで、店からも助けが得られない」
 ということではないかと思うと、
「もし、そうであれば、こんなことが許されていいのか?」
 と考えた。
 しかし、もし、店側に問題があるのだとすれば、
「ここは、彼女を警察に連れていく方がいいのではないか?」
 と考えた。
 これは、
「自分の覚悟との裏返しになる」
作品名:覚悟という錯誤 作家名:森本晃次