裏の裏
しかし、真実が分かったわけではないので、警察の捜査は引き続き行われるが、そのために、事件はどんどん長期化してしまうことだろう。
裁判に入れば、
「判決までに、何年もかかる」
ということは少なくもなく、
「今回の事件も、きっと長引く」
と理解しなければいけない。
弁護士側の作戦として、時と場合によっては、
「裁判を長引かせる」
ということもありえないわけではないからだ。
それだけ、
「法廷テクニックを駆使して、依頼人の財産と自由を守る」
ということに徹しているのが、弁護士だということである。
しかし、
「真実は一つしかない」
ということがもし、証明されれば、それこそ、
「いかなる犯罪も、簡易裁判で終わる」
という時代が来るかも知れない。
実際に、小説などで、
「近未来」
の話などがあった時、よく、時代の変革の例として、
「裁判は簡素化され、起訴されたから判決が出るまで、最長でも一か月」
という時代が来るということが言われていた。
それだけ、昔から、
「裁判には、金と時間が掛かる」
ということで、さらには、
「当事者の精神的な苦痛がずっと続く」
ということで、問題視されていたのではないだろうか?
それを考えると、
「簡易裁判というものも、仕方がない」
ということで、近未来の話の例として、言われるということもありなのだろうと思うのであった。
実際に、犯罪捜査というものが、
「税金を使ってのことだ」
ということも事実だ。
確かに、真実を見つけるためには、できるだけ克明に調べ、裁判を顕著に進めていくのが当たり前だというのだろうが、実際に、時間や金を掛けて、
「どこまで真実に近づけたのか?」
と考えると。
「簡易裁判かもやむなし」
と考える人も少なくはないだろう。
実は、この、
「簡易裁判という考え方」
というのは、行方不明の清水刑事も頭の中にあった。
彼が、秋元刑事のような、
「勘に頼る推理」
というものを推奨するのも、この、
「簡易裁判」
というものを実現できる世界を作りたいという考え方が根底にあった。
「簡易裁判を行うためには、いろいろな部署のレベルアップが必要であり、それは警察も例外ではない」
ということだ。
そのためには、
「推理を組み立てるための、刑事の勘というものが養われることで、犯人逮捕までのスピードと、実際に物証を見つけるうえでも、目の付け所が分かってくる」
ということで、
「刑事としてのレベルアップにつながる」
と思っている。
「刑事にレベルアップがなければ、捜査員はそれこそ、AIやロボットにとって代わられ、刑事という仕事がなくなってしまう」
ということになる。
簡易裁判などということに関しては、興味をもって見ているが、
「捜査まで、機械的に、血の通わないロボットやAIにされてしまうというのは、相当に抵抗がある」
ということになるのだ。。
「そうなってしまえば、世も末だ」
と考えるのだった。
実際に、
「真実は一つ」
などということを、刑事ドラマやアニメなどで言っているのは、あくまでも、
「決め台詞」
ということで、
「それ以上でも、それ以下でもない」
ということなのだろうが、実際にそれを真剣に考えている方は、
「たまったものではない」
と思っているに違いない。
記憶喪失の男
刑事が行方不明になってから三か月が経ってからの、ちょうど前章と同じ時期、こちらは、半年前から記憶喪失ということで、病院に入院している男がいたのだが、
「一部だけではあるが、記憶が戻った」
ということで、
「K警察署」
連絡が入った。
警察署に、
「記憶が戻った」
ということで連絡があったということは、
「記憶を失っている人は、何かの事件に関わっている」
ということであった。
その男が入院することになったのは、
「誰かに殴られて、その場で倒れていた」
ということであったのだが、そのまわりには 、たくさんの血が流れていて、明らかに被害者だけの血痕というのは、あまりにも血の量が多かったので、鑑識が調べると、
「確かに二種類の血痕のようです」
ということであった。
一つは確かに、
「被害者の血液」
で間違いないのだが、もう一つは誰の血液だか分からない。
そこに死体があったわけでもなく、実は争った跡もなかったのだ。
だから、この事件は、
「二人の被害者がいる」
ということで捜査が始まったのだが、何しろ発見された被害者が、記憶を宇しまっているということで、被害者が、
「この事件にまきこまれたのか?」
あるいは、
「事件の当事者なのか?」
ということも分からない。
当然気になるのは、もう一つの血液であり、
「これだけの血液が残っているということは、生きている可能性はかなり低い」
ということが言われた。
考え方としては、
「交通事故に遭った」
ということであるが、
「それならなぜ、そこに血痕の本人である人間が残っていないのか?」
ということが問題となるのだ。
「これだけの血液が残ってしまっているのだから、隠蔽は不可能ではないか?」
と考えられるが、
「もし、隠蔽を考えるのであれば、記憶喪失の男を、どうしてそのままにしておいたのか?」
ということである。
もっとも、近くにタイヤ痕もなければ、
「ブレーキの音を聞いた」
という人もいなかった。
その場所は、夜になれば、ほとんど人通りもいないということで、実際ン位、発見されたのは、朝の通勤ラッシュが始まる時間帯だった。
それも、このあたりから会社に行こうとするならば、駅までの道が違うので、見つけるとすれば、
「学童ではないか?」
ということで、実際に発見したのは、近くの中学校に、
「朝練」
ということで部活に向かっていた中学生だったのだ。
第一発見者がいうには、
「まず、最初に、何かが落ちていると思ったのだが、最初は暗いことで遠近感も取れないので、まさか人が倒れているとまでは思っていなかったので、結構近くなんだろう」
と思ったという。
「しかし、まだ街灯がついてくるくらいの薄暗さだったので、光の加減で、必要以上に大きく見えるということは分かっていたので、動物の死骸だと思った」
という、
この辺りは、確かに、野良猫も少なくないようで、夜になると、結構なスピードで車も走るので、時期によっては、頻繁に猫の死骸が発見されるということであった。
だから、
「猫の死骸と思ったとしてもそれは無理もないこと」
ということであり、発見当時のことは、口出しせずに、自由にしゃべらせることにしたのだ。
「人の死体だと思ったのはどうして?」
と聞くと、
「少し風が吹いていたので、着ているものがはためいた気がしたんですよ。だから、そこにいるのは人間じゃないかと思ったんですよ」
という。
「じゃあ、最初から死体だと思ったんですか?」
と聞かれて、
「僕はそう思いました」
「どうしてなんだい?」
と聞かれた第一発見者は、