裏の裏
というものが進行していれば、誘拐事件の方が優先されるのは当たり前のことだが、それ以外は、
「そう簡単に警察が、捜査方針を変えるなどありえない」
ということになるのだ。
そんなことを考えていると、
「今回こそは期待したんですがね」
という、佐久間刑事の言葉が示しているように、
「あまり期待できなかった」
ということになるのだろうが、秋元刑事も佐久間刑事も、お互いに、
「そこまでのショックではなさそうだ」
と相手に対して感じていたのだった。
行方不明
今回の事件と関係があるのかどうなのか、
「一人の刑事の行方不明事件」
というのも、K警察の方で捜査が行われていた。
清水刑事の足取りを調べてきたが、ある場所から、ぷっつりと消息が分からなくなっていて、
「その前後に何か問題でも起こったのだろうか?」
と考えるのだが、
「消息が分からなくなるような節目でもなんでもないのにな」
ということであった。
そこから、
「清水刑事の失踪は、事件にまきこまれた」
というわけではなく、
「不慮の事故」
ということであったり、
「自らの意思が働いている」
ということが考えられる。
もし、自分で姿をくらましたということであれば、
「実に迷惑な話」
ということであり、それこそ、
「警察官にはあるまじき行為」
ということになるのだろう。
それを考えると、
「清水刑事が普段どういう性格だったのか?」
ということから、捜査は始まるのだ。
「清水刑事は、まじめな刑事で、ただ、仲間内では、うんちくが好きで、いつも話が長くなる」
ということが、難点だということであった。
清水刑事は、一口にいえば、
「二重人格だった」
という人がいる。
とは言っても、
「人から嫌われる二重人格だ」
というわけではない。
ただ、
「彼はいつも正論ばかりを並べるので、堅物のイメージが強く、嫌われるというよりも、避けられているといった方がいい」
ということで、
「村八分的なことになっていたのではないか?」
ということを考えると。
「これって、失踪する人の一つのパターンかもしれない」
と感じた。
ということは、逆にいえば、
「自分から姿を消した」
と考える方が自然ではないか?
となると、怖いのが、
「どこかで自殺をしているのではないか?」
ということである。
そう考えたから、K警察の方でも、
「公開捜査」
に踏み切ったのだ。
最初はもちろん、戸惑いもあった。
というのは、
「何かの事件にまきこまれたのではないか?」
と考えたからで、
「もしそうであれば、へたに警察が動くと、その事件がどういうものであるか分からないだけに、清水刑事以外の、他の誰かが犠牲になりかねない」
と考えたからだった。
清水刑事は、実は、警察の中でも、
「内偵」
というものを行う部署にいた。
しかも、それは、警察内部でも、上層部の一部の人だけが知っている、
「トップシークレット」
ということだったのだ。
しかし、今回の失踪に関しては、
「警察上層部」
としても、そのことは、
「想定外だ」
ということだったようで、びっくりしている。
そもそも、
「内偵」
というほど大げさなところではなく、
「少なくとも、危険を伴うところではない」
と思われていただけに、
「もしこの失踪が、その組織とかかわっている」
ということであれば、
「我々警察の目は、騙されてしまっていた」
といってもいいだろう。
それだけ、
「浅はかで軽率だった」
ということで、考え直さなければいけないということになる。
つまり、
「内偵捜査」
というものの、根本的な刷新というものが必要になってくるということである。
ただ、清水刑事が失踪してから、内偵を進めているところが、
「これといって目立った行動をしているわけではない」
という。
しかし、逆にいえば、
「内偵社員とはいえ、知らないはずなので、一人の社員が行方不明になったというわりに、誰もまったく騒がない」
ということは、
「向こうは向こうで、失踪ということを隠蔽しようとしている」
ということも考えられる。
ただ問題としては、
「誰が、誰の為に隠蔽する」
ということなのだろう。
その隠蔽は、
「彼が内偵していたことと関係があるのだろうか?」
ということであったが、
そもそも、清水刑事からの、
「内偵による途中報告」
というものからは、
「内偵先の動きは、ほとんど見えない」
ということで、
「内偵をこのまま続けることに意味があるのか?」
と言わんばかりの話を報告しているということでもあったのだ。
だから余計に、
「失踪する」
ということの意味が分からない。
それは警察に分からないだけで、実際の内偵先はどうなのだろう?
「一人の社員がいなくなっても、ほとんど体制に影響はない」
というような大企業ではないのだ。
内偵をしている事務所は、社員が20人くらいの小規模なところで、そこに、
「営業部も管理部もあるのだ」
というところであった。
だから、余計に、
「行方不明の捜査」
というものを、公開捜査にしてよかったのだろうか?
と感じた。
なぜなら。
「内偵先の会社にも、警察が内偵していた」
ということが分かったはずだし、しかも、
「その刑事が行方不明」
ということになれば、
「普通なら、さすがに平静ではいられないはずだ」
といえるはずなのに、別に慌てているそぶりを見せていないということだ。
それを考えると、
「自分たちが進めていた内偵」
というのは、
「本当に正しかったのか?」
ということであった。
「ここまで、何も相手が行動を起こさない」
ということは、
「やましいことはない」
といっているようなもので、行方不明の社員といっても、相手は警察官であれば、その捜索は警察に任せればいいだけのことであり、慌てる必要はないというものだ。
堂々とした態度は、
「そのことを物語っている」
といってもいいだろう。
警察としても、
「最悪の結果」
というものを考えないわけではない。
特に、
「内偵を行う特殊な任務」
についているような刑事である。
そんな人間が、忽然と姿を消したのだから、もし、ここに、
「事件性というものがある」
ということであれば、それは、
「明らかに、相手は、一筋縄ではいかない、海千山千の連中だということになるのではないか?」
ということである。
そして、
「もし、自分の意志で姿を消した」
ということであれば、それは、
「相手から、相当なプレッシャーを掛けられ、姿を隠すしかない」
ということになった。
ということも考えられ、それ以外では、
「これ以上、自分が内偵を進められない」
と考えたとして、その理由を本部に話すことができないというジレンマからのことではないかということである。
もし、そうであれば、
「かなりの覚悟があることだろう」
ということであり、
「そこには、相手に対しての、かなりの同情が含まれている」
といえるだろう。