最後の天使
というのは、この女が付き合っている男性というのは、
「被害者の弟だ」
ということであった。
実は、彼女は、実際に今度の事件には、関わっているようだった。だから、警察から、
「何をきかれても、私は最初から正直に話すつもりでしたよ」
というではないか。
この事件で一番したたかだったのは、実は、彼女だったのかも知れない。
「あなたは、この事件でどういう役割を持っているんですか?」
と警察から言われて、
「刑事さんは、この事件の犯人はもう分かっていますよね?」
と聞かれて、
「ええ、あなたが正直に供述してくれているので、分かっています」
という。
「じゃあ、犯人は誰ですか?」
と聞かれて。秋元刑事と樋口刑事は、顔を見合わせたが、
「弟の次郎さんですよね?」
というと、
「ええ、そうよ。あの人が計画して私が、ちょっと手伝ったのよ」
という。
「犯人は分かったんですが、動機はなんですか?」
と聞かれて、
「なんだと思います?」
といじわるそうに女が答える。
「それは、あなたのことか、それとも、うちを誰が継ぐかということでの、疑心暗鬼のようなものですかね?」
というと、彼女はにんまりとして。
「今回の事件を計画したのは、本当は私なのよ。お兄さんを殺したいという相談は受けたけど、計画を練って実際に犯行に及んだのは私なの。だけど、あの人は共犯なのよ」
という。
「それが、あのスズランということ?」
と、秋元刑事が答えた、
秋元刑事は、なんとなくではあるが、事件を分かっているかのようだった。
「秋元君、スズランというのは?」
「あのスズランの水を被害者が一気に飲んだというのは、まわりの人の話では、のどを抑えるようにして苦しんで入ってきた被害者が、何も考えずに水を飲んだということですが、ひょっとすると、のどを絞められると苦しくなるような何かの薬を盛られ、それはあくまでも、盛られたのではないかと思ってですね。その状態のところ、あなたのような女性が首を絞めても、窒息しそうになる苦しさから、意識ももうろうとしている被害者は、苦しみながら、教室の上のスズランの水を飲んだとしても、それは無理もないことですね。これが、犯罪現場での出来事ではなかったかと思うんですよ。だから、弟が何かをしたとすれば、スズランを持ち込んだということでしょうね」
という。
それを聞いた女は、
「そうよ。でも、彼はそれを知らずにやったといっても、どうせ、警察は信じてくれない。主犯は彼ということになり、事件は解決ということになると私は考えたのよね」
というではないか。
大団円
「じゃあ、どうしてそれを今になっていうんですか? これからまだ裁判があるのに、あなたは、別に何もいわなければ、あなたの計画通りに、ことは運んで、無罪でいられたのに」
と樋口刑事がいうと、
「私は別にこの事件を、私は犯人ではないような偽装工作を最初からいようなんて思っていないんですよ。むしろ、弟が犯人と疑われるのであれば、私が罪に問われても関係ないというくらいには感じていました」
という。
「じゃあ、どうして?」
というので、
「だったら、弟のところに行ってみなさいよ」
と言われたので、確認してみると、
「たった今、弟さんの死体が発見された」
ということだった、
彼女は、にんまりとした。
「まさか、君が殺したのかい?」
と言われたので、
「そんなことはしないよ。あれは、自殺なんですよ」
というではないか。
「それでは、君の思った通りになったということか?」
と秋元刑事が聞くので、
「いえ、そんなことは思いません」
といって、相変わらずの力強い口調であった。
その雰囲気は、まるで、
「勝ち誇ったかのようで、それこそ、警察に対して喧嘩を売って、それに勝利した」
と言わんばかりではないか。
「どうにも分からんな」
と樋口刑事は、頭を抱えていたが、秋元刑事は、頭をフル回転させ。
「ひょっとすると、弟が、犯行動機を自分でも曖昧だ と思っていただけでなく、君も、曖昧に考えていたんじゃないか?」
というと、またにんまりとして。
「分かったようなことをいうじゃない」
と、不敵な笑みを浮かべた。
「やっぱりそうか、君は、弟と被害者から、同時に何か脅されていたんじゃないか? そしてどちらかを殺しどちらかに罪を着せようと考えた。しかし、どっちにかを決めかねていた時、弟から、兄の殺害計画を打ち明けられ、それを受け入れないとすれば、お前が兄を殺そうとしていると俺がチクってやるとでも言われたんじゃないですか?」
という。
彼女は黙って聞いていた。
「なるほど、そう考えると、分からなくもない。あなたが、弟の計画に乗りながら、自分でも、この機会に、二人からの脅迫を一層しようと思ったわけだね。そして、弟に、すべてを自分がかぶる方が、犯人としての決定的なことはない。そのかわり、あなたには、スズランの花を配達してもらうと言ったんじゃないですかね? だから、スズランの花を持ってきたのを知っているのは、あなたと被害者だけ、だから、被害者は、あそこに水があることを分かっていた」
と樋口刑事は言った。
「でも、そう簡単に水があるのをあの苦しい状態で判断できましたね」
というと、
「私がそそのかしたのよ」
というではないか。
「えっ、首を絞めたあなたのいうことを聞いたんですか?」
「ええ、そうよ、だって、本当に苦しんでいれば、首を絞めた相手だと思っても、水を飲みに行くわよね。それに死んでしまう人なんだから、証拠は残らない。もし、水を飲みにいかなかったとして、彼が別の方法で助かったとしても、彼は警察に言ったりはしないわ」
と女は言った。
「どうして?」
「だっていってしまえば自分が脅迫していることがばれてしまうでしょう? そうなると、兄弟の仲もさらに最悪になり、さらに事態が悪くなる」
と彼女は言った。
「なるほど、これほど、周到に考えられたことですね?」
と秋元刑事は言った。
「ところで、弟さんが自殺をしたということですか? だとすれと、よくあなたに分かりましたね」
というので、
「ええ、自殺するように仕向けたんですよ。私が警察にすべてをいえばあなたは終わりということをね」
「それだけで自殺するものない?」
というと、
「ええ、それだけ彼は私に対してひどいことをしたということなのよ。そして、兄の方もね。結局は、あの二人は死なないといけない二人だったのよ」
といって、怪しく笑う。
彼女の話をそれから少し聞いていた。
実際に、あの兄弟が彼女に対して行ったことが、まるで因縁と言わんばかりであり、それが、実際に、
「兄弟の因縁」
ということでもあったのだ。
事件は、これをもって解決した。
実際の、捜査本部も解散するということに決まり、結局、
「兄は殺害」
「弟は自殺」
「女は犯人」
ということでそれぞれ、罪に復すことになる。
だが、三人の刑事の思いは、
「まだ解決していなかった」
というのは、
「この三人の中で、すべてが、損をした:
ということで、
「これを警察が解決した」