最後の天使
そもそも、警察というところは、
「横のつながりはほとんどない」
といってもいい。
いわゆる、
「縄張り意識」
というものが大きく、
「隣の署をライバル意識している」
というところもいっぱいあるのだった。
実際に警察署というところは、
「意識はしているが、隣の署がどのような対応をしているかということを考えたりはしない」
といってもいい。
それを考えると、
「それぞれの警察で対応が違うのも当たり前だ」
ということになるだろう。
ただ、それが分かっているだけに、県警本部としては、一定の、
「マニュアル」
というものを整備したり、
「県警内部での、対応の取り決めなどを示し、それぞれの警察署に、それを守らせるように努力はしていることであろう」
そもそもが、
「縄張り意識
などというものがなければ、問題なく、捜査ができるし、
「警察が市民から信頼されない」
というようなことはなくなるだろう。
というのも、真理ではないだろうか。
今回の事件をいろいろ探ってみると、
「殺された白石という男、かなりのすきもののようですね」
ということが、捜査会議で暴露された。
捜査に当たっている樋口刑事からの報告であったが、表情から見ると、
「どうにも呆れた」
という雰囲気であった。
「被害者の白石は、生徒に何人も手を出しているようで、今の生徒のうちの女子が、10人くらいなんだそうですが、その中の3人とは関係があるようです」
というのだった。
それを聞いた。桜井警部補は、
「ということは、同時に三人とということになるわけだね?」
と聞かれ、
「ええ、そうです。もちろん、それぞれに立場が違いますから、いつでも会える女性もいえれば、たまにしか会えない女性もいるようで、白石とすれば、全員遊びではないかということでした」
という。
「それは、本人からの自供かね?」
という桜井警部補の質問に、
「ええ、そうです。最初は、一人の女性が告白してくれたのですが、その人は、別れたいと思っていたようで、殺されたことで、自分に疑いが向くのが嫌だということでの、早々の告白だったんです」
「自分から告白するというのは、よほど嫌だったんだろうね?」
と言われた樋口刑事は、
「ええ、そうですね。かなり付きまとわれているということでした。だから彼女とすれば、どうせ警察が調べれば、遅かれ早かれ分かることで、それを警察に言われて、逮捕でもされると、大変だとでも思ったんじゃないですかね?」
というので、
「そっか、どうも誰かの入れ知恵があったかのようにも思うんだが」
と、桜井警部補は言ったが。
「ええ、そうかも知れません。その女性は、ストーカーが怖いといっていたので、誰か信頼できる人に相談したのかも知れないですね」
「それが誰なのか、知る必要があるというものだね」
というのだった。
「ちなみに、この女性は独身で、実は、彼氏がいるような雰囲気でした。もし入れ知恵をしたのであれば、その男の可能性は高いですね」
というと、
「なるほど、動機としては、三角関係のもつれと言えるかも知れないな」
と、桜井警部補は、まだ容疑者と決まったわけでもないのに、あえてそういう言い方をした。
これが、
「桜井警部補のくせ」
ということで、気になるところは、まるで、
「その通りだ」
と言わんばかりにいうところが、ツーカーの仲であれば、
「言わずともわかる仲」
ということになるのだろう。
「ところで、あとの二人というのは?」
ということで、
「あとの二人は、実は主婦なんですよ。どうやら、元々は、独身女性をターゲットにしていたはずの被害者が、気づかないまま主婦に手を出したということで、味を占めたのではないか? ということでした」
「それは誰が言っていたんだね?」
「二人目に手を出した。つまり今回の3人の中で一番最後に関係を持った女性からの話です」
「じゃあ、その女は、被害者が他にも女がいることを分かっていたということになるのかな?」
「ええ、その通りです。しかもびっくりしたことに、そのことは、被害者本人がその女に話したということです」
「どういうことだい?」
「これは私の勝手な憶測なんですが、被害者が一番好きで、信頼していたのが彼女だったということだと思うんですよ。そして、この女であれば、秘密は守るとでも思ったんでしょうね。もしそうじゃなければ、とっくの昔に修羅場になっていたでしょうからね」
「でも、結局は被害者が殺されることになった」
「確かにそうですが、逆に、この事件が、男女の恋愛のもつれからの犯罪だと決まったわけではないですよね」
「ああ、そういうことだ。だから、私は、人間関係を重点的にと言ったんだ」
と桜井警部補は言ったが、確かに、彼は、
「男女関係」
という言い方ではなく、
「人間関係に絞って」
という言い方をしたのだった。
なるほど、
「桜井警部補の言い方は曖昧だが、的を得ている」
と言えた。
捜査員全員が分かっているかどうかは疑問であるが、少なくとも半分が分かっていれば御の字である。
そもそも、桜井警部補は、
「第一線の神様」
と言われるくらいの捜査員としては素晴らしい実績があった。
だから、
「警部補として、捜査副本部長として、捜査本部に詰める」
ということになった時、
「桜井警部補は、現場がいいのでは?」
という意見が出たのも事実であったが、そのかわり、
「部下は育ててきたつもりだ」
ということで、
「副本部長の地位」
というものを、いつも持っているのであった。
そして、
「その優秀な部下」
というのが、
「自分の後継者」
として頼もしく思っている、
「樋口刑事だ」
ということであった。
樋口刑事とすれば、
「まだまだ桜井警部補の足元にも及ばないが、こおれから先を見るということで、自分に白羽の矢が当たったのはうれしい限りだ」
と思っていた。
年齢的には、
「まだまだ現場で、勉強することも多い」
と思いながら、これまで自分が、
「桜井警部補の背中を見てきた」
ということで、
「今度は自分の背中を見てくれる後輩が現れれば」
と思っていたが、まだ、そこまでの刑事はなかなかいないと思えるのだった。
樋口刑事は、どうしても、
「被害者の女関係」
というものに注目していたが、もう一人、秋元刑事は、逆に、
「女関係以外にあるのでは?」
と考えていた。
だから、被害者の身元を探ってみると、家族は両親と弟がいるだけで、今は、両親とは別居していて、田舎で両親は、商売をしているようで、それを弟が手伝っているということだった。
「長男なんだから、跡取りなんじゃないのか?」
と感じた。
実際に、教師として頑張ってきたものが、今の時代の、
「ブラックな体制」
というものに、逆らえず、
「結局学校をやめた」
というそのタイミングで、
「家に帰る」
ということもできたはずだ。
ただ、これは弟の話の中で出てきたのは、
「今更兄貴に帰ってこられても」
ということであった。
最初こそ、