時間差の悲劇
ということを言い出すのだ。
「お付き合いしていく自信がないって、まだ付き合ってもいないじゃないか。それに、君だって。俺のことが好きなんじゃないのかい? 俺はその気持ちに打たれて、自分の気持ちに気づいたんじゃないか。人を引き付けておいて、それで逃げるなんて、そりゃあ、ないよ」
というと、彼女は泣きだしそうになって、こちらの胸に飛び込んでくる。
そんな姿勢が、それこそ、離れられない気分にさせられるというもので、そんなことを考えていると、
「これって、彼女の計略ではないか?」
とまで感じさせた。
「要するに、さらに自分のことを好きにさせるために、あざとい芝居をしているのではないか?」
ということであるが、
「確かに俺は、香織のことを好きになりかかっている。しかし、こんなあざといことをしなくても、俺は性格的に、一度気になり始めたら、自分の方から嫌いになったことはなかった」
ということであったが、彼女にそんなことまでわかるわけもない。
そうなると、
「これが、彼女の常套手段」
ということで、
「彼女とすれば、一度好きになれば、離したくないという思いからのことではないか?」
ということを考えれば、
「二人は相性が合うかどうかは分からないが、性格は似ているかも知れない」
と感じた。
つまりは、
「お互いに分かり合える」
ということになるだろう。
と思えば、余計に。
「彼女を離したくない」
と思ったのだ。
最初に言い寄ってきたのは彼女だというプライドもある。余計に自分がどんどん、彼女のことを忘れられなくなっていくのが分かるのだ。
その時までは感じなかったが、
「人を好きになるというのは、
「忘れられなくなっていく」
ということなのではないかだろうか?
離れたくないという思いが段階を踏んで、
「忘れたくない」
と感じるのだとすれば、
「最初の頃のこともすべて思い出」
ということになり、
「それを忘れたくないと思うのか、思わないのか?」
ということが、自分の正直な気持ちを教えてくれることになるのだろう。
だから、二宮は、すでにその時から、
「彼女と別れるなんて、考えられない」
と、彼女には、
「まだ付き合ってもいないじゃないか」
といったくせに、自分の中では、
「別れる」
というワードを頭に描いているというところが、
「自分でも精神的に戸惑っている証拠ではないか?」
と感じたのだ。
だから、その頃は、仕事が終わってから、毎日のように逢っていた。
そして、彼女は、数日もすると、
「付き合っていく自信がない」
などと言っていたことが、まるで夢だったかのように、すっかり
「積極的な女性」
に戻っていて、事務所では、いつも笑いを振りまくような女の子だった。
彼女は、
「会社にいる時と、二宮と一緒にいる時とでは、違った顔を見せる」
会社では、同じ職場の人には、
「頼りになるお姉さん」
とばかりに社員と接していた。
実際に、会社に入ってから、その時で、すでに5年が過ぎていたので、年齢的にはまだ若い女の子であったが、事務所の中では、すでに、ベテランといってもいいくらいになっていた。
彼女の事務所は、地元企業の一営業所ということで、営業所の人数としても、10人ちょっとくらいで、営業社員は、いつも、昼間は出払っているので、事務所はいつも、数人がいるだけだった。
その中でも、彼女は、
「経理もこなせば、庶務もこなす」
ということで、彼女の下に、数人の後輩がいるようだが、少し幼く見えることから、
「どっちが先輩か分からない」
といってもいいだろう。
少し小柄で、
「どちらかというとポッチャリ系なところがあるので、見た目は、きれいというよりも、かわいい」
という感じであった。
何を隠そう、二宮は、
「小柄でポッチャリ系のかわいい子が好きだったので、理想とぴったり嵌った」
というわけだ。
ただ、二宮の好きなタイプに変わりはないが、
「どういう女の子が好みなのか?」
ということを言われると、
「子供の頃に初めて好きになった女の子のイメージ」
ということであった。
それは、まるで、
「生まれてから最初に見たものを、親と思う」
といわれる、
「ツバメの子」
のようではないか。
だから、それを考えると、
「俺が好きになる女性のタイプは、きっと、死ぬまで変わらないんだろうな」
と感じるようになったのは、その頃だった。
大学時代など、
「好きになった女の子は何人かいたが、付き合うことはなかった」
ということであり、
「自分が好きになった女の子に告白できる勇気があるわけではなく。逆に、好きになられるのは、理想と違う女性ばかりだった」
ということで、言い寄ってきた女の子と付き合ってみたが、すぐに別れる結果になった。
それも、自分からふるわけではなく、無効から、絶縁状を突き付けてくるのだ。
「俺が何をしたんだ?」
と別に嫌がることをしたわけではない。
しかし考えてみれば、相手は好きでもないという子なのだ。
自分でも知らない間に、相手を不快にさせていたのかも知れない。
それを思えば、
「絶縁状」
というのも仕方がない。
相手は、その理由を、こちらが、
「話してくれ」
というのに話そうとしなかった。
後から思えば、
「話してくれなかったのは、俺のことを思ってくれているからではないか?」
と感じた。
一応、見た目は、
「理由もなく、絶縁状をたたきつける」
というような行為をするのだから、その理由を話して、こちらを傷つけないようにしようと思ったからではないだろうか。
もし、そうであれば、そのことに気づかなかった自分も、悪かったといえるのではないだろうか?
確かに、大学時代に数人の女の子と付き合ったが、別れる時のパターンは、毎回同じだった。
それは、
「その理由について自分で理解しようとせず、同じことを繰り返しているからではないか?」
と考えるが、まさにそうだといえるだろう。
ただ、就職してからは、
「彼女などほしいと思わずに、まずは、自分の会社員としての足固めをしないと」
と思っていた。
もっとも、
「足固めもしないうちから、彼女を作ってしまうと、彼女との交際がぎくしゃくしてくると、学生時代のようにはいかない」
と考えたのだ。
だから、香織に対しても、最初は、
「引いた」
という気持ちになったのだ。
しかし、一緒にいることが多くなると、
「彼女が、自分の理想にそぐわない女ではない」
ということに気づき、さらに、積極的な態度に、
「心を奪われた」
といってもいいだろう。
二人の交際というのは、順調に続いていた。
ただ、彼女というのは、母子家庭だったということもあり、母一人子一人で、母親の希望として、
「早めに結婚させたい」
という気持ちと、娘の方も、
「早く結婚して、母親を安心させたい」
という思いがあったのだ。
しかも、彼女が、二宮を気に入った理由が、
「老けているところ」
ということであった。
実際に、顔の雰囲気も、よく。
「落ち着いている」
と言われていたが、それが、