反社会的犯罪
「いやいや、だからこそ、気になるのさ。君はその男性のことを、違った目で見るところがあるから、信憑性がないとでも思っているのかい? だけどな、そういう人間の方が得てして、その人の本性を掴んでいることがある。人によっては、自分が気を許した人物にしか、本性を表さないという人がいるものさ」
と樋口刑事はそういった。
「なるほど、そうかも知れませんね」
といって、同僚刑事は感心したが、そもそも、このような性格の持ち主こそが、
「樋口刑事その人だ」
といってもいいだろう。
同僚もそのことが分かっているので、逆らうこともなく、納得した。
樋口刑事もそのことが分かっているので、にっこりと笑って、納得してくれたことを、素直に喜んだのであった。
問題としては、久保のことを、
「一人だけ別に見ていた」
という、樋口刑事とすれば、
「久保が一番気を寄せていた」
と思っているその人は名前を、
「伊東重孝」
と言った。
「どうやら、これから、また久保という男の性格であったり、人となりを調べることがあれば、今度は、伊東の意見が核心をついていると思うようにする方がいいかも知れないな」
と同僚も感じたのだった。
捜査としては、
「何といっても、大きな問題は、婦女暴行殺人事件」
ということであった、
「二つ目の事件」
ということで、K警察署の方でも、刑事が派遣されてきて、今回の暴行殺人事件の現場ということになった、F警察署内に、
「連続婦女暴行殺人事件」
という捜査本部が設けられた。
「いまさら」
というのが、市民の感想なのかも知れないが、これでやっと、
「二つ目の事件にも、警察が本腰を入れてくれる」
ということで、市民も安堵というところであろう。
何といっても、
「記憶を失うまでの暴行を受けているにも関わらず、警察の捜査が本腰を入れていないように見える」
ということから、市民としては、特に、年頃の娘さんを抱えている家庭では、
「警察は当てにならない」
ということで、自分たちで、町内の見回り隊を組織しているところもあった。
実際に、見回り隊が警備についている時、
「警察のパトロールに出会うことはまれだ」
というくらいに、
「まったく何も捜査をしていない」
といってもいいくらいだった。
それを考えると、
「あの事件は何だったんだ? あれでは被害者がかわいそうで、まったく念の教訓にもなっていないではないか」
ということであった。
確かに、最初は婦女暴行が起こってから数日間くらいは、
「警備を強化します」
といっていた警察の言葉通りに、警備のおまわりさんは、確かに増えているようだった。
しかし、数日もすれば、どんどん人が減って行く。
もっといえば、
「普段であれば分からないが、実際に、警察が当てにならないと思って見ていると、その傾向が顕著にみられる」
ということで、
「警察なんか当てにならない」
ということを、何ととなく証明されたように思えてならないのだった。
合同捜査本部ができた
「F警察署」
の本部長は、
「門倉警部」
副本部長には、
「桜井警部補」
そして現場の責任者ということで、
「樋口刑事」
が任命された。
そして、K警察署の方から、派遣されてやってきた刑事の中にいるのが、
「秋元刑事」
だったのだ。
秋元刑事も、以前から、
「迷宮入りしそうな事件の解決を、いくつもこなしてきた名刑事」
という誉れの高い刑事で、樋口刑事とは、以前から、
「一度組んでみたい」
という意識を持っていたのだった。
秋元刑事は、樋口刑事に比べれば、まだまだ若く、年齢は、30ちょっとくらいではないだろうか?
「K警察署のホープ」
と言われてから、そんなに久しくはないので、
「まだまだ新人」
と言われているのだった。
確かに新人として、まだまだのところはあるが、
「同僚からも、上司からも、一目置かれている」
ということに間違いはなく、その理由として、
「秋元刑事は、勘で捜査する人だ」
ということで、本来であれば、
「嫌われる」
といってもいいのだろうが、
「秋元刑事はあれでいいんだ」
と言われるようになっていて、K警察としての、
「名物刑事」
ということになっているようだった。
もちろん、他の警察では、そんなことが耳に入ってくることもなく、K警察署内でも、
「内部的なことにしておこう」
ということだった。
何といっても、
「県警に知られれば、上司のいうことを聴かない刑事というレッテルを貼られて、せっかくの彼の力を無駄にしてしまうのは、もったいない」
ということであった。
だからこそ、今回の事件で、秋元刑事が呼ばれたのだ。
それを呼んだのは、
「桜井警部補」
彼は、警部補という立場から、他の警察署のウワサをよく聞くことに尽力しているようで、
「あわやくば、優秀な刑事がいれば、うちの刑事課に引っ張りたい」
と思っていたのだ。
ただ、それは、上司である、
「門倉警部の時代から行われていたことで、それを忠実に守るだけの度量が、桜井警部補にはあった。
樋口刑事といい、F警察署には、
「かなり優秀な警察官が揃っている」
ということであろう。
それに比べると、K警察署の刑事課では、
「数ランク落ちる」
と言われるくらいの警察署で、しかも、そのK警察署が、
「警察署のちょうど平均的なところだ」
ということから、
「どれだけ、F警察署が優秀なのか?」
ということと、
「どれだけ、警察組織のレベルが低いのか?」
ということとが言われてもしょうがないのだろうが、さらにひどいことに、
「どちらかが言われるのであれば、それはそれでしょうがないのだろうが、どっちも言われている」
というのは、
「これほど警察というものがお粗末なところだ」
ということになるのであろう。
これが、
「この国の警察組織」
ということであり、
「誰も情けないと思っていないのか?」
と思えば、庶民のみならず、警察内部の、
「心ある人」
というのは、
「本当に、警察組織をどこまで憂いているというのか?」
と思わせるのであった。
F警察署
今回の犯罪において、樋口刑事と、秋元刑事が、心の中で、
「犯人と思しき男が自殺をした」
ということに疑問を呈しているのは、前述のとおりであるが、その中でも、
「あれは、絶対に自殺ではない」
と声を大にして叫んでいるのが、秋元刑事であった。
彼を詳しくは知らないF警察署の刑事たちは、
「何をバカなことを言っているんだ」
とばかりに、一蹴した。
「どうせ、遺書がなかったということから、自殺ではないといいたいのだろうが、遺書のない自殺なんていくらでもある。特に、自分がやったことが怖くなって衝動的に自殺をしたということで、納得がいくじゃないか?」
と思っていた。
しかし、実はこの、
「他殺説」
というものには、樋口刑事も賛成だった。
だから、彼が同じF警察の捜査員が、秋元刑事を罵っているのを聞くと、耳が痛い気がしたのだ。
だから、言い返すのだが、彼にとって気になったのが、