反社会的犯罪
「いやいや、連続ということであれば、これは、ストーカーではなく、通り魔事件だ」
ということであった。
そもそも、
「通り魔であろうが、ストーカーであろうが、あまり変わりはないのではないか?」
という人もいるかも知れないが、そんなことはない。
なぜなら、通り魔の場合は、
「まったく関係のない人を襲うというのは、恨みなどではなく、衝動的な犯罪であり」
どちらかというと、
「異常性癖」
であったり、
「耽美主義的」
といえるような、
「精神異常者」
が多いといってもいい。
しかし、これが、ストーカーということであれば、
「誰か一人に対して執着するのがストカー気質」
ということなので、
「むやみやたらに、いろいろな人を襲ったりはしない」
ということになる。
しかし、
「通り魔に思わせたい」
ということから、カムフラージュのために、まったく無関係の人を襲うこともあるだろう。
もっといえば、
「まったく無関係の人を襲うことで、動機という意味で、犯人特定を難しくさせる」
という考えであれば、分からないこともない。
とかく、
「犯罪者というものは、まれにであるが、天才的な発想の持ち主もいる」
ということから、
「プロファイルなどの心理捜査」
というものが、うまくいかないということも当然にしてあることだろう。
もっとも、
「そんな犯人が、頭がいいのであれば、犯罪など起こさなくて済む方法くらい、思いつくのではないか?」
と思うのは、正義感であったり、理屈だけで物事を図ろうとすることの影響なのかも知れない。
そんなことを考えていると、
「犯罪事件というものは、どこまで深い沼のようなものなのだろうか?」
と考えさせられるのであった。
そんな中において。実際に起こった事件というものが、
「ストーカー殺人なのか?」
あるいは、
「通り魔事件なのか?」
と、
「二つに一つでは?」
と考えさせられる事件が起こった。
なぜそう警察が考えたのかというと、一つは、
「最近、このあたりで、連続暴行が流行り始めた」
ということと、もう一つは、
「その近くで、同じ日に、ビルから一人の男が飛び降りた」
という事実があったからだった。
疑惑の自殺
「ここ最近、婦女暴行事件が多いよな」
ということで、実は、ここ半年くらいの間に、その日が三件目の婦女暴行事件であった。
前の二つは、一件目こそ、かすり傷で済んだが、二件目は、かなりの重傷で、四カ月も経っているのに、
「まだ被害者は入院を余儀なくされている」
ということである。
しかも、その被害者は、記憶を失っていて、自分が暴行を受けたということは分かっているのだが、それ以前の記憶が消えてしまっているという。
さらに、気の毒なことに、彼女には、
「まもなく結婚しようということを考えている彼氏がいた」
ということで、いまだにその彼氏のことを思い出せないという。
彼氏も両親も、健気に彼女のことを必死にサポートしていて、彼とすれば、思い出してくれない彼女のために必死になっている姿が、涙を誘い、それこそ、雑誌などで取材を受けたのか、彼は、
「彼女がかわいそうだ」
といって、雑誌に大々的に載っていた。
それが、
「お涙頂戴」
ということで、その不満の矛先は、
「当然のことながら、警察に向けられる」
ということだ。
「数か月前にも同じ婦女暴行事件があったにも関わらず、何という失態だ」
ということである。
もちろん、雑誌取材も、そんな、
「世間の声に押される」
という形で、行われたものであろう。
当然、警察への風当たりは強く、警備も今までに比べれば厳重にしていたのだろうが、三件目になって、今度は、
「殺人事件」
にまで発展したのだ。
「今度は、警察の面目に掛けて犯人を捕まえないと」
ということで、翌日から、躍起になって、犯人の足取りを追い。さらには、
「聞き込みであったり」
さらには、
「被害者の人間関係も洗われた」
というのは、
「元々、通り魔事件」
であるか、
「ストーカー事件だろう」
ということで、勝手に思い込んでの捜査であったが、
「それの埒が明かない」
ということであるだけに、今度は、
「怨恨」
であったり、
「普通の恨み」
ということから、
「犯人が、被害者に狙いを定めたのは、ただの偶然ではない」
ということから、
「被害者の人間関係」
などを最初から、調べなおすことになったのだ。
それこそ、
「本来であれば、そっちが最初ではないか?」
と、世間ではいうようになった。
「世間の声に押されて」
ということでの、
「お粗末にも、後手後手の捜査」
ということになった。
しかし、
「背に腹は代えられない」
「警察のプライド」
ということばかりをいってはいられない。
というのも、
「実際に捜査をすると、今まで見えてこなかったことが見えてくる」
ということであった。
何といっても、
「地域性」
ということばかりに気を取られていて、お互いに情報が錯綜していたということもある、
一つには、
「最初の二件は、管轄違いだった」
ということもあり、本当であれば、
「合同捜査本部」
というのを作っての捜査をしなければいけないものを、
「片方は、かすり傷」
ということで、
「婦女暴行事件」
としては、
「捜査本部はいらない」
とばかりに、二件目の重大事件に対して、最初の所轄は、
「協力的ではなかった」
ということであった。
それどころか、
「捜査もほとんどしない」
ばかりか、
「街の安全を図るためのパトロール強化」
というのもしていなかったくらいである、
こうなってしまうと、もはや、
「連続婦女暴行事件」
というわけではなく、二件目の捜査においても、次第に、警察側も、
「トーンダウンしてしまう」
というありさまだった。
だから、
「週刊誌に載ってから騒がれるようになった」
ということで、一件目の所轄も、
「うかつなことはできない」
ということで、それぞれ、捜査が開始された。
しかし、何といっても、数か月が経っていて、最初の事件からは、すでに半年も経っているということではないか、そうなると、捜査も進まないのは当たり前で、
「逆に、ときばかりがいたずらに過ぎていく」
ということであった。
しかも、悪いことに、今度は三件目が起きてしまい、今度は、ついに、
「死亡事件に発展してしまった」
さらに、その管轄が、
「一件目の事件の管轄で起こった事件」
ということで、警察に対しての市民の不満は、爆発寸前であった。
しかも、今度の事件は、
「全国のニュースでも報じられ、さらに、半年前の事件、その後の事件と、連続であるにも関わらず、警察が、ほとんど何もしていなかったかの如くに、報じられた」
ということだったのだ。
今回の事件で死人が出たというのは、実にショックなことであったが、問題は、
「飛び降り自殺をした」
というのが、その事件の犯人だったのかどうか?」
ということであった。