交換による解決
「被害者に報いるため」
などと言いながら、
「自分たちが見殺しにした」
という意識がないに違いない。
「ああ、だから、感覚がマヒしているわけだ」
ということで、その心境は、すべて、
「負のスパイラル」
というものを描いているといっても過言ではないだろう。
それを考えると、
「警察も国会議員も、同じ穴のムジナだ」
といえるだろう。
奥寺議員が、いなくなったのは、選挙活動が終わり、実際の投票で、今回も何とか、
「滑り込み」
という状態での当選だったので、かなり肝を冷やしたのは事実だった。
しかし、それだけに後援会も、支援者も、当選した喜びはひとしおであり、祝勝会では、支援者皆が、涙を流しながら、代わる代わる、議員に握手を求めてくるのであった。
「ホッとした心境」
と、
「疲れがどっときてしなった」
ということで、祝勝会では、ほとんど皆疲れ切ってしまっていた。
次の日は、一日、休息を取り、その次の日から、継続議員としての毎日がまた始まるということだったのだが、翌日のうちに、奥寺議員は、失踪してしまったのだ。
机の上には、
「しばらく旅に出ます」
ということを書いた手紙が置かれていて、書斎の扉にカギがかかっていない状態だった。
「午前中はさすがに熟睡しているだろう」
ということで、奥さんも気にはしていなかったが、
「午後になっても出てこないというのは少しおかしい」
と感じたことで、部屋をノックするが、返事がない。
「まさか、カギがかかっていないなんて」
ということで、万に一つの思いを元に、部屋の扉を開けてみると、
「開いている」
ということで、中に入ると、電気はついていたという。
机の上に置かれている手紙にすぐに気づいたのは、
「さすが、奥さん」
というべきか、旦那の行動パターンを熟知しているからということであろう。
「政治家の妻」
ともなると、
「それくらいのことに気が付かないとやっていられない」
というもので、そこからは、
「ハチの巣をつついたような騒動になった」
というのは、想像がつくことであった、
何といっても、
「政治家の失踪」
である。
しかも、選挙が行われ、ギリギリとはいえ、当選したその翌日に、手紙だけを残しての失踪。普通では考えられない。
当選したのだから、さらに翌日からは、
「また忙しい毎日が待っている」
ということなので、
「まさか、悠々自適な旅行に出かけた」
などということはありえない。
「今回は落選するかも?」
と思っていたがm実際には当選したので、
「本人の中で、精神的にいっぱいいっぱいだったというようなことはないか?」
と警察に聴かれた。
「私が知る限りでは、そんな様子はありませんでした」
という。
他の人に聞いてみると、
「奥さんがそういうのであれば、間違いないと思います。我々も先生の様子に、おかしなところはなかったと思いますし、たぶん、他のスタッフに聴かれても、同じ返答しかできないということだと思っています」
ということであった。
それを聞いた刑事は、さっそく他の人にも聞いたが、
「側近の言う通り」
であった。
つまり、
「聞き込みにおいて、まったく変わったところはない」
ということであろう。
実際に、聞き取りを行った刑事は、
「奥寺議員」
というのをよく知らないということであった。
そもそも、
「政治家なんて」
と思っていた刑事で、実際には、
「警察組織に対しても、不満を感じていた人だった」
だから、どこか、自分のやっている捜査に、疑念があったのも事実で、何よりも、
「議員先生だから、捜索をする」
というのは、他の捜索願を出している一般市民を差し置いて行うということに、苛立ちすら覚えていたのだ。
もっとも、これは、その時の現場責任の刑事だけでなく、捜査員ほとんどが感じていたことではないだろうか。
「それでも、捜査しなければいけないというのは、本当に、国家権力というものに、操られている」
ということになるんだろうと考えるのであった。
ただ、
「国会議員の失踪」
ということであれば、世間を騒がせることになるから、
「あくまでも、極秘捜査で行い、このことを口外してはいけない」
ということになった。
つまり、
「上からの圧力」
ということで、かん口令であったり、極秘捜査などを指示してくるのは、明らかに、
「政府の圧力」
ということであろう。
それに対しても、警察は、何もできない。
「警察は、国家の犬なのか?」
と言いたい。
「警察は、市民の安全を守るのが仕事ではないか?」
と自分に言い聞かせていたが、
「では、普段から、そんな気持ちで仕事をしているというのか?」
と、さらなる疑問を呈するわけだが、そう考えると、
「結局、警察は、やっぱり、国家権力には逆らえない」
ということであり、
「権力の階段」
というものの中で
「警察は、中間くらいではないか?」
と思うと、
「強者には弱いが、弱者には徹底的に強い立場を示す」
ということで、
「まるで、弱い犬ほどよく吠える」
という言葉を思い出し、
「自分たちの立場が本当に情けないところにある」
ということを感じさせるのであった。
それを思えば、
「今回の失踪事件、あまり乗り気にならないな」
と感じるのであった。
しかも、どうやら、
「どこかの権力が、警察に対して、別の圧力をかけている」
ということのようで、
「上からの命令に、辻褄が合っていないところが多くみられる」
ということであった。
そもそも、
「失踪者を探すのに、極秘で」
などというのは、さらさら矛盾をはらんでいるというものだ。
そんなところからスタートしているので、
「途中で、命令が錯綜する」
というのも、
「無理もないことだ」
といえるだろう。
そんな、
「紆余曲折した」
「歪んだ捜査」
というものになったのだが、事件は、
「意外な形」
で収束したのだった。
とはいえ、
「これくらいのことは、普通の失踪事件であれば、よくあることなのだが、これが、政治家の失踪ということで、それでは済まないのだった。
「意外という意味でいけば、結果がどうなったとしても、すべてが意外だ」
と言われることになるだろう、
失踪を隠蔽しようと政府では躍起だったが、実際には、自殺であり、遺書まで残っているということであれば、
「最初から隠蔽などしない方がよかった」
というのが結果論であった。
失踪願いの出ていた政治家は、自殺をしたのであった
ただ、この自殺では、
「遺体が上がらない」
というもので、
「どうして、奥寺議員の自殺だと分かったのか?」
というと、
「その場所に遺書が残されていた」
ということからだった。
その遺書といっても、彼の部屋の置手紙のようなもので、本当に簡潔な文章であった。
内容は、
「先立つ不孝をお許しください」
という言葉を、もう少し柔らかくした程度のもので、
「家族や側近一人一人に対しての言葉は一切なく、完全な定型文ではないか」
というものであった。