真実と事実のパラレル
奥さんが、病院に入院している時、警察としても、当然のごとく、
「裏付け捜査」
を行っていた。
「二人の夫婦関係」
であったり、会社や、近所による聞き込みなどは、もちろん行われていたのだ。
ほとんどの人の話としては、
「あの夫婦は、それぞれで好きなことをやっているみたいだったので、他の人が入りこめないんですよね」
という。
つまり、
「相手からきてくれる分には、いいんだけど、相手があそこまで動かないのであれば、どうしようもないということですよ」
ということであった。
「じゃあ、二人から歩み寄るということはなかったんですね?」
と聞くと、
「ええ、私にはなかったわね」
というのだった。
「あの夫婦で、他に、おかしいと思うようなことはありませんでしたか?」
と聞くと、
「そうですね、表から知らない人が見れば、仲のいい夫婦と思えるんでしょうが、少しでも知っている人は、猫をかぶっているとしか思えないでしょうね」
という。
「ということは、見た目、ウソをつけないということでしょうか?」
と秋元刑事が聞くと、
「いいえ、ウソをつくのが下手と言った方がいいでしょうね」
という答えが返ってきたのだった。
秋元刑事は、そんな話を聞いていると、
「これは、不倫が絡んでいるな」
ということはすぐに分かった。
そして、その線で探してみると、
「旦那には、数人の不倫相手がいる」
ということが分かり、
「それも今始まったことではなく、以前からあったことであり、しかも、一時に数人の女性と付き合っている」
ということもあったのではないかということが分かってきたのだ。
「呆れたやつだ」
と、他の刑事は、そう思っただけだが、秋元刑事は、
「そこまでしないといけないほど、旦那は、何かに追い詰められていたのではないだろうか?」
という風に感じていた。
これは、他の捜査員とは、まったく正反対の考え方で、実際に、
「反対から見ている」
という感覚で、
「すべてを反対に見る」
ということを考えてみると、
「0点だって、満点になるんだ」
ということで、自分なりに納得できると感じたのだ。
秋元刑事は、
「自分のスピリチュアルな部分」
というのが、少し分かってきたような気がしてきた。
秋元刑事は、これまでの事件において、
「予感というものがあり、それが閃きということで、捜査に貢献できる」
と考えていた。
他の警察署であれば、
「そんなもの、信じられるか」
と言われるだろうが、実際に今まで何度も、
「事件が解決してみれば、秋元刑事の言った通りだった」
ということであれば、
「さすがに無視もできない」
というものであった。
だから、捜査本部では、事実の発表が行われた後に、捜査方針を決める時、一番最初に、
「君はどう思うかい?」
ということで、秋元刑事に訊ねるのであった。
秋元刑事の意見は、
「勘というものではない」
ということであった。
彼の意見は、あくまでも、
「理論に基づいたもの」
で、秋元刑事本人は、
「他の人に見え倍ものが、俺には見えるというだけのことなんですよ」
といっているのだった。
もちろん、それだけを鵜呑みにするわけではないが、推理の段階になった時、
「秋元刑事のいう結論を最終結論ということで考えた時、そのプロセスが次第に見えてくる」
ということであった。
これは、
「原因と結果がハッキリしていて、あとのプロセスは、無限の可能性の中から選ばれるだけだ」
という、殺された村上と
「奇しくも同じ考えだ」
ということになるのであった。
もちろん、秋元刑事も。
「そんなことは知らない」
ということであったが、何か引っかかると思ったのは、
「考え方が同じだ」
ということを、
「奥さんの戯言」
というものから、分かってきたということの裏返しではないかといえるのではないだろうか?
実際には、そこまでは分からないが、
「ほんの少し、どこを掘れば、向こうに貫通するか?」
という洞窟の採掘をしているかのようで、
「その開いた穴の向こうにあるものが、本当は、死後の世界なのではないか?」
と、秋元刑事は感じていたのだ。
そういう意味で、
「夫は死なない」
といって奥さんの気持ちが、少しだけであるが分かってきたという気がしたのだ。
「奥さんは、きっと分かっていないんだろうな」
と思った。
そこまで考えると、
「奥さんは、自分が旦那を殺したという事実に関しては認識があるのに、旦那が死んだということを理解していないのではないか?」
と感じたのだ。
だから、
「夫は死なない」
という言い方になっているのであって、しかもそれは、
「殺そうとしても死なない」
ということを表しているのではないのではないか?
と考えてしまうのだった。
そうなると、秋元刑事も、
「本当は、旦那がまだ死んでいないのではないか?」
とも思えてきた。
実際に、死体が見つかっていて、奥さんが殺したということも告白しているわけであり、
「死んだことに間違いない」
ということで、殺人事件ということでの、
「司法解剖」
も行われ、荼毘に付されたということなので、
「この世にいない」
ということは確定しているのであった。
だが、
「どうしても、生きているような気がして仕方がない」
という、秋元刑事の、
「スピリチュアルな部分」
というものが、彼をくすぐるのであった。
ただ、おかしな感覚はあった。
というのは、被害者である村上が、
「死にたい」
と思っているのではないか?
ということであった。
それは、
「自殺をしたい」
という感情であり、考え方によれば、
「殺されてしまったことで、さまよっている魂が、成仏したい」
という発想に近いのではないかとも考えられたが、それよりも、
「実際に、死んでしまうと楽になれる」
という発想であり、
「まさに、自殺者の心境と同じではないか?」
ということになるのだ。
それを考えていると、
「もう一人どこかに自分がいて、自殺を考えようとしている」
と思えば、
「その人物は、もう一人の自分の存在までは分かっているのだが、実際に死んだということまで分かっているのだろうか?」
と考える。
「もし、死んだということを意識していたとしても、殺されたという認識でいられるかどうか?」
ということを考えると、
「死んだことだけは分かっているかも知れないな」
と感じるのだった。
ただ、面白いもので、
「自殺をしたい」
と思っている、自分は生きていて、
「死について何も考えていなかった」
というはずの、
「もう一人の自分」
というのが、殺されたということになるのだ。
それをいかに解釈すればいいかということである。
「俺は、このまま死にたくない」
と考えたとすれば、
「奥さんに殺される前」
ということで、その時、殺された村上氏は、
「本当はこのまま死ぬことを予知していたのかも知れない」
と感じた。
というのは、彼が、
「ドッペルゲンガー」
というものの存在を分かっていて、その
「もう一人の自分」
作品名:真実と事実のパラレル 作家名:森本晃次