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相性の二重人格

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 そもそも、工業大学に入ったのも、
「理数系が強い」
 と高校時代にいわれていたからで、文系は苦手だったことから、必然的に、理数系の大学に入ったのだ。
 だからと言って、
「モノを作る」
 ということが楽しいと感じたことはあまりなかった。
 もっとも、
「四年間もやっていれば、何度かは、出来上がったものを見て、満足感に浸っていたが、それも、持続性のある感情ではなかった」
 といっていいだろう。
 だから、就活の時も、最初は、
「会社の研究室志望」
 ということにしていたが、実際には、
「営業職でもいいか」
 というくらいの中途半端さがあったのだ。
 そして、内定をもらった会社に入り、内定をもらった後の入社前に行われた、
「適性テスト」
 と、内定者全員が受けたのだが、それを元に、
「最初の所属部署を決める」
 ということだったのだ。
 実際に配属されたのが、営業部だった。
 最初に研修に入る前に、直属の上司に、
「理数系の私なんですが、営業でいいんですかね?」
 と聞いてみた。
 元々、
「営業でもいい」
 と思っていたので、違和感がないという気持ちから、自分とすれば、
「気軽に聞けた」
 と思っていた。
 だから、上司とすれば、
「ああ、適性検査でも、君は営業向きだということになったんだよ、それに私が見る限り、営業向けの感じはするぞ」
 というではないか。
 まだ入社して研修期間で、実際には、仕事に関してのことは一切行っていないのにである。
「どうして、そう感じられたんですか?」
 と聞いてみると、
「ああ、最初に感じたのは、君の笑顔かな? 屈託がないという雰囲気もあるが、それ以外にもピンとくるものがあってね」
 というのだ。
「それは、どういう?」
 と聞いてみると、上司は笑顔を見せて、
「それはね。君の笑顔に余裕を感じたからさ」
 というのだった。
 その時に、上司が自分に見せてくれた笑顔にこそ、
「この人は、さすが上司としての貫禄がある」
 と思っていたが、その貫禄がどこから来るのか分からなかった。
 しかし、その時の上司の言葉にあった、
「余裕のある」
 という言葉を聞いて、
「目からうろこが落ちた」
 という気分だったのだ。
「そうだ。この上司の笑顔には余裕があるんだ。だから、それを相手が上司だという目で見るから、貫禄に見えるんだ」
 と感じたのだ。
 その時、
「最初に感じたことを、相手の言葉が補うことで、頭の中でうまくかみ合えば、分かり合えるものだ」
 と感じた。
 そして、それこそが、
「営業の極意」
 というものだということを、後になって知るのだが、そのきっかけがこの時だったということを、その時はまだ知る由もなかったのだ。
 何といっても、まだ新人、
「これから研修期間」
 ということで、まだまだ、上司からみれば、
「海の者とも山の者とも分からない」
 ということであろう。
 しかし、それを、いずれは、
「海千山千に育て上げる」
 ということを、その時の上司はもくろんでいるということを何となくではあったが、分かった気がした。
 ただ、その頃の自分たち、まだ、右も左も分からない状態で、
「上に立つ」
 という感覚が分かるわけもない。
 まずは、新人としてしっかり研修し、
「現場の第一人者」
 として君臨できるようになるのを目指すだけであった。
 そんな新人時代であったが、研修をしている時に言われた言葉が、一つ、耳に残っていることがあった。
 それは、
「今はまだ、なかなか経験もないので、何か一つ契約が取れると、たぶん、それが自信になっていくだろう。だが、その実績というのは、これからのための実績であって、自信を持つまでには、少し薄いということを、いずれ知ることになると思うんだ。覚えておいてほしいというのは、自信を持つのはいいか、実績の元に成り立っている自信というものでないと、本当の自信ではないということなんだ」
 ということであった。
 何となく、理屈っぽいと感じたので、必要以上に感じなかったが、それは結局、いずれ感じさせることになる。
 しかも、それを感じた時、
「以前、そのことを予見していた上司がいたな」
 ということを、思い出せるか出せないかということで、その後の人生も大いに変わるということだったのだ。
 だから、葛城は、後輩に、
「自信は持った方がいい」
 とはいうが、
「必要以上の自信を持つことはない」
 とも言っている。
 しかし、
「自信を持ってはいけない」
 と言わないのは、
「いずれ、自信を持つことで、自惚れになってしまうのだが、そのことを、自分でうぬぼれだと自覚して、その自覚に悩むことがあるかも知れないが、その時、実績が助けてくれるんだ」
 と考えることで、
「今の第一線という土台作りの時期を、無意識に大切にできることで、実績が身についている」
 ということに気づくことを分かっていた。
 そして、
「その実績が、本当の自信というものを産む」
 ということになることを、暗示しているのであった。
 そういう意味で、
「学生時代に、工業大学というところで、研究は開発に従事していた」
 ということが、そもそも、自分の実績の一つであり、そのノウハウがあるからこそ、
「営業職ができるんだ」
 と考えることで、
「今の自分があるのだ」
 と思うと、
「後輩にもそう感じてほしい」
 と今のように部下を持つと感じるようになっていた。
 しかし、
「自分が他の人と考えかたが違った特殊なものを持っているからなのか」
 それとも、
「時代が自分たちと違う
 ということからなのか、
「後輩が、自分とは違う連中ばかりだ」
 と考え、嘆きに近いものを感じさせられていると思うのだった。
 そんな中で、
「やっぱり、俺は俺のやり方を貫けばそれでいいんだ」
 と思うのだった。
 後輩のことを考えるなど、おこがましい。まずは、自分の道をしっかり進むだけだと思った。
 そもそも、
「俺だって、現場の第一線では、先輩の背中を見ていただけではないか?」
 と思った。
 別に引っ張っていってくれたわけでもない、だから、恩に着る必要もなければ、自分が「先輩として、後輩に恩を着せるということをしてはいけない」
 とも感じていたのだ。
 会社の先輩としての立ち位置は、
「それくらいでいい」
 と思うようになった。
 そうでなければ、後輩に対して高圧的な態度になり、下手をすれば、
「パワハラだ」
 と言われても仕方がないだろう。
 何といっても、今の時代は、
「自分の考え」
 を少しでも後輩に押し付けてしまうと、
「パワハラだ」
 ということになり、そのつもりはなかったはずなのに、
「パワハラ上司」
 というレッテルを貼られると、実際に上司になる時、後輩が、従ってくれないということになるだろう。
 だから、
「適当にいなす」
 というのも必要であり、最初から望みのある社員であれば、分かってくれるはずで、実際に伸びてくるということは、現場の仕事を見ていれば分かるというものである。
 だから、少なくとも、
「うちの会社の社員には、余計なことはしない」
 と思っていた。
作品名:相性の二重人格 作家名:森本晃次