真実と事実の絡み
ということを言わなければならず、検証もしていないのだから、それが分かるはずもないので、ただ手柄という曖昧なことにしておいて、
「せっかくの宣伝機会を、棒に振る」
という、実に辻褄の合わないことで、不細工な状態にしてしまったのである。
そんな時代を何とか乗り越えてきて、時代が進むうちに、
「気が付いたら、クビになっていた」
という人もいた。
そんな中でも、何とか会社をもたせていて、あまり贅沢をしないようにしているという男性社長がいた。
その社長が、最近まで、ずっと独身だったのだが、急に、
「結婚する」
ということを言い出したのだった。
別に、まわりは、そのことについて何かをいう人はいなかった。ただ、その相手というのが、
「スナックの雇われママだった」
ということで、ちょっとしたよからぬウワサというものを吹聴されたという人もいたりしたが、実際には、
「この社長が、元々でかい会社の社長で、遺産相続に絡むような人であれば、それこそ、
「遺産狙い」
などということを言われるのだろうが、実際に、
「狙う遺産が溜まっている」
というような会社でもなく、どちらかというと、
「今嫁さんをもらうということは、会社に専念しないといけないところで」
という人もいなくもない。
しかし、この社長は、すでに、
「後継者を誰にするか?」
ということをある程度腹の中に決めているということなので、
「まわりから、何かを言われる」
という筋合いはないというものだ。
ただ。
「若いうちに結婚して、自分の子供を後継者に育てるということをどうしてしなかったのか?」
と言われることはあった。
「俺には、結婚したいと思う女がいないだけ」
といっていたが、その気持ちは分かる気がした。
彼は名前を貝塚洋一といい、年齢的には、
「まだ51歳」
ということで、まわりから見れば、
「まだまだこれから:
という年齢でもあった。
そもそも、この会社を今までの危機から救ってきたのは、ひとえに、
「社長のおかげ」
と言ってもいい。
もちろん、自分だけの力ではないが、補佐する人材も、
「社長のためなら」
ということで、自分が集めてきて、育ててきた人たちが、その力をいかんなく発揮したことで、今の会社がもっていると言っても過言ではないだろう。
それを考えると、
「後継者は、自分なりに育ててきた」
ということから、社長は、
「やるだけのことはやってきた」
ということで、存在感は確かにあるが、
「会長」
ということで、隠居の形を取ったとしても、ここまで持ちこたえてきた会社が、
「急に揺らぐ」
ということもないだろう。
それを考えると、
「自分が社長という立場を譲っても、揺らぎのない会社にすることが、最近のこの10年の仕事だった」
ともいえるのだった。
マヒする感覚
もちろん、
「今すぐに引退する」
などということはいわないが、少しずつ、後進に道を譲るということは考えるようにしていた。
それを誰にも邪魔させないという考えは、少々のことではゆるぎないということであった。
中には、
「いまさら結婚」
という人もいたが、それは一部の意見ということで、むしろ結婚に対して、
「暖かな目」
ということで見てくれるという人の方が多かったと言ってもいいだろう。
結婚相手のママさん」
というのは、
「一度結婚はしたが、離婚した」
ということであった。
「子供があるわけではなく、年齢は、まだ32歳」
ということであった。
「そんなに若くて、ママさんが務まるのか?」
と言われていたが、彼女は、水商売に限らず、風俗業界というのも、知らないわけではなかった。
学生時代にアルバイト感覚で、
「スナックでアルバイト」
をしたり、
「風俗で、アルバイト」
をしていた。
結構客には人気があったようで、
「その時に、いろいろな人脈を得た」
ということであった。
その話は、もちろん、旦那になるわけだということで、彼女から聞いていた。
「海千山千のスナックのママ」
ということであったが、彼女は、結構、堅気なところがあった。
急に堅物に見えるようなことを言い出したり。それが、店においての彼女の魅力であり、そんなところから、
「常連客のつながりも結構あった」
ということだ。
貝塚社長が、彼女の店に来たのは、偶然だった。
だが、一度なじんでしまうと、常連になるまでには、そんなに短い期間ではなかった。
その時は、
「彼女の魅力に惹かれた」
というよりも、
「常連の人たちの暖かさに惹かれた」
というところであった。
「会社社長をしている」
ということを別に隠すこともなかったし、実際に、
「小さい会社だけど、これでも一応社長をしています」
という人も何人かいるような店だった。
聞いてみると、
「自分の会社の下請け」
というようなところもあった。
お互いに分かってはいるが、それを店に持ち込むことはない。それが、
「客のルール」
ということで、
「店のルールでもある」
ということで、結構楽しい時間を過ごせたのだった。
地元では、少々大きな会社ということで、
「営業や接待で、スナックやクラブに行く」
というのは普通にあるわけだが、
「店の常連と楽しく飲む」
というのを考えたこともなく、ある意味、この時に、
「後進に道を譲って。こういう店に毎日のように来て、楽しくやりたい」
というのが、最初に考えたことで、その時から。
「まさか、ママさんと結婚」
などということを考えたわけではなかったのだ。
ただ、ママさんも、
「男性の扱いには慣れている」
ということだったので、ママさんの方も、貝塚社長のことを、最初こそ、
「常連にして金を使わせれば」
という、少しいやらしい気持ちがあった。
それは、
「スナックのママ」
である以上、そういう気持ちであっても、
「当たり前といえば当たり前だ」
と言ってもいいだろう。
だが、話をしているうちに、
「あんまりお金を使わせるのも悪いわ」
と思うようになったのだ。
ママは、
「金を取ってもいいところからはお金を普通に取るが、常連からは、お金をむしるよりも、良心的だと思わせて、毎回通わせ、常連にする」
というやり方を取っていた。
だから、そんな状況で、
「ママは、貝塚社長からはお金が取れない」
と思うようになった。
その時、貝塚社長の頭の中で、
「俺のこの態度が、ママの気持ちを動かした」
と思ったのだという。
それは、
「お金云々」
ということではなく、
「自分の力で、女性の心を動かした」
ということが、嬉しかったのだ。
「これが自分の力だ」
というまわりに対しての自慢に近いような感覚ではなく、どちらかというと、
「お互いに好きあえる感覚」
というものを、初めて感じたからだった。
実際に、ママの方も、
「貝塚社長に、好きな気持ちを持っていた」
と言ってもいい。
それは、
「貝塚さんが社長だ」
ということからではなく、男性として好きになったからだった。