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念には念を

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「遺体を運転席から引きずり出して、表のシートに仰向けに寝かせた時に、判明した」
 ということであった。
「おや?」
 と、死体を見ていた樋口刑事は、思わず声を挙げた。
 樋口刑事が注目したのは、被害者の口元だったからだ。
 口の端から赤いものが少し溢れているかのように見えた。目立って流れているわけではないが、最初は、
「ケチャップかな?」
 と思った。
 もし、これが、鑑識から、
「死因は絞殺だ」
 といわれなければ、完全に、
「服毒による自殺の痕だ」
 と感じたことだろう。
 しかし、
「死因は絞殺だ」
 と聞かされた後なだけに、逆に、
「服毒なんて考えられない」
 と思ったわけである。
 確かに、服毒ということであれば、吐血としては少ない気がするが、それは、
「死因が服毒」
 ということで、何ともいえない気がしたのだ。
「この痕は?」
 と鑑識に聴いてみると、
「何やら、毒物も服用しているかも知れませんね。何も毒を服用したからといって、皆が皆、テレビドラマの毒殺シーンのような形の吐血があるわけではないですからね」
 ということであった。
 確かに、毒の種類によっても、摂取量によっても違う。
 今回のように、
「死因は絞殺」
 といわれているので、本来であれば、
「服毒だけでは致死量であっても、吐血をしない毒だってある」
 といわれていたが、
「毒を飲むと、絶対に吐血する」
 というものばかりではないということになるのだろう。
 そんなことを考えていると、
「この事件、何か不思議な感じがするな」
 ということであった。
 実際に、首には、凶器が残っているわけではなかった。残っていれば、すぐに、
「絞殺だ」
 ということが分かったからだ。
 しかし、
「毒物を服用している」
 ということは見た目にも分かっていることであって、普通に考えれば、
「殺人に対して、念には念を入れた」
 といえるのではないだろうか?
 殺人の目的は、
「あくまでも、相手の絶命」
 ということで、犯人とすれば、
「罪を逃れる」
 ということよりも、
「確実に死に至らしめる」
 ということを重視したように感じた。
 ただ、これは当たり前のことだ。
 殺人の動機が、
「怨恨」
 であったり、
「金銭目的」
 のような様々考えられるが、
「確実に死んでもらわなければ困る」
 ということで、殺害に及んでいるわけなので、もし、
「殺し損ねたら?」
 ということであれば、
「もう一度、殺害計画を練り直す」
 という必要があり、犯人とすれば、
「必殺」
 でなければいけないということになるのだ。
 それは当たり前のことであり、
「一度殺そうとした相手を、殺しそこなってしまうと、警察が動くことになる」
 ということで、下手をすれば、
「殺害計画を中止しないといけない」
 ということになる。
 そうなると、
「相手が死んでくれないと、自分が生きていくことができない」
 と考えてしまい、殺害計画がとん挫した時点で、
「俺はもう終わりだ」
 ということになり、結局、
「自害することになる」
 ということで、まったく違ったシナリオになってしまう可能性があるということである。
 つまり。
「自殺をしたのは、他の場合と同じで、追い詰められた」
 ということになるのだが、その経緯が違うということで、分かりにくい場合もあると考えられるだろう。
 今回の殺人を、
「念には念を入れた」
 というのも、そのあたりを考えれば分からなくもないということで、逆に考えると、
「犯人の精神状態が、一筋縄の捜査で解明できるものなのだろうか?」
 ということも考えさせられた。
 ただ、これも考えすぎなのかも知れない。
「切羽詰まっている」
 というよりも、
「性格的に、完璧を期する」
 という人なのかも知れない。
 いや、そうとも限らないかも知れない。
「確かに、念には念を入れたということも考えられるが、逆に考えれば、殺人事件というものに、余計な感情を入れたり、必要以上のことをしたりすれば、ボロが出る可能性がないとはいえないからな」
 と、樋口刑事は言った。
「というと?」
 と。もう一人の若い刑事が聞いたので、
「殺人において、共犯者を必要とする場合というのは、共犯者が多ければ多いほど、露見する可能性が高いということになるだろう? それと同じさ」
 と言った。
 同行している若い刑事。名前を
「河合刑事」
 と言ったが、彼はまだ刑事課に赴任して3年目の若手だが、
「たまに鋭いことをいい、それが事件解決につながる」
 ということ、樋口刑事は、そんな河合刑事に敬意を表していて、少なくとも、彼の意見は、無視は絶対にしないようにしていた。
 しかし、鵜呑みにするということもなく、
「彼の話を十分に聞くには聞くが、あくまでも、自分の推理を組み立てる中での、参考にする」
 ということであった。
 樋口刑事は、自分でも、自分の推理にある程度の自信を持っていて、それが事件解決に役立つと思っていたのだ。
 だから、自分から、
「河合刑事をパートナーに」
 ということで、ここ2年はパートナーを張ってきた。
 最近では他の刑事も、河合刑事の
「隠れた素質」
 というものに気づいたようだが、樋口刑事が手放すわけはない。
 今のところ、
「K警察署刑事課での、最高のコンビ」
 といわれているのであった。
 今回の事件現場を見て、二人ともに、
「何かの違和感」
 というものを感じていた。
 その違和感が、どのようなものかということは、最初は感覚的ということなので、具体的には分からないが、二人が、
「違和感を感じる」
 と感じた時、
「事件の展開が流動的になる」
 ということがえてしてあるというもので、要するに、
「先の展開が読めない」
 という場合が多く、だからこそ、
「事件の展開によっては、急転直下で、いきなり解決してしまう」
 ということもあった。
 それは、二人の、
「ひらめき」
 というところからきているというのは、
「れっきとした見方」
 ということであり。
「もちろん、推理というものが、エビデンスに基づいた完璧に近い推理」
 ということで、その時初めて、自分たちの推理を明かすことになる。
 そうすることで、
「完璧に近いもの」
 という状況が、さらに、
「完璧に近くなる」
 ということになる。
 それを自覚している二人の刑事は、自分の中の理論として、
「世の中に完全、完璧というものはない」
 と思っている。
 だから、完全犯罪というものもないはずなので、
「事件は、必ず解決されるはず」
 と思っているわけで、それでも、解決できずに、未解決事件として残ってしまったとすれば、それは、
「警察が、真相にたどり着けなかっただけ」
 ということで、その責任は、
「捜査員にある」
 ということなのだ。
 ただ、捜査員だけの責任ではなく、
「警察組織にも、その責任の一端はある」
 ということで、警察組織というものが、
「真相解明というものの足かせになっている」
 ということは感じるが、
「だからと言って、刑事一個人に、どうすることもできない」
 といえるのではないだろうか?
作品名:念には念を 作家名:森本晃次