念には念を
とばかりに、皆が見直すということになってきた。
そのうちに、捜査会議での注目は、
「秋元刑事が何を言い出すか?」
ということに注目しているというような雰囲気が出来上がっていたりした。
これが、占いであったり、勘にだけ頼っているというものであれば、すぐに化けの皮が剥がれるというものであるが、実際には、いうことに間違いがないわけなので、本部長としても、
「まんざらでもないかも」
と考えるようになっていた。
今回の捜査本部の会議にも、この、
「秋元刑事」
も参加していて、その内容がどういうことになるのかは分からないまでも、
「何かが起こるのではないか?」
という期待はあったのである。
そして、この秋元刑事の立場は、樋口刑事と同じで、
「コンビのまとめ役」
ということで、彼にも、河合刑事と同じ立場で、
「山崎刑事」
という人がついていたのだった。
河合刑事は、山崎刑事とは同期だったので、時々一緒に飲みに行くということもあった。
その時、それぞれ、ペアとしての先輩の話をするのであるが、そこで話されることとしては、
「お互いに決して先輩の悪口を言わない」
ということであった。
これは、
「河合刑事と山崎刑事の性格」
ということでもあるが、
「決して部下に悪口を言わせない」
という威厳と、その実績が、樋口刑事にも秋元刑事にもあり、後輩刑事の口から出てくる言葉は、
「尊敬の念」
しかなかったのだ。
しかも、二人とも、
「先輩のいいところ」
というのは熟知していて、お互いに組んだことのない相手の先輩刑事に対して、後輩からの話を聞いただけで、
「どんな刑事なのか?」
ということが、一目瞭然で分かる気がして。
「これが、刑事としての貫禄や威厳なんだろうな」
とそれぞれに感じていた。
特に、秋元刑事の場合は、
「ほら吹き」
とまで言われていたくらいに、勘違いされやすい刑事であるにも関わらず、
「話を聞いただけで理解する」
ということは、
「河合刑事が、相手の話を理解できることに特化している」
ということになるわけで、しかも、
「山崎刑事が、相手が理解できるだけの話術というものを持っている」
ということになるということとの、
「二本立て、秋元刑事を完璧な刑事ならしめる」
という感覚になるのだろうということであった。
そんな捜査員4人と、もう一人の鑑識官であるが、彼も、年齢的には、刑事たちと変わりがないくらいで、実際に、役職があるわけでもない。
「正式な捜査会議ではない」
ということで、
「君がいけばいい」
ということになったのだが、現場では、よく若手刑事から声を掛けられていて、顔見知りになっていたので、河合刑事とも、山崎刑事とも、ほぼ顔見知りであった。
この鑑識官は名前を、
「一色鑑識官」
というのだった。
一色鑑識官は、
「人懐っこさ」
というのが、特徴だった。
鑑識官としては関係ないように思われるが、刑事たちとの話の架け橋ということで、それぞれに、欲しい情報を得ることができるということで、重宝されるというところでああった。
その彼が参加してくれるというのは、鑑識としても、もちろん、その意識をもって送り出しているということで、K警察は、結構署内では、
「人間関係においてはうまく行っている」
と言ってもいいだろう。
この捜査会議が開かれる前に、初動捜査から得られた情報としては、前述のように、
「死亡保険金というものが、奥さんに掛けられていた」
ということであった。
実際には、その経緯については、夫婦間のことであり、しかも、本人が死亡しているということで、分かるわけはないのだが、そのことは、
「殺害の動機としては十分」
ということで、今のところ浮かんできた容疑者としては、
「奥さんが怪しい」
ということであった。
もちろん、近親者から疑うというのが鉄則なので、それも当たり前のことであるが、
「いきなり、まるで判で押したような事実が飛び込んでくるなんて」
というのは、あまりにもできすぎていると言ってもいいだろう。
しかし、考え方として、
「旦那が保険金を掛け、その受取人が奥さん」
というのは当たり前のことで、最初こそ、その金額に少しびっくりはしたが、旦那の年齢と、その立場を考えれば、あり得ないことでもなかった。
今回の捜査会議では、初動捜査での話に終始するしかなかったわけで、その報告がなされると、
「最初の目撃者というのが、何やら不可思議な話だったということだね?」
「ええ、そうですね。何か、車の中で、ふしだらな行為をしているように見えたということでしたが、それが気になって翌日来てみると、実際に殺されていたということだったんですね」
話は、樋口刑事と、桜井警部補の間で行われた。門倉警部は黙って聞いていて、河合刑事は、
「補足できることがあれば、補足する」
という態勢を取っているのであった。
「目撃者は、何に対して、そんなに違和感があったんだろう? その人物を知っていたわけではないんだろう?」
「ええ、そういっていました。ただ、目撃者の話としては、被害者の行動がいかがわしいということで、彼としては、その怒りに燃えていたというように、話からは感じましたね。だから、話とすれば、こんなところでしなくてもいいのにと感じながら、よほど文句を言おうかと考えたということでしたね」
と言って、河合刑事の方をチラッと見たので、河合刑事も、それを察したのか、軽く一度頷いた。
その行動を桜井警部補も見ていて、相変わらずの樋口刑事の話に信憑性があるということを再認識したのだった。
「なるほど、それなのに、再度戻ってきたということは、冷静になって考えると、怒りだけでは説明がつかない何かが、その人にはあったということかも知れないな」
「ええ、確かにそうだと思います」
それを聴いた桜井警部補は、
「だとすると、目撃者が、車の中の人物を知らないと言ったのも、信憑性に欠けるのではないか?」
という。
「ん? それはどういうことですか?」
「分からないかね? 目撃者はあくまでも、その人の行為をけしからんということで、怒り心頭だったということだろう?」
「ええ」
「だとすれば、冷静になったとしても、気になってしまって、再度確認しようと、わざわざ翌日に非番にも関わらず、行ってみるかい? 何といっても、その時間には、自分ではないが、同僚が掃除したり、見回りをしているわけなのではないかな?」
と言われて、ハッとしたように、
「確かにその通りですね」
と樋口刑事は口にしたが、そもそもがポーカーフェイスなので、あまり余計なことを言っていないように思われたのだ。
「そうなると、二人は顔見知りだったのではないか? という疑問も浮かんでくるわけで、それ以上に、目撃者の男性が、本当に気になるのであれば、再度戻ってみなかったのか? といえるんじゃないかな?」
と桜井警部補は言った。
「その件に関しては、目撃者としては、そこまでは感じなかったとは言っていますが、確かに、言っていることに矛盾があるような気がしますね」
という。